2020年9月16〜18日、幕張メッセで「第15回 東京 総務・人事・経理Week」が開催された。総務、人事、経理、法務の担当者や経営者が来場し、商談をするための展示会で、働き方改革や新型コロナウイルス感染対策、業務効率化などに関する製品やサービスが多数出展。有識者による講演も行われた

 今回はその中から、経理アウトソーシングなどを手掛けるCSアカウンティングの中尾篤史社長による「経理部門の働き方改革のススメ〜業務効率を上げるテクニックを伝授〜」の様子をお伝えする。

 公認会計士・税理士である中尾氏は会計や人事において2000社に協力した経験を持っているという。今回は、数年前から注力してきた働き方改革支援の中で、行ったことや失敗したことを紹介してくれた。

●働き方改革と在宅勤務を両立しながら……

 働き方改革に加え、今年に入ってからのコロナ禍では、在宅勤務という新しい課題が持ち上がった。企業はこの2つの課題に直面しており対策が急がれるが、そのときには生産性の向上も同時に考えなければならない。

 また、CSアカウンティングの顧客で顕在化しているのが、労働力人口の減少だという。少子化に加え、団塊世代以降の人たちが退職を迎えている。さらに、一定のキャリアの人が退職する際に、後進の育成が進んでいないという課題も出てきているそうだ。どの部署でもいえることかもしれないが、中でも経理では輪をかけて深刻な状況になっているという。

 経理は、悪意はないにせよ個人が多くの業務を抱えてしまい属人化してしまうケースが多い。業務によっては秘匿性が高く、オープンにできないという面もある。加えて、日本は時間当たりの生産性が低い。

 この20年間いわれていることだが、先進国上位と比べると3分の2程度にとどまっている。そんな中、経済的に豊かになるためには、まず生産性を先進国上位と同等に、つまり1.5倍に引き上げなければならない。しかも、残業規制にも対応するため、労働時間を10%ほど圧縮する必要がある。そうすると、単純計算で現在の1.66倍の生産性が必要になる。

 経理は1カ月もしくは1年の間で、繁閑差が大きい部署だ。月末や決算の時期はとても忙しくて、その他は比較的余裕があったりする。中尾氏によると、働き方改革を進める企業の中でも、モデルケースとして経理部から着手する企業と、難しいからと先送りしてしまった企業に分かれてしまったそうだ。

 経理の働き方改革を中心に進めた企業は、コロナ禍でも在宅勤務を実現できたケースが多いという。その際に役だったのがITシステムだ。

 例えば、社内から出ないとアクセスできない独自システムでは在宅勤務ができないので、クラウドに移行する必要がある。紙の持ち出しを禁止するなら、ペーパーレス化も行わなければならない。生産性を上げるなら、入力作業を自動化すれば作業量を削減できるだろう。こうしたシステムを働き方改革の一環として導入していた企業では、スムーズに在宅勤務へシフトできたようだ。

 経理にありがちな属人化も、ITシステムで解決できる。業務が属人化するとブラックボックス化して引き継ぎができず、他者の業務と比較ができないので効率的に仕事をしているかどうかも分からない。1人で作業しているとけん制が利かないので、不正が起きる可能性もある。導入したシステムに沿って業務を組み、マニュアルを作成し、単純作業はRPAで自動化したり、加えて複数人で業務を運用する体制にしたりして、遠隔でもマネジメントできる仕組みを整える。こうしたデジタル対応が、経理特有の課題解消につながるという。

●システム活用に必要なのは「使い倒す」こと

 しかし、システムに投資をしても、活用できなければ結果は得られない。ゴールにたどり着くには、業務をシステムに合わせて「使い倒す」必要があるという。

 中尾氏の話では、大企業でもマスターの設定をきちんとしていないために、集計機能が活用されていないことなどがあるそうだ。すると、後々他のシステムと連携できなかったり、うまく同期が取れなかったりというトラブルが発生してしまう。

●経理あるある、こう解決する

 マスター設定は、ゴールを設定しているかどうかが成否を決めるという。何をどう管理・集計したいのかを明確化してからマスターを設定すれば、自動集計により試算表やBS(賃借対照表)やPL(損益計算書)も手軽に出せるようになる。「マスター設定を制する者は時間を制する」(中尾氏)

二重入力、どう解決する?

 経理では財務会計の数字だけでなく、管理会計の数字も見たいことがあるが、イチから資料を作ろうとするととても手間がかかることが多い。その際には、財務会計の数字を使い、作業をした方が当然いい。あらかじめ集計科目を設定しておけば、自動的に管理会計の数字が出てくるようになるだろう。

 効率化という観点からは「二重入力」の課題にも対応していかなければならない。同じデータの二重入力は無駄な時間がかかってしまうし、ミスの原因にもなる。例えば、経費申請の場合、事業部書が入力するので勘定科目などを間違えることが多い。そうすると、経理が差し戻してムダな時間がかかってしまう。こうしたケースを回避するには、勘定科目を入力者には見せず、経費の内容だけで選んで申請できるようにすべきだと中尾氏はいう。これもマスターをきちんと設定しておけば、事業側は差し戻しされず、経理側も手間が省けるようになるだろう。

ペーパーレス、どう実現する?

 紙の書類が多いと、在宅勤務がしにくくなってしまう。大企業の例で考えると、経費申請だけでも請求書を書いて、支払い依頼書を書いて、経常伝票に転記して、支払い予定表に入れ、振り込みデータを出力し、出金伝票を作成する――という流れになる。何度も重複した情報を繰り返し入力するのは間違いなく無駄な手間だ。

 一方、経費精算システムなら、一度入力すればよく、経理部門スタッフはチェックするだけで済むようになる。入力項目と勘定科目をひも付けておけば、事業部の人の申請ミスも減らせる。電子帳簿保存法に対応すれば、ペーパーレス化を推進できるようになるだろう。

 そもそもの手入力を減らす工夫も効果的だ。Excelのひな型はなるべく統一し、標準化することが重要になる。APIでシステム間を連携させたり、RPAで単純入力を行うことで、人の入力作業を減らすこともできる。ひな型を統一できれば、手戻りが少なくなるだけでなく、RPAを導入する際にロボットの契約数を最低限に抑えることができる。さらにグループ会社で勘定科目体系を統一すれば、グループ内のサポートや人の異動が容易になる。マニュアル作成や連結などの作業負担も軽減できる。

●在宅の生産性が低い経理、カギは?

 中尾氏によると、在宅勤務で生産性が上がったかという内容のアンケートを取ったところ、経理部門に関しては「上がっていない」という人が圧倒的に多かったそうだ。オフィスで上司が話しかけてくるようなことがなくなったので、その分の無駄はなくなったということはある。しかし、本質的に自宅で作業することで作業効率は上がっていないというのが明らかになった。しかし、ここはチャレンジしていかなければならないところ、と中尾氏は語る。

 ここまで紹介したように、在宅勤務で経理の業務を効率化するにはシステムの導入が必要になる。とはいえ、システムの切り替えコストや移行の負担は大きい。そこで利用したいのが、クラウドサービスだ。海外の現地法人の財務状況をリアルタイムで把握したり、経費精算がスムーズになったりといったメリットがある。

 デジタル化により紙から解放され、ペーパーレスが実現すると、これまで以上に生産性が向上するだろう。紙が残っていると、はんこを押したり、紙に出力するために出社したりという無駄が発生したり、紙を見ながら入力する作業で人件費が増大し、ミスも起きる。紙保管の量が増えれば倉庫のコスト負担も問題になるし、倉庫に収まってしまえばデータの利活用もできない。

●まずは経費精算からペーパーレス化を

 とはいえ実際のところ、今すぐ完全なペーパーレス化を行うのは難しい。しかし、将来のために、最初の一歩を踏み出さなければならないのは明白だ。そのためには、経費精算からチャレンジするといい、と中尾氏は話す。領収書などの紙をPDF化するところだけは出社が必要だが、その後のワークフローは在宅勤務でも進められることがメリットだ。データの入力に関しても、AIやOCRの機能が充実すれば、自動化できるようになる。紙の永続保管が不要になり、データの活用も促進されるだろう。

 また、繁忙期の「山」を崩すための仕組みを考えることも重要だ。経営陣は会社が大きくなっても事業部門を優先し、正比例して経理部門の人員を増やすことはなかなかない。そのため経理の負担はどんどん大きくなっているという課題がある。

 この問題を解決するのに効果的なのが、アウトソーシングだという。月末月初や決算時期などの繁忙期だけアウトソーシングするなどで、平準化をはかることもできる。不足分だけ外部の力を活用し、社員はコア業務に集中させるという使い方も可能だ。

 アウトソーシングする際は、今の業務プロセスを見直す必要があるが、この見直しをすることも意外なメリットだろう。社内だけだと融通が利いていまい、非効率なプロセスでも運用できてしまうが、アウトソーシングするためには標準化するしかない。繁忙期の山を崩しつつ、社内の改革も同時に実現してしまうのがアウトソーシングなのだ。

 また、業務改革を推進するにはステレオタイプから脱却するマインドセットも重要になると中尾氏は強調した。

 業務プロセスを改善するには、目的を立てて現状を把握し、解決案を検討してアクションプランを作成する。そしてアクションを実行したら検証するというPDCAを回すのが王道だ。経理業務をリスト化する際も、リストを作ったら、一度現状を忘れて理想の業務リストも書き出し、両者のギャップを比べることが、改善への近道になるという。

 人は今までのやり方を変えたがらないものだが、ニューノーマルの時代に合わせて意識改革が必要になる。固定概念を捨てて、経営陣が求める経理部門にならなければならない。また、労働人口の減少という問題以上に、経理部門は退職者の穴埋めが大変な部門となっている。経営者としては、経理の人たちが生き生きと働けるさまざまなワークスタイルを提供することも重要になる。そのためには、ステレオタイプから脱却し、業務改善をするということが求められている、と中尾氏は締めた。