新型コロナウイルスの流行を受けて、4月7日に出された緊急事態宣言は働き方を大きく変えた。

 中でも急激に拡大したのが、リモートワークだ。うまくいった企業もそうでない企業もあると思うが、満員電車を避けられる、通勤時間が不要になる、という部分だけ見ても、好意的に受け入れた従業員は少なくないだろう。

 カルビーなど単身赴任を取りやめる企業が出てきたり、不要な出張がなくなったりするといった変化も生まれた。「働き方の変化」は経営者側から見れば「雇い方の変化」となる。アフターコロナで雇用はどう変わるのか?

●雇用の意味が問われるアフターコロナ

 自宅では仕事に集中できない、VPNが遅い、コミュニケーションが取れない、サボっていても分からない、セキュリティが不安、管理職は寂しいetc……。リモートワークに関するこのような不満の声は、当初は多数聞かれたが、いずれも慣れや技術的な問題であり、解決不可能ではない。

 特に、戦場並みともいわれる満員電車のストレスから解放された従業員側のメリットは大きい。今後はリモートワークが可能かどうかが企業を選ぶ条件の一つになるだろう。好きで満員電車に乗りたい人はいないからだ。

 従業員の通勤がなくなったり、週1回や月1回と大幅に減った場合、企業側からすれば交通費の負担が減るとともに、広いオフィススペースも不要になる。小さなオフィスに移転するといった話も、最近ではすでに珍しくなくなった。

 従業員は通勤にかかる手間と時間が減り、満員電車も避けられる。企業側は交通費や家賃を減らすことができる。とはいえ、これらリモートワークによる変化は、雇用の変化の入口にすぎない。

●リモートワークでは「雇用」が都市を脱出する

 総務省が8月27日に公表した、2020年7月分の「人口移動報告(外国人を含む)」では、7月に東京・神奈川・千葉・埼玉から転出した人が転入した人を上回った、つまり東京圏から人口が地方へ流出したと話題となっている。

 「通勤が不要になったことで、都市部に住んでいた人が物価の安い地方へ脱出した結果だが、これが進めば都市部の不動産価格が暴落することになる」

 今回の調査結果で、まことしやかに語られていた「都市部の不動産価格暴落」が数字で裏付けられたようにも見えるが、実際には転出超過はわずか1459人にすぎず、コロナが収まれば元に戻る程度だ。数が少ないことからも、こういった動きは一部にとどまると考えられる。というのも、現在の職場がリモートワーク可能でも、転職後も同じように働けるとは限らず、また定年退職の年齢まで今の会社が無事に生き残っていると信じているような人もいないからだ。

 つまり、今後都市を脱出するのは、雇用される側ではなく雇用する側だ。

 国内の給与水準は都道府県ごとに大きく異なり、都市部と比べて賃金が何割も低い地域は多数ある。そうしたなか、リモートワークが可能な都市部の会社としては、同じ賃金なら地方の方が優秀な人材を確保できるし、同じ能力の人材なら地方の方が安く確保できると考えられる。そうなると、給与水準の高い都市部でわざわざ採用する必要がなくなってしまう。

 出勤をゼロにできなくても、例えば月に1度で良いのなら、東京の会社が沖縄や北海道に住んでいる人を雇うことも問題はない。

 さまざまなアシスタント業務をオンラインで行う「キャスター」では、出社義務のないフルリモートでの働き方が14年から定着しており、その数は700人に上る。そしてスタッフは全国45の都道府県に散らばっており、東京以外の在住者は8割を超えるという。

 このような話題は国内にとどまらない。賃金水準が圧倒的に低い地域で人材を雇用できるのなら、手間をかけても海外の人材を採用するメリットは大きい。製造業が人件費の安いアジアへ工場を移転したように、同じことがオフィスワーカーでも発生していくだろう。

 そしてコロナ禍を経て「在宅勤務でも仕事は案外回る」と実感した経営者のなかには、こんな違和感を覚えた人も居るだろう。

 在宅勤務で問題が起きないなら、雇用と外注の違いって一体何だ?

●リモートワークが経営者の意識を変える

 8月に、元ホームレスの社長が会社を上場させたと話題になったサンアスタリスクは、ベンチャー企業のIT支援を行う会社だが、そこで活躍しているのはベトナムに抱えている1000人以上のエンジニアだという。

 各社の国内のコールセンターが、北海道や沖縄など人件費の安い地域、場合によっては中国にあることはすでに知られている。筆者もつい先日、NTTのコールセンターへ問い合わせをしたところ、オペレーターに若干の北海道訛りがあると感じたが、話を終えたオペレーターは、やはり北海道のコールセンターであることと名前を告げて電話を切った。これと同様に米国のコールセンターはインドに多数あるといった話を知っている人も多いだろう。

 ソフトウェアの開発やコールセンター業務など、企業から切り離して運用しやすい部門は外部委託され、地域も問わない。そしてコーポレート部門と呼ばれる人事・経理・総務などもすでに外注されているケースがある。

 そこまで考える企業なんてごく一部だから、話が極端すぎる、と笑う人がいるかもしれないが、かつてNHKスペシャルで「人事も経理も中国へ」と題して、国内のオフィスワークが海外へアウトソーシングされるという話が放送されたのは10年以上も前の07年だ。

 「コロナは変化を加速させた」といった表現があちこちで使われているが、外注できない仕事はすでになく、外注先も国内に留まらない。

 先ほど紹介したNHKスペシャルでは、インフォデリバーという企業の中国・大連センターが、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業務を受託した企業が、業種別に紹介されている。

 全116社中で最も多いのが、リモートワークが適している「IT企業(ITサービス、情報サービス企業)」で33社あった。続いて「流通/運輸・卸売/小売/通販会社」が26社、「製造業・通信会社」が18社となっている。流通、小売、製造業は、いずれも利幅が薄いがゆえにコストダウンを強く求められるものの、あらゆる工程に多数の企業が関与しているため、外注に抵抗がない業種といえる。当時番組で取り上げられた企業にも、通販大手のニッセンがある。

 一方、受託の実績が最も少ないのは「銀行(メガバンク)・信託銀行」の2業種だが、これらはセキュリティ的な問題で外注、特に海外には仕事を出しにくいと考えられる。

 同社の導入実績を見ると、ある程度の傾向が見て取れるが、今後はこういった傾向にも間違いなく変化が生まれるだろう。

●雇用と外注の境界線が曖昧になる

 雇用の話がいつの間にか外注の話に変わっていると思われたかもしれないが、リモートワークによって会社の外で仕事が行われれば、状況は実質的に外注と同じだ。

 仕事を会社の内部で行うか外部で行うか、社員が行うか外注先が行うか。これらは、従来ハッキリと区別されていたが、在宅勤務で可能な仕事は外注でも可能になり、そうなれば場所にこだわる必要もない。

 ここで言いたいのは、全ての仕事が海外に外注されるということではなく、リモートワークによって雇用と外注、オフィスと自宅、都市部と地方、国内と国外といった、これまで明確に存在していた境界線が曖昧になることを意味する。

 さらに、近年急激に増えている副業の話も加えると、ある人が本業の仕事をリモートワークで行って、副業も自宅で行うというケースが出てくる。そうなると複数の取引先があるフリーランスと同じで、「本業」は売上の割合が大きい取引先くらいの扱いだ。つまりリモートワークの普及は、働く側も雇われる意味を考えるキッカケとなるだろう。

 すると、これまでの常識だった、企業の根幹を成す重要な仕事は、軽々しく外注に出されないはずだ、地方や海外でリモートワーカーに任せるわけがない、という思い込みは勘違いということになってくる。

 これまでも税理士や社労士、弁護士など、重要だが社内では片付けられない仕事は、大手から中小企業まで日常的に、外部の専門家に依頼されている。

「在宅勤務で可能な仕事は外注が可能、外注が可能なら場所にこだわる必要なんてない」

 この考え方を進めていくと、経営者は「社員を通勤させる意味は何か?」「外注でも可能な仕事を、あえて社員を雇って行う意味は何か?」と、雇用の意味や必然性を考えざるを得なくなる。

 企業は、業績が悪化しても軽々しく解雇はできず、社会保険料の負担も重い。雇用契約を結ぶことで社員の労働力を自社の業務へ独占的に使えるメリットはあるが、多数の社員を抱えるリスクやデメリットも当然ある。

 リモートワークで選択肢が広がったのは従業員だけでなく企業側も同様ということだ。

●再度、フラット化する世界

 業務のリモート化によって「外国人の雇用が容易になるメリット」は、低賃金に限らない。給料さえ払えば、世界中の優秀な人材を雇用しやすくなる点も極めて大きい。

 労働者にとっては世界中の人がライバルになる一方で、優秀な人材にとっては世界中の企業が就職先になる。雇用で場所による制限が消えることは、働く側も採用する側も競争が激化することを意味する。

 そしてこのような状況は05年に書かれた、トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」という書籍でとっくに示されている。

 「フラット化する世界」を乱暴に要約するならば「ITによって地理的・距離的なハードルが思い切り下がり、世界のどこにいても同じ条件で経済的な競争が行われる」という内容になる。やや古臭い言葉を使うならばIT革命的な話になるが、この状況はコロナによってさらに加速した。

 今年7月の「コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発」という記事で言及したように、在宅勤務が可能なツールと環境は10年前、場合によっては20年近く前にすでに普及していた。Skypeの誕生は03年で、その頃スマートフォンはほとんど普及していなかったが、メールは当たり前であったし、ブロードバンドも一般化しつつあった。つまりIT化といっても、コロナで進んだのは技術面でなく、ツールを使う側の意識の変化であり、これを第二次IT革命といっても過言ではない。

 このように全世界で雇用がフラット化すると、賃金もフラット化する可能性がある。「先進国に住んでいるだけで高い賃金を得られる」「新興国に住んでいるだけで低い賃金に甘んじる」、こんな状況も熱湯と冷水が混ざるように徐々に解消されるかもしれない。先進国の労働者にとっては悪夢だが、新興国の労働者にとってはメリットだ。

 さらなるフラット化により、先進国の平均賃金が下がり、新興国の平均賃金を押し上げるのか、それとも皆が比較優位的にメリットを得られる状況になるのか。いずれにせよアフターコロナの雇用は、影響受けたり与えたりする範囲が恐ろしく広範囲になる。

●アフターコロナの働き方

 9月1日に公表された国内の完全失業率は2.9%。前月より0.1%の悪化だが他国と比べればまだ低い水準にある。しかしその陰には潜在的な失業者ともいえる多数の休業者がいる。

 緊急事態宣言下の4月には597万人と史上空前の休業者が発生し、その後は大幅に減ったとはいえ7月時点でも、依然として休業者は220万人、失業者は197万人だ。休業者も実質的に失業しているものとして計算すれば失業率は6%を超える。

 今後は休業者が仕事に戻れるかに加え、新たな失業者が増えるかが問題となる。コロナ禍の発生から半年ほど経過した現在では、企業が解雇に踏み切ったり倒産する事例が出てきてもおかしくない。失業率は景気の遅行指数といわれるように、すぐに改善することは考えにくい。

 業務のリモート化によるアウトソースの進行や、休業者や失業者の動向など、コロナが働き方に与える影響もいまだ結論は見えないが、アフターコロナの新しい働き方が少しでもプラスの効果を生むことを期待したい。

(中嶋よしふみ、企画協力:シェアーズカフェ)