いわゆる「消費減税」論が、コロナ禍の家計支援策のひとつとして再び熱を帯び始めている。与野党の一部議員からは、コロナウィルス感染拡大への対応策として、消費税の減税を求める声が挙がっている。これを受けて、菅義偉官房長官も7月29日の記者会見で「社会保障のために消費税が必要である」という税の存在意義に言及することとなった。

 確かに、コロナ禍中の政策として海外では消費減税に踏み切る国々も見られはじめた。ドイツは先月から半年間、日本の消費税に相当する付加価値税を19%から16%(食品は7%から5%)に減税した。そのほかにも、20以上の国々が消費税の減税を実施している。

 日本では、日本維新の会が消費税を現在の10%から一律8%へ減税する法案を提出しており、これを支持する家計の声も小さくはない。しかし、消費税の減税措置は以下の3点で問題があるため、別のアプローチが検討できないかを今回は考えたい。

●8%への減税では、家計の負担はそれほど下がらない

 実は、消費税を10%から8%に減税したとしても、家計に及ぼす負担軽減効果はほとんどない。総務省の家計調査データから、モデルケースである「親2名・子1名で世帯年収600万円世帯」の消費税減税効果を確認したい。

 まず、消費税の対象となる支出は、今回の場合、月額でおよそ28万円であった。ここから消費税のかからない「家賃」や、すでに税率8%の「食品」を差し引くと、減税効果のある出費額は18万5236円となる。この部分に2%の減税を当てはめると、減税効果は月額で3705円となる。これでは、年間でも家計に対するインパクトは4万4457円に過ぎず、世帯人数でこれを割ると1人あたりの年間効果は1万4819円にとどまることとなる。

 4月に給付が決定した定額給付金では3人世帯で30万円が給付された。これを踏まえると、消費減税という見た目の壮大さに比べて、4万5000円程度というのは効果は小さいと思われないだろうか。

●消費税の減税は高所得者に有利?

 上記では家計調査の統計値(平均値)から年間で4.4万円程度の負担軽減効果があると推定したが、実際にこの規模の負担軽減効果を得られるのは、全国民の半分以下にとどまるだろう。厚生労働省が公表している国民の世帯年収の中央値は427万円であり、家計調査の統計値よりも3割程度低い。少数の富裕層や高所得者層が統計値を押し上げることで、消費減税の負担軽減効果も3割程度上振れしている可能性がある。

 生活が困窮すると、収入に占める食費の割合(エンゲル係数)が上昇する。食料品はかねてより軽減税率の対象となっていることから、8%の減税では生活困窮層は減税の恩恵に預かることが難しい。

 つまり、消費減税の負担軽減の恩恵を最も受けるのはエンゲル係数が小さく、消費支出額の高い富裕層・高所得者ということになる。これでは「コロナ禍で苦しむ国民を救う」という消費減税の趣旨と真逆の結果になりそうだ。

●消費税の変更にはコストがかかる

 消費減税には小売店での表示変更対応やシステム改修といった社会的な対応コストも大きくなる可能性があるが、実施のためにかかるコストはこれだけではない。

 消費増税に駆け込み需要増があるとすれば、消費減税という政策は減税までに需要の減少をもたらす。消費税の減税には関連するさまざまな法令の改正が必要であり、それまで財布の紐を固く閉じていた消費者が減税までの数カ月間、いっそう消費を控えるおそれがある。

 ひとたび減税されれば消費額が増加する可能性こそあるものの、コロナ禍における要支援対象はキャッシュフローがおぼつかない企業や個人事業主ではないか。コロナ倒産例が緊急事態宣言後から月間100件程度の高い水準で推移し続けている点も踏まえると、キャッシュフローが危うい企業に、需要が増加するまでの数カ月間、手控えによる需要減を耐えるように仕向けることはいささか酷だ。

 また、減税までの手控えは、マイナポイントやGo Toトラベルなどとといった既存の需要喚起策とバッティングし、これらの施策の効果も減少させる。

 これらを踏まえると、消費減税はコロナ禍中における支援策としてはややスマートさを欠いている。それでは、これらの問題を解決するアプローチは他にないだろうか。

●社会保険料の引き下げ余地あり?

 支払いの際などに目につきやすい消費税が減税論争の的となっているが、口座に振り込まれる前に天引きされる費目については、メディアも国会議員も無頓着なのかもしれない。勤労者世代にとっての第二の税金とも呼ぶべき「社会保険料」について引下げないしは増額幅の縮小余地がないだろうか。

 国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障費用統計」によれば、社会保障給付に充てられる財源121.3兆円のうち、39.2兆円と3割程度を占めるのが「医療費」である。コロナ禍で一見、医療費は高騰しているイメージを抱く方もいるかもしれない。しかし、実際のところコロナ禍は医療費を減少させている。

 社会保険診療報酬支払基金によれば、2020年4月の時点で医療費は前年同月比で10.2%減となっていた。コロナウィルスの感染を避けるために、不要不急の来院を控える動きがあったり、各種の感染対策によって、コロナウィルス以外の病気にかかる人数も減っていたりすることが要因として挙げられる。そうであるとすれば、足元でも未だコロナ禍終息の兆しが見えない20年は医療費が前年比で大幅に減少するとみられ、その分を社会保険料の負担軽減に充てることができるのではないか。

 社会保険料は消費税と異なり、収入に応じて負担割合に傾斜がかかる費目である。消費税のように全員に一律で負担軽減を行えば、その効果は微々たるものになるかもしれない。しかし、所得が低下したり、所得が低いことでコロナ禍による影響を強く受ける国民に対しては軽減率を高め、コロナがビジネスチャンスとなり収入が増加したような高所得者には通常の料率で社会保険料を計算することで、より公平に支援を分配できるのではないだろうか。

 ただし、この施策は消費税と異なり、年金で生活する高齢者が恩恵を得にくい。消費税の減税を支持する現役世代の声も少なくないことや、高齢者の支持が政局を左右する現状からすると、政治家にとっては高齢者の支持を得にくく、現役世代からもあまり声が挙がっていない社会保険料をわざわざ論点にするよりは、キャッチーな消費減税を話題とする方が立ち回りとしては賢いのかもしれない。

(古田拓也)