コロナ禍をきっかけに「暮らしが大きく変わった」という人は多いだろう。オンラインサービスの拡大やテレワークの普及といった生活の変化とともに、“住まい”の在り方も変わってくる。

 今、その変化への対応を進めているのが住宅業界だ。大和ハウス工業など各メーカーが、テレワーク用のスペースなど、新しい需要に対応した商品を相次ぎ発表している。

 注文住宅のブランド「ヘーベルハウス」を展開する旭化成ホームズも、新しい提案に注力する企業の一つだ。同社が重視するのは、快適なワークスペースを作るだけでなく、日常生活の中に存在する「間」を住宅に取り込むことだという。どういうことだろうか。新型コロナウイルスによって加速した変化とその対応について、同社に聞いた。

●オンラインで家づくり、細かい対応もしやすく

 新型コロナ感染拡大の直後、まず影響が大きかったのが、主な集客拠点としていた展示場だった。緊急事態宣言が出された当初は、客数が大幅に減った。展示場の会場によっては、臨時休業としたところがあったことも影響した。特に、都市部を中心に事業展開しているヘーベルハウスは、全国展開している企業よりも大きな影響を受けた。

 それでも、時間がたつにつれて、住宅購入の検討を延期していた客などが徐々に訪れるようになり、8月には前年並みの客数に戻ったという。展示場では、入場制限や来場予約サービスなどを活用し、“密”を作らないように感染対策を徹底。2019年4月から提供している来場予約サービスの利用者は一気に増加し、7月には約800組が事前予約を利用した。

 一方で、緊急事態宣言前の3月から、オンライン面談のサービス受け付けを開始している。4月には100件以上、5月には400件近くの申し込みが入った。Web会議ツールなどを使った相談対応のほか、以前から提供していたVRコンテンツや、モデルハウスを3Dで見られるコンテンツなども活用。実際の展示場にあるモデルハウスを内見しているかのような体験を提供している。建築現場見学会などのイベントもほとんどオンラインに移行した。

 同社マーケティング本部 営業推進部の中村干城氏によると、対面での面談にオンラインサービスを加えることで、よりきめ細かい対応もしやすくなったという。「注文住宅は契約後も細かい打ち合わせが必要。そういった打ち合わせのほか、希望する内容の変更やちょっとした相談事項なども、オンラインを多用することで気軽に問い合わせてもらいやすくなった。結果的に、密度の濃い打ち合わせができている」。オンラインを組み合わせることで、多忙な顧客も対応しやすくなり、満足度も上がったようだ。

●在宅ワークで失われた「間」

 コロナ禍を機に加速した変化は、商談や打ち合わせのオンライン化にとどまらない。“住まい”という商品そのものの提案も大きな転機を迎えている。

 同社では、5月から「Life Design Ideas(ライフデザインアイデアズ)」という商品シリーズの提案を開始。住む人が重視するライフスタイルに応じた、自由度の高い空間を設けることを提案する。これまでに第1弾として「ワークスペース」、第2弾として「ガレージ」、第3弾として「土間」をつくるアイデアを発信している。

 テレワークの広がりによってワークスペースを求める人は増えたと考えられるが、なぜガレージや土間を提案しているのか。中村氏はその理由について「間」という言葉で説明する。

 「自宅と会社を往復する生活には、時間的・空間的な『間』が存在した。帰宅する前に好きな店に寄るなど、オンとオフを切り替える行動があった。オフィスにいるときも、執務室から会議室に移動する『間』があるだけで仕事のモードを切り替えられる。だが、在宅勤務にはそれがない。物理的な距離がない中で、どうやって『気持ちの間』を作り出せるか考えた」(中村氏)

 そこで参考にしたのが、以前から提案していた「アウトドアリビング」の考え方だ。ベランダや中庭に植物を置いたり、カフェのようなテーブルを設置したり、ホームパーティーなどができるアウトドアグッズを用意したりする提案だが、そのような空間は在宅ワーカーの息抜きの場にもなる。「もともと家族でアウトドアを楽しむというニーズで大きな反響があった。在宅ワークの広がりで、普段の大人の息抜き空間としてのニーズも広がるのでは」と中村氏は話す。

 アウトドアリビングのように、ライフスタイルに応じたさまざまな機能を家の中につくるという提案は、働き方改革によってテレワークが注目されていたこともあり、以前から検討していた。それが、新型コロナの影響で一気に現実的となり、多くの人が“自分ごと”として考えるようになったことから、本格的なプロモーションを始めたという。

●「ガレージ」「土間」を楽しむ家とは?

 では、「Life Design Ideas」で提案するのはどのような住宅なのか。

 第1弾の「ワークスペース」は、以前から提案していたスタイルをあらためて発信。「プライベート」「セミオープン」「オープン」の3つのスタイルを基本としている。プライベートは書斎などの独立した個室。セミオープンは腰の高さまで壁を作るなど、完全な個室ではないものの、リビングなどと分かれた仕事空間。オープンは空間を仕切る壁を作らない作業コーナーで、リビングに併設するほか、開放的なテラスなどに作るケースもある。

 ワークスペースのスタイルは、家事や育児とのバランス、リフレッシュの方法など、仕事以外の行動との関係性によって変わる。コロナ禍によって「家にどのようなワークスペースが必要か、実体験をもとに検討できるようになった」(中村氏)ことが大きな変化だ。実際に在宅勤務を経験し、今をしのぐだけでなく、今後も家で働くスタイルが続くという顧客も増えてきた。住宅購入を考えるときに、ワークスペースの重要度は高くなっていきそうだ。

 6月に提案を開始した「ガレージ」は、車やバイクの格納庫にすぎなかったガレージを、自分や家族の部屋のように使うというスタイル。趣味に没頭する“秘密基地”のような空間や、家族で体を動かして楽しむ空間、備蓄品や大きめの荷物の置き場所など、使い方はさまざま。もちろん、仕事の合間にリフレッシュしたり気持ちを切り替えたりする空間にもなる。「単なる車庫ではなく、ライフスタイルを体現する場としてガレージを見つめ直す」(同)提案だ。

 第3弾の「土間」は8月から提案を始めた。土間は、家の中にありながらも土足のまま入れる空間。ガレージよりもリビングの延長として捉えやすい一方で、外とのつながりも感じられる。陶芸やガーデニングなど床が汚れる趣味を楽しむ空間や、ペットと過ごす場所など、使い方は幅広い。「壁がなくても、床の素材を変えることで、気分を変えられる。家の中に『間』を作り出す一つの手段」と中村氏は説明する。

●これからの家は「マルチプレイス」に

 直近では、都心のマンションから郊外の一戸建て住宅に住み替える顧客も現れるようになったという。「一戸建てにするなら思い切り楽しみたい」というニーズが出てくるのは自然だろう。以前は通勤時間を考慮する必要もあったが、毎日通勤する必要がなくなれば、多少会社から遠くなっても広さなどを重視できる。

 そうなると、家はさまざまな要素を備えた“マルチプレイス”に変わってくる。中村氏は今後の家づくりについて、「仕事を含めて、いかにバランスよく、気持ちよく暮らせるか。家の中に時間的・空間的な『間』をつくることはニーズとして顕在化してくると考えている。ただ、それに応えるには今までの提案だけでは足りない。ニーズが複雑化する中で、注文住宅ならではの設計力が重要になってくるだろう」と話す。

 鉄道やオフィスビルなどに関わる業界でも、すでにニーズの変化を前提とした取り組みが進んでいる。目まぐるしく環境が変化する中では、これまでの“普通”を見直し、思い切った変化を加えていくことも必要となるだろう。