大戸屋ホールディングス(以下、「大戸屋」)への敵対的TOBを成功させ、ほとんどの経営陣を入れ替えると公表した外食大手コロワイドが場外乱闘に巻き込まれている。

 デイリー新潮が7月に公開した「コロワイドは債務超過に陥りかねない」という記事が原因だ。

 コロワイドはその内容に「看過し難い虚偽の情報を含んでいる」と、非常に強い調子で反論し、「虚偽の報道によって当社の名誉・信用を毀損するものとして、新潮社に対する法的処理を講じてまいる所存」という公式リリースまで出している。

 記事で書かれていることは、「コロワイドが資産として計上しているのれんに価値は無く、のれんが消えれば債務超過に陥る」といった内容だ。会計知識に詳しくない人には一体なんのことやら? と思われるかもしれないが、これはコロワイドが買収を繰り返してきた状況と大いに関係がある。

 この場外乱闘には、のれん、無形資産、減損といった「企業価値とは何か?」を理解するために必要な要素が多数含まれている。筆者は公認会計士として、監査や経理、ファイナンスの分野で12年勤め、現在は会計コンサルティングを行っている。そんな立場からこの騒動を考えてみたい。なお、本稿は一般読者向けに分かりやすい説明を優先した、平易な言葉遣いや表現とした。

●のれんとは何か?

 コロワイドが大戸屋へのTOBを開始する直前、デイリー新潮は7月6日掲載の記事「コロワイド、大戸屋プロキシ―ファイトに敗れて…前門の虎と後門の狼」で、コロワイドのバランスシートに計上されている「のれん」は価値が認められないと書いた。

 バランスシート(日本語では貸借対照表・たいしゃくたいしょうひょう)は決算書の1つで、企業の保有する資産と借金(負債)が記載されている。貸借対照表は、左側には企業が保有している資産が掲載されていて「企業がどのようにお金を保有・運用しているか」が分かる。これを「資産」という。

 右側は「企業がどのようにお金を調達したのか」を示している。これらのお金は、銀行から借りたお金など返す義務のあるものは「負債」とされ、株主から調達した返す義務のないものが「純資産」として区別されている。

 貸借対照表において、左側の資産から右側の負債を差し引いたものが「純資産」となる。これは、企業の実質的な資産をあらわしている。

 例えば銀行口座に100万円の貯金があれば、100万円の「資産」があることになるが、反対側の負債・純資産も含めて見れば銀行から借金で調達したのか、それとも株主から調達したのかで状況はまったく異なる。

 個人で考えれば、貯金を100万円持っている人でも、クレジットカードの借金が100万円残っていれば実質的な保有資産(純資産)はゼロだ。このように保有と調達、両方の視点から考えることを「複式簿記」という。

 デイリー新潮の記事で取り上げられた「のれん」は資産の一種だ。現金や株、土地、建物などは分かりやすいが、のれんは「無形資産」と呼ばれ、文字通り形の無い資産だ。これは「企業を買収するときに発生する資産」という説明になる。さきほどバランスシートで説明した、企業の実質的な資産(=純資産)以上の値段で買収したとき、その差額をのれんと呼び、資産として計上する。

 例えば純資産が100億円の企業を150億円で買収すると、買収した側の企業にのれんが50億円発生することになる。

●無形資産とは何か

 資産というと、建物や工場などの目に見えるもの・形があるものがイメージされやすいが、すべてが目に見えるものとは限らない。

 代表的なものとしては、PCやスマートフォンにインストールされるソフトウェアやアプリケーションであろう。これらは、目に見えないものの、企業にとっては日ごろの業務を効率的に実施することができ、価値があるものとなる。そのため、「無形資産」として認識される。

 現代においては無形資産がより重要になってきている。GAFAMと呼ばれる世界トップの時価総額をもつIT企業も、提供しているものの多くが無形資産だ。ソフトウェアやシステムなどの無形資産にこそ、価値があるという時代へ進んでいる。

 のれんもまた、目には見えなくとも付加価値を生み出す資産ということになる。

●減損とは何か?

 減損というワードがニュースでたびたび報じられることがある。目にしたことがある人も多いだろう。減損とは、採算の取れなくなった資産の価値を下げる処理のことだ。

 例えば家電エコポイントの終了後、液晶価格が大幅下落したためにシャープは減損で巨額の損失を計上した。工場に対する過去の投資額に対して、液晶パネルの売値が極端に低下してしまい採算が合わなくなったためだ。

 買収で発生したのれんも減損の対象となる。純資産より高値で取得したということは高い収益を期待していたことになるが、それが実現できそうにない……となればルールにのっとって減損をする必要がある。

 先ほどの例でいえば、純資産100億円の企業を150億円で買収して50億円ののれんを計上したが、収益力がガタ落ちしてのれんの価値が吹き飛んでしまった、という状況であれば50億円の減損を特別損失として計上する。

 損失の計上時に50億円のお金を失うわけではないが、過去に買収した150億円の企業の価値が100億円まで下落してしまったことになる。

●のれんと減損

 買収で発生したのれんはバランスシートの「無形資産」に計上されると説明した。そしてデイリー新潮の記事が指摘したのは、そののれんが消えてしまえばコロワイドは債務超過に陥るという話だ。

 のれんは純資産より高値で企業を取得した際に発生する。企業の価値は保有資産だけで評価されるわけではなく、生み出す利益(正確にはキャッシュフロー)によっても評価される。

 保有資産より高値で取得する理由は、この将来得られるであろう利益を当て込んだものだ。これを超過収益力と呼び、のれんを資産として計上する根拠となる。

 当然のことながら超過収益力が落ち込めばのれんは消えてしまい、バランスシート上から消す必要がある。これがのれんの減損ということになるが、デイリー新潮では独自の計算式でコロワイドが計上しているのれんに価値はない、「超過収益性を持つというのは詭弁(きべん)」と厳しく指摘した。

 具体的には677億円分ののれんが本来減損されるべきで、これはコロワイドの純資産250億円を大幅に超えている、だから427億円の債務超過、つまり資産を全て処分して負債を返済しても427億円の負債がまだ残ってしまう状況であると指摘している。

 これが事実であればコロワイドの株は価値がゼロの紙クズということになりかねず、そしてそのような状況をコロワイドが隠しているのであれば粉飾決算になってしまう。

 冒頭で書いたようにコロワイド側が「虚偽の報道によって当社の名誉・信用を毀損するものとして、新潮社に対する法的処理を講じてまいる所存」と強く反発をした理由はこのような事情があるからだ。

 ではコロワイドは実際に債務超過に陥っているのか? それをごまかして粉飾決算をしているのか? デイリー新潮の指摘が正しいかどうかを知るには、のれんの減損がどのように行われているか知る必要があるが、これは次回の記事で解説をしたい。

→後編:減損テストから見る、コロワイドが新潮にブチ切れた理由