ようやく。というタイミングでヤリスクロスを公道で試すことができた。すでに8月31日から発売されており、読者の中にもディーラーで試乗を済ませている人もいるかもしれない。

●オールラウンダー

 さて、7月27日の記事ではサーキット試乗会での印象をすでに書いているのだが、その時の感想を一言で言えば「オールマイティ」だった。この印象は公道で走らせてみても同じどころか、より一層堅固になった。

 ケチの付け所が極めて少ない。トヨタ肝煎(きもいり)のTNGAは、プリウスでデビューしたGA-C、カムリでデビューしたGA-K、クラウンでデビューしたGA-Lと続いてきて、大トリとしてヤリスで加わったのがGA-Bプラットフォームだ。開発が手慣れ、ノウハウが蓄積した分進化している。

 具体的には運動性と乗り心地に優れている。コンパクトでスッキリしたデザインながら、SUVらしく、ベーシッククラスとしてはそこそこ上級感も感じさせる。

 ヤリスより上背があるので、運転視界も向上している。シートもトヨタのひと頃のシートからは、とても想像できないくらい良くなっている。おそらく国内Bセグのシートとしてはベストだろう。

 原稿を書く側にしてみると非常に困るクルマだ。何か得意な芸があって、そこに集中して説明すれば伝わるというクルマではなく、オールラウンダー型の車両なので良いところを挙げていけばキリなく、それを全部書いていては冗長になる。かといって端折ると正確ではなくなる。正直だいぶ困っているのだ。できる限り論理的に説明を試みるが、今回は止むを得ず表現が文学的になるかもしれない。

●「すごい」と思わせるような違和感がないところがすごい

 ひとまずパッケージから話を始めるとしよう。運転して最も感じるのが、確信を持って走れるクルマの見切り感だろう。これには当然第一義的にはコンパクトなボディーサイズが関係しているが、それだけではない。視界の良さと、違和感の少ないドライビングポジション、車両感覚のつかみやすいボディ形状がそれを後押しし、さらに繊細な車速制御を可能にしてくれるパワートレインがあり、シュアだが神経質でない操舵系も影響している。ブレーキまでもが、あつらえたようにしっくりくる。要するに総合力が高い。

 しかしそれらの美点は各々、決して衝撃を与えるほど出しゃばらない。英語のことわざでは “A new broom sweeps clean” 「新しいほうきはよく掃除する」というが、機能向上も追加機能も全くこれみよがしでない。あたかも履き慣れた靴のように、ごくごく自然で当たり前。「すごい」と思わせるような違和感がないところがすごい。

 そういう意味では、人生の中心にクルマがあるような人にとっては、「役」が乗っている感じが不足して、もしかしたら物足りないかもしれないが、自分の生活を支える道具としてこれだけ全てに穴がないクルマを探そうと思うと難しい。

 読者に正直であろうとするならば、まあ一応断っておかなければならないのは、1590ミリと立体駐車場にはチトきつい車高だ。わずかではあるが完璧とはいえないペダルオフセット、そしてノイズである。

 元々TNGAは素養として、床板の遮音が玉に瑕(きず)なところがある。そこへ持ってきて板厚や遮音材をおごれないBセグメントだから、床回りの音はまあ静かとはいい難い。加えて絶対トルクの限られた小排気量エンジンと、パワーが必要な時は回転を上げるマネージメントのCVTの共演となれば、ここは弱点といえば弱点ではある。

 Bセグだと思えばこのあたりが平均値であるのも事実だが、見方を変えて、最高値だと300万円に近いクルマとすると、そこは少々厳しくいいたくなる。このあたりは自分の許容範囲に収まっているかどうかをそれぞれに判断してもらうしかない。

●グレード別の乗り味

 メカニズムの構成はざっくり3種類あって、一番シンプルなのが、1.5NAのガソリンFFだ。これはサーキットで乗ってもそうだったが、ちょっとばかりヤンチャな仕立てに感じる。鼻先が軽く、ハンドリングがキビキビしており、車重はグレードによって多少違うものの、AWDも含めて1100キロ台前半に収まっている。

 旧ヴィッツの1リッターモデルのような、ヘロヘロの廉価モデルを想像するとだいぶ違う。むしろアシの印象は一番ハードだ。エントリーモデルというより、むしろファン to ドライブ派に向けたプチスポーティモデルだと思う。これで足りないならば、ヤリス・ファミリー全体としては、ほかに選択肢が用意されている。110キロ軽くて重心が低いヤリスはもう少し俊敏(しゅんびん)だし、まだ足りないなら欧州版のヤリス同様にワイドトレッド化したGRヤリスのFFモデルも、果てはラリーウェポンのGR4もある。お好みのままに選べるが、それはあなたの財布次第である。

 ちなみに、大勢の自動車ジャーナリストが乗り回した後のオンボードの実燃費でも15キロは超えていた。見ていたわけではないので、確証があっていうわけではないが、ぶん回した人も結構いたと思うので、どれだけ踏んづけても、多分これ以下になることはないと思う。ちなみに先ほどちょっと触れたように、必要とあらばこのガソリンモデルでもAWDが選べる。

 FFのハイブリッドはおそらく中心となるモデルで、これは一番穏やかな性格だ。現行カムリがデビューした時、ぬるめの温泉につかって、開放感で全身の凝りがほぐれるような安心感を感じたが、これがやはりそういうモデル。そういう癒しと寛ぎがありながら、しっかりもしている。歴代クラウンに通じるこれこそが、実はトヨタにしかない味なのではないかと思う。しかもこれは30キロくらい走る。積雪地帯を除外すれば、都市内の日常生活で使うクルマとして本命はこれだろう。

 さて、そうなると残るのはハイブリッドにe-FOURを組み合わせたAWDモデルだが、用途的にみれば、ウィンタースポーツなどのレジャーを志向する人ならこれがベストなのはわざわざ書くまでもない。舗装路での印象を見れば、温厚なFFの性格に対して、e-FOURにはもう少しハキハキした有能系の高精細感がある。

 元来の素質がオールラウンダー系であるヤリスクロスに、悪路走破性を拡張搭載しているわけで、普通の人が入っていく気になる路面なら、おそらく走れないところはない。

 今回片側の前後、あるいは対角線の前後のタイヤが空転するような厳しいテストをトヨタが組んでいたのだが、モードスイッチの切替えでどちらも難なく脱出できた。エンジンの出力制御とブレーキつまみによる擬似LSDによるもので、作動中はギーコギーコとうるさいし、デフロックを備えるクロカン四駆の世界から見れば本格的とはいえないが、能力的には十分以上。新車購入時についでにスタッドレスも調達しておけば、本当にどこにでも行けるし、そうやって日本狭しと走り回ったとしても燃料代に泣かされることはない。

●運転支援

 ADAS(高度運転支援)の出来がまた良い。ひとり別世界まで到達してしまったアイサイトX(関連記事:日本勢の華麗なる反撃 アイサイトX )を除けば、国内の全階級で見てもトップレベルだろう。Bセグメントに限れば、現状で一番といえる。ただし日進月歩の世界なので、暫定であることは念を押しておく。

 レーダークルーズの加減速はかなりうまい。ヤリスでは時速30キロ以下では作動しなかったが、ヤリスクロスでは全車速対応になったし、渋滞で止まったところからの再スタートも速度調整トグルを加速側に上げれば、セットしていた速度で再スタートできる。

 走行車線が詰まって、空いている追い越し車線に出た時の加速レスポンスはもう少し上げてもらいたい気はするが、逆よりはずっと安心できる。高速にしてはキツめの右コーナーでは、ひとつ左の車線の先行車に速度に合わせてしまうケースもたまにあるが、2020年のADASの現状としてはその程度の精度がトップグループのポジショニングである。それでも昔に比べれば格段の進化だ。特殊なケースでだけ機能していたものが、むしろ例外ケースに気をつければ任せられるようになった。

 美点としては、そこそこの速度差で前車に追い付いた時の減速が穏やかで不安のないものであること。ドライバーの判断より遅く減速が始まるのはどうも怖くていけないが、そうなっていない。

 ステアリングアシストは、あまり積極的な方ではないが、少なくともドライバーの邪魔をしない。ドライバーの操作に逆らって車両位置を勝手に変えようとしないし、とにかくハンドルを切りさえすれば、主導権をすんなり渡してくれるので「こいつとは気が合わない」ということは起こらない。

 ヤリスにも設定される、オプションの駐車アシスト「アドバンストパーク」は使いやすさの点でも、枠に対してまっすぐかつ真ん中に停める精度でもこれまでになかった水準で、筆者はかなり気に入っている。

 さて、最後にそれ以外のユーティリティについてもまとめておこう。ラゲッジスペースにはゴルフバッグが2つ入るし、旅行用スーツケースも2つ収容できる。Bセグとしてはかなり優秀だ。さらにリヤシートが4:2:4の3分割で、中央部を倒せば、長尺物を積んで4人乗車が可能だ。

 さらにリヤゲートは、キックモーション、つまりバンパー下に足を差し入れれば開け閉め共に可能な電動ゲートで、動作速度も早い。重い荷物を持ったままテールゲートが開くのをじりじりしながら待たなくていい。

 ということで、筆者としては、内容的に見てこれは国民車といっていいと思う。まあ昨今経済格差が開いているので、価格的に最廉価モデルが179.8万円、最高値で281.5万円をどう見るかという問題は残るかもしれないが、バリュー・フォー・マネーであることは間違いない。

(池田直渡)