コロナ時代の小売業はどうあるべきか。コロナ前の常識は捨て、Withコロナで生き残る企業になるためのシフトチェンジが求められています。それは、コロナ下で売り上げを大きく伸ばした企業にも当てはまります。巣ごもり消費によって、家の中で使用する商品の需要が高まりました。

 自宅のテレワーク環境を整えるためのオフィスワーク家具や、家の中を整理する収納家具がよく売れました。また、家事をする機会も増えたのでキッチン雑貨などのリビング系商品も好調でした。

 その恩恵を受けたのが家具・インテリア雑貨を扱うIKEA、ニトリ、無印良品(運営会社は良品計画)です。しかし9月に入って状況は落ち着きつつあります。ここまで好調を維持してきた3社。同業のように見られていますが、各社の考え方、経営方針、ビジネスフォーマットは全く異なります。巣ごもり消費が沈静化していく中で、各社はどのような戦略で勝負しようとしているのか。どこが勝ち続けるのか。流通小売り・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきたムガマエ株式会社代表の経営コンサルタント、岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。

●増収増益を続けるニトリ

 2020年度の期末着地予想を開示した企業(上場企業全体の66%が該当)が予想する当期利益予想の合計額は、18年と比較すると半減の見込みで、売上高は前期比1割減という状況でした(20年8月7日時点、出所:「上場企業の純利益36%減、減収減益6割 21年3月期予想」日本経済新聞電子版8月10日付)。

 この調査結果によれば、 今期「増収増益」を見込む企業は全体の2割程度。このうち、小売業では前回の記事で紹介した西松屋と、今回紹介するニトリが該当していました。ニトリは西松屋に勝るとも劣らない好業績が続いている企業です。

 緊急事態宣言の影響を一時期は受けながらも微減に止め、20年6月からは売上高、客数共に二桁増を続けています。8月までの半期累計で営業利益は前期比1.4倍。巣ごもり特需があったとはいえ、他に類を見ないほどの高い実績をあげています。実はこれはニトリだけでなく、無印良品(以下、無印)にも見られる傾向です。

 全国の商業施設に多くテナント出店している無印は、5月までは大きく売り上げを落としました。しかし、6月以降はニトリと同様、売り上げ、客数を二桁伸ばしています。ニトリ程ではありませんが、他の小売業がうらやむ伸び方をしています。

 月次数字は公開していませんが、これはIKEAでも見られる傾向です。郊外型でかつ超大型店でもあるIKEAは、その店舗特性を生かして顧客の支持を集めています。

 この3社はいずれもが同じような店舗展開で同じように業績を伸ばしているように見えますが、経営内容の実態は異なります。

 ニトリは絶好調で今期数十店舗以上の出店を加速し、現在の店舗フォーマットにさらに磨き込みをかける高収益型経営を志向しています。

 無印は世界では苦戦しています。米国のMUJI USAはチャプター11に基づく再生手続きを開始。良品計画は、20年8月期業績では29億円の経常赤字を予想しています。

 IKEAはグローバルではダントツの好業績であり、今後は都心を中心とした新業態開発に力を入れています。巣ごもり消費の勢いがなくなり始めるここからが、各社の本当の姿が見えてくる時期です。それでは各社の戦略の違いを見ていきましょう。

●各社の戦略の違いはPLに表れる

 ここで各社のグローバルな数字を見てみます。

 企業としての売上高が圧倒的に高いのはIKEA(INGKAグループ総売上)です。世界で4兆円を超える売り上げを誇っています。粗利率は3社の中では低いのですが、販管費率が27.6%と低く、もっともローコストオペレーションが徹底されているのが分かります。

 良品計画はニトリより海外出店数は多く、グローバル小売業のイメージも強いのですが、売り上げはニトリよりも2000億円少ないというのが実態です。営業利益率も8%以上ありますが、ニトリの16.7%と比較すると見劣りします。

 では各社の店舗効率に何か違いはあるのでしょうか。

 各社の店舗戦略は大きく異なっています。IKEAは世界の50以上の都市に1店舗8000〜1万坪の郊外型大型店舗を出店しています。1店舗当たりの売り上げは約100億円という巨艦主義で、商圏内のシェアを取る戦略です。ニトリは1店舗1000坪で約10億円の売り上げを上げる中型店を多店舗展開するという戦略。良品計画は500坪以下の店舗を商業施設中心に出店しています。1店舗約5億円の売り上げを上げる店舗を多エリアに出店するモデルです。

 店舗の出店フォーマットを見ると、各社の戦略は全く異なることが分かります。その違いは、各社の理念と関係します。

 ここからは各社のこれからの戦略に的を絞ってマーケティングのポイントを見ていきます。

●ニトリは家具からファッションへ拡大し、ビジョン達成を目指す

 ニトリの理念には「『ロマン』を原点に、『ビジョン』の実現をめざし続けます」とあります。ロマンとは、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」であり、ビジョンとは2032年に3000店舗、3兆円を達成することです。同社が成長すること=人々の住まいが豊かになるという信念で企業を拡大させているのです。そして実際に、ニトリは21年2月期に37期連続増収増益を目指すコロナ禍での勝ち組企業の代表格となり得ています。

 ニトリは21年2月期の業績を上方修正しました。毎年確実に増収増益を達成しています。そして、利益率も10%以上という高収益企業です。この数字を支えるのは、同社の出店政策です。

 毎年数十店舗を出店しており、20年度は64店舗の新規出店を予定しています。今年はコロナの影響もありSC内の大型テナントが退店するケースも増えます。その空いたスペースにも一気に売り場を確保しようという強気の姿勢です。1店舗出店すれば10億円の売り上げが積み上がる同社の出店フォーマットは、安定した企業の業績となって表れています。ECサイトも好調で売り上げの10%程度を稼ぐまでに成長しています。今後は店舗+ECでさらに売り上げを積み上げるでしょう。

 同社がこれから力を入れていくのはファッション。「N+」(エヌプラス)という働く女性のための洋服を企画し、コーナー展開し、通販サイトも立ち上げて強化し始めています。家具、インテリアからファッションへと事業領域を拡大し、売り上げをかさ上げしていく狙いです。

 商品の90%以上を海外生産することで価格を抑えたベーシックな商品政策、郊外型・大型店・車で行けるというニトリの店舗はコロナ禍の繁盛店の定義にもピタリと当てはまっています。

●無印は店舗の大型化と共に地域に密着した食の強化で売り上げ拡大を狙う

 良品計画の理念には「良品価値の探求 Quest Value 『良品』の新たな価値と魅力を生活者の視点で探求し、提供していく」という言葉があります。同社はこの良品に創業以来こだわってきた会社です。その良品を支えるためにはいかに業績を安定させるかが重要となります。

 良品計画は増収減益というのが今の実態です。利益率は悪くはないのですが、安定成長してきた数年の傾向からすると、その勢いがなくなっているようにも感じます。しかし、最近は店舗の大型化を推進しています。例えば、無印良品野々市明倫通り店(600坪、石川県野々市市)のような500坪以上ある店舗を開発しています。今後、同クラスの店舗を100店舗まで増やす計画です(19年末時点で41店舗)。また、店舗の大型化によって強化している部門があります。これが同社の今後の大きな戦略の柱になります。

 それは無印良品銀座店(1300坪、東京都中央区)に行くと分かります。今、一番力を入れているのは食です。

 地域の暮らしに貢献するという考えのもと、「店舗の土着化」をテーマに銀座店や京都山科店では食や飲食の強化を始めています。このコロナ禍でも食品の売り上げは50%近く伸びてています(20年7月)。まだ全体の8%程度の売り上げですが、これを30年までに30%まで高めようという計画もあります。ここにきてローソンへの生活雑貨を中心にした商品卸も始め、販売戦略がバラついている印象がありますが、地域密着型の店舗展開と食品強化に軸足が定められれば、さらに成長していくことでしょう。

●IKEAは都心型店舗展開で若年層を開拓する

 IKEAの理念は「より快適な毎日を、より多くの方々に」というビジョンのもとで、「優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるようできる限り手ごろな価格でご提供すること」とあります。

 創業が通販からスタートしたこともあり、いかに低価格で顧客のもとに商品を届けるかを追求してきた会社です。従って、できるだけオペレーションを効率的に行い、無駄なコストを削減し、顧客に提供する商品の価格をできるだけ抑えることを良しとしています。家具の部品を平たく梱包した「フラットパック」方式で物流を効率化し、割安な価格で大量販売するビジネスモデルで成長してきたというのが同社の戦略の核となる部分です。結果的にローコストオペレーションの徹底につながり、比較的低い粗利率でもグループ全体で3000億円以上の経常利益を上げるまでに成長したのです。

 同時に、同社はSDGs(持続可能な開発目標)達成に取り組む最先端企業でもあります。気候変動対策分野に年間純利益の70%相当を投資(16年度実績)したり、使い捨てプラスチック用品販売の中止をいち早く決めたりするなど、環境保護に対して徹底した施策を実行している会社です。再生エネルギー分野への投資や家庭配送用トラックを30年までに100%電気自動車にすると宣言しています。この取り組みは他社にも大きな影響を与えています。

 店舗展開では同社は都心型小型店開発に乗り出しています。

 「生活費が高く、狭い家」という世界の都心部に居住する人たちのための住まい提案をするというのが一番の狙いです。特に東京ではこのような暮らし方をしている人が多いからです。

 売り場面積は約800坪弱。JR原宿駅前のビルの1階、2階を使って売り場を作っています。店内は「都市部の暮らしのニーズ」を基本にして売り場分類を作っているのが特徴です。

 「眠る」「整える」「くつろぐ」「料理する」をテーマに売り場を構成。その関連商品を集積して、全部で1万アイテムを品ぞろえしています。

 IKEAは、間取りにあわせた具体的な部屋のイメージを提案する売り場を作ります。「1人暮らし向け」「低価格で実現する部屋」「都会に住む30代のカップルの部屋」など10個以上の部屋を店内で提案しています。都心の若者の部屋を実際に調査して作り上げたコーナー展開のため、かなりリアリティーのある売り場で、多くの若者たちを引きつけています。今後、渋谷のセンター街にある、もともとForever21が出店していたビルに1500坪ほどの新規店舗を開店する予定です(20年冬)。郊外大型店ではファミリーを固定化し、都心小型店では若者を囲い込む。IKEAは高い環境意識をベースに、ファミリーと若者の固定化により世界でのブランド力をアップさせていく方針です。グローバルに成長する企業の戦略は、マクロにもミクロにも強いという印象です。

 家具・インテリア雑貨小売りという同じような業種企業でも、これからの生き方はまったく異なります。Withコロナを生き抜く経営としてどの企業が支持されていくのか。コロナ時代の小売り業界の先進事例として3社の動向に注目したいと思います。

(岩崎 剛幸)