新型コロナウイルスのまん延による旅客数の激減で、JR各社が巨額の赤字に陥っている。東日本旅客鉄道(JR東日本)が9月16日に発表した2021年3月期の業績予想によると、連結最終損益が4180億円の赤字(前期は1984億円の黒字)となる。同日発表した西日本旅客鉄道(JR西日本)も2400億円赤字(前期は893億円の黒字)に転落する見通しを明らかにした。

 いずれも1987年の民営化以降で最大の赤字となる。新型コロナの終息が見えてこない中で、鉄道各社は生き残る事ができるのか。基幹インフラとして政府が救済に乗り出す場面はあるのか。

●固定費の負担が重い鉄道事業

 現状、JR各社の中で最も大きな最終赤字を見込むJR東日本。今期の売上高は1兆9300億円を見込む。前期に比べて35%減である。もっとも、8月6日に発表した第1四半期(4−6月)は売上高が55%も落ち込んでおり、7月以降の回復が前提の数字だ。

 年間の旅客輸送量は新幹線で63.7%減、在来線で27.7%減を見込む。鉄道収入についてはコロナ流行前の75%の水準まで回復すると見込んでいる。

 鉄道事業は典型的な装置産業のため、人件費や設備の減価償却費、修繕費といった固定費の負担が重い。通常ならば旅客数の増減は数%の範囲に収まるのが普通で、利用者が若干でも増えればその分、利益が増えるという構造だ。

 20年3月期は新型コロナの影響が3月だけしか出ていなかったが、それでも連結売上高が1.8%減少しただけで、最終利益は32.8%も減った。それが21年3月期は、今のところの見通しでも、売上高が35%も減少、巨額の赤字に転落するのは半ば致し方ない事といえるだろう。いきなり鉄道収入が25%も減ることなどはなから想定していない業種なのだ。まさに、新型コロナによって想定外の売上激減が起きたのである。

 JR東日本の利益剰余金、いわゆる「内部留保」は20年3月末時点で2兆8093億円。5年前の15年3月末は1兆9153億円だったので、5年間で8940億円も積み上げてきた。鉄道事業は前述の通り装置産業なので、将来の設備投資に備えているともいえるが、内部留保は巨額である。仮に年間で4180億円を超える赤字を出したとしても、すぐに経営が傾くことはない。こうした予想外の危機に備えて内部留保を積み上げてきたともいえる。

 新型コロナで利用客が激減した4−6月期の赤字は1553億円。これによって利益剰余金は1863億円減少した。年間の赤字が計画通りならば、利益剰余金が21年3月末に2兆円を切ることはないだろう。

 だからといって経営者が何も手を打たなくて良いという話ではない。売り上げの激減は、資金繰りを一気に悪化させることになるからだ。JR東日本の営業キャッシュフローは前年度、6731億円。7400億円の設備投資を行ったこともあり、投資キャッシュフローは5000億円近い赤字となった。いわゆるフリーキャッシュフローの黒字はわずか1736億円にすぎない。売上高が激減して営業キャッシュフローが激減すれば、フリーキャッシュフローは赤字に転落しかねない。資金調達をしなければ、資金繰り破綻しかねないわけだ。

●1500億円のコストダウン実施

 資金繰りを付けて耐えるだけでは不十分だ。現状では新型コロナの終息が見えておらず、売上高の減少がいつまで続くか分からない。再び感染爆発が起きれば、鉄道の利用者の回復は見込めない。22年3月期以降も鉄道収入が新型コロナ前に戻るとは考えにくく、当然、コストを削減して、赤字を抑える努力も必要になる。

 9月17日の決算見通しの説明会でJR東日本は、今年度1500億円のコストダウンを行うことを明らかにした。賞与の減額や社員数の減少で、単体の人件費を304億円圧縮するほか、動力費を45億円、修繕費を51億円圧縮するとしている。そのために、在来線の最終電車の時刻繰り上げを行って人件費を減らすほか、夜間の点検の時間が長めに確保できることによる作業の効率化などでコストを圧縮する。

 新型コロナ対策で、「密」を避けるために、通勤時間帯の分散化を呼びかけている。今後、時間帯別の運賃の導入を検討すると報じられている。鉄道会社はピーク時に合わせて車両や従業員を抱えており、乗客が分散すれば、車両投資や人件費の圧縮につながるからだ。

 そうしたコストダウンをしても、利用客が戻らなければ、単体の営業費用だけでも1兆7000億円に達する鉄道事業の黒字化は厳しい。新型コロナ前の利益を出そうとすれば、4000億円規模のコスト削減が必要という指摘もあり、そうなれば、本格的な人員圧縮など合理化に踏み切る必要性も出てきかねない。

 それができない場合、もう1つの選択肢は運賃の値上げだ。利用者が減った分を値上げでカバーできれば、赤字から脱出できる。

 通勤に使われる在来線の場合、値上げをすれば、日々利用する消費者の財布を直撃する。新型コロナのまん延による業績悪化で、年末の賞与が減ったり、残業代が減ったりするなど収入が減少する可能性が高い中での値上げには強い反発が起きそうだ。

 また、新幹線など中長距離での運賃を引き上げれば、航空会社や長距離バスなどとの価格競争に負け、利用者がさらに落ち込むことにもなりかねない。

 合理化も進まず、値上げもできないとなると、頼みは「政府」ということになる。欧州では政府が鉄道会社に助成金を出すなど、救済措置を取る動きもある。ドイツ政府はもともと国営だったドイツ鉄道に対して、支援を行っている。料金の値上げを阻止し生活者を守るというのが建前で、電気料金の引き下げや消費税率の引き下げと共に行っている。もっともドイツでも旧国営企業を国が支援することには反対の声も根強い。

 オーストリアでは、ロックダウンが行われた4月から、ウィーン・ザルツブルグ間で同じ線路の上を運行する民間鉄道会社2社に国が資金を供出、最低本数を運行するよう契約を結んだ。

●日本政府はどう対応するのか?

 今後、JR各社や他の鉄道会社の赤字が続いた場合、日本政府はどう対応するのか。政府系金融機関を通じて、資金繰りのための融資を行うことは可能だが、国が資本注入したり、救済したりするのは難しいだろう。

 債務超過に陥って経営が立ち行かなくなった鉄道会社を自治体などと共に救済する可能性はあるが、それはあくまで経営が行き詰まってからの話だ。JR東日本の場合、巨額の利益準備金を保有しており、それを使い切ってからでないと、税金などを投入する大義名分が生じない。しかも、今年度ですら巨額赤字にもかかわらず、株主に配当する方針を打ち出している。税金を投入してそれが株主配当に使われるという形になることはあり得ない。欧州では政府が航空会社に資本支援をしているが、配当は無配とし、役員の報酬にも上限を設けている。

 仮に政府がJR各社に値上げをさせないために、支援する場合、そうした外部流出を止めることに加えて、さらに民間企業としての競争を促すことが不可欠になる。日本の場合、まだまだJR各社が地域独占的な恩恵を享受している。新幹線が典型だが、諸外国では路線管理と運行業務を別会社にした「上下分離」方式が広がっており、イタリアや韓国などでも同じ路線の上を、別の会社の特急列車が走り、価格とサービスを競っている。

 また、最近ではJR各社がグループで小売りや飲食、宿泊業などを手掛け、「駅ナカ」などで売り上げを大きく増やしている。鉄道事業への政府の支援が、こうしたグループでの事業を事実上支援することにもつながりかねず、他の競合する民間企業の事業を圧迫することになりかねない。

 新型コロナを克服するまで、JR東日本などJR各社は、大幅なコスト削減など自助努力によって生き残る算段が不可欠になる。

(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)