「ビールの概念に変革を起こしたい」というブランド理念を掲げ、2010年にスウェーデン・ストックホルムで誕生したビールメーカーの「Omnipollo」(オムニポロ)。

 創業者は、ブルワーのHenok Fentie氏(ヘノク・フェンティ)とデザイナーのKarl Grandin氏(カール・グランディン)。ブランド理念のとおり、ピーナッツバタークッキーやマンゴーラッシーなど、これまでのビールの常識をくつがえすようなフレーバーも多い。

 強烈な個性は、デザイナーのグランディン氏が手掛けるグラフィックアートにも現れている。統一された独特の世界観からは、アートに重点を置く彼らの強い意思が伝わる。

 20年8月、アジア初進出、日本初上陸として、日本橋兜町にビールスタンド「Omnipollos Tokyo(オムニポロス・トウキョウ)」をオープンした同社に、その狙いと展望を聞いた。

●アートを融合したフレーバー豊かなクラフトビール

 創業から約10年、現在は世界40カ国で自社ブランドのビールが販売され、欧州や米国を中心に人気を集めているオムニポロ。

 「ビールに対する人々のイメージを根底から変えたい」というビジョンを持ち、次々と革新的なフレーバーを生み出している。

 例えば、オリジナルアイスクリームペールエールはバニラビーンズをふんだんに使い、甘い香りと麦芽のフレーバーが心地よく溶け合う。また、マグナポリライトキャップスナックアップルパイストロベリーカップは、イチゴとリンゴの甘酸っぱさに絶妙な苦味が加わる。物珍しいフレーバーだけに「飲んでみたい」という興味をそそられる。それが、まさに彼らの狙いなのだろう。

 このようなユニークなフレーバーは、「日常的な食生活の延長で生まれる」とブルワーのフェンティ氏は言う。

 「例えば自宅でスムージーを作っていたとき、これをビールに加えることができるのではと思いついたのがフルーツビールの始まりです。実際にフルーツ、砂糖、牛乳、バニラなどを加えてみると、ミルクセーキやスムージーの要素を含むまったく新しいテイストのビールが生まれました。また、私はよく海外を旅していて、旅先で出会った食べ物にも大いにインスパイアされています」

 実は、フェンティ氏は過去にパティシエを目指していた時期があることから、スイーツにインスパイアされたフレーバーが多く存在するそうだ。

 現在、東京のバーで販売されているビールは全11種類。グラスで700円〜1800円(税込)という高価格帯で、スイーツテイストなど凝ったものほど価格帯は上がる。

 そして、もう1つオムニポロを語るのに欠かせないのが、デザイナーのグランディン氏が生み出すポップなグラフィックアート。

 ボトルにはブランド名は一切入っていないものの、オムニポロらしい世界観が十分に表現されている。「ライフスタイルブランド」と位置付けているように、ビールのみならず、デザイン性の高いTシャツやグラス、アクセサリーなども自社で製作・販売し、若い男性を中心に人気を集める。

●ブルワーとデザイナーの化学反応がヒットを生んだ

 同ブランドの歴史は、16年前にフェンティ氏がビール業界に足を踏み入れたことから始まった。クラフトビールに特化したレストランで勤務していた彼は、表現力豊かで派手なクラフトビールの世界に魅了され、本格的にこの業界に身を置きたいと決意を固めたという。

 「味の良さだけでなく、ファンタジックで創造的なビジュアルにこだわることで、クラフトビールに興味を持たない人でさえも魅了するビールブランドを作りたいと考えました。音楽や芸術がムーブメントを起こすように、ビールを通じて文化的な議論を起こせるはずだと思ったんです」(フェンティ氏)

 一線を画すビールブランドを目指すフェンティ氏にとって、アートはビールのフレーバーと同様に注力すべきものだった。このブランド哲学を共有できるアーティストを求めていたところ、共通の知人を介して知り合ったのが、同じくスウェーデンで生まれ育ったデザイナーのグランディン氏。

 会った途端に意気投合した2人は、すぐに初めてのコラボレーションとなるクラフトビール「Levon (レヴォン)」を発売。11年2月に発売されたレヴォンは、シャンパン酵母を利用したベルギースタイルのペールエールで、リッチな味わいがありつつ爽やかな後味で、今やブランドの顔とも言えるビールとなっている。

 コラボレーション3本目となる「ネブカドネザル」は、世界で2番目に大きなビールのフェスティバルでBest Beer in Showを獲得し、オムニポロは一気に知名度を拡大。「自分たちのビールは世の中に求められている」と確信した2人は、世界展開を見据え、本格的に活動を開始した。

 ビール以外に、Tシャツやグラスといったアイテムも展開するオムニポロは、それらを単なる販促物ではなく、ブランドのアイデンティティーを表すものだと主張する。

 「ライフスタイルアイテムは、私たち自身が誇れるものであり、ブランドとしてのあり方を表現するものでもあります。また、ビール業界以外の人にも手を差し伸べたいと考えていて、例えば私が身に付けているリングは、私たちと同世代のスウェーデンデザイナーとのコラボジュエリーです。業界を超えたクラフトマンスピリッツの共創により、自分たちだけでなくすばらしい他者の存在も示していける。私たちにとって、それが1つのやりがいになっています」(フェンティ氏)

●日本橋兜町にアジア初のバーをオープン

 20年8月、オムニポロは念願の日本進出を果たし、日本橋兜町にビールスタンド「オムニポロス・トウキョウ」をオープンした。70年間に渡り親しまれてきた鰻屋の木造住宅を改装し、オムニポロの世界観を店内に表現した。

 入り口の引き戸や屋根などはそのまま生かし趣を残しつつも、一面青く塗られた壁は海中にいるような世界観を演出し、個性的なデザインのテーブルや照明からは近未来感も感じられる。立ち飲み席もあり、サクッと1杯から立ち寄れる気軽さがある。

 日本橋兜町といえば、日本の金融市場発祥の地として知られているが、近年は「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」が進んでおり、オムニポロを含む勢いのある5つの飲食店が立て続けにオープンしたばかり。5つの飲食店のうち、ナチュールワインショップ「Human Nature」とコーヒースタンド「SR」は、オムニポロス・トウキョウと同じ建物内にある。

 「私もグランディンも日本に特別なインスピレーションを感じていて、数年前から日本への出店を夢見てきました。そんな中、自分たちの思想と、今まさに変革の風が吹いている日本橋兜町がピッタリとハマったこと、そして日本の良きパートナーに恵まれたことで、出店がかないました」(フェンティ氏)

●教会でブルワリー&バー

 オムニポロス・トウキョウでタップから提供されるビールの種類は、ペールエールやIPAといった定番人気のものから、日本人が好むマンゴーなどを使ったフルーツテイスト、オムニポロらしいスイーツテイストなど、全11種類とのこと。近々、日本限定フレーバーの提供も予定しているそうだ。

 本国スウェーデンでは、歴史のある教会をリノベーションしてブルワリー&バーにするプロジェクトも進行中。これは、彼らにとってスウェーデンで初めて所有するブルワリーとなる。

 「私たちの最大のチャレンジは、クラフトビールに興味を持たない人々をどのように引きつけ、感動してもらうか。今はまだ夢物語に聞こえるかもしれませんが、興味を持たない人々にさえ『クラフトビールといえばオムニポロ』と言ってもらえるような、そんな希少なブランドを目指しています」(フェンティ氏)

(小林香織)