コンビニ王者セブン-イレブンが、知らない間にこっそりと量を減らしてお値段据え置き、といういわゆる「ステルス値上げ」をしているのではないかと叩かれている。

 きっかけは、底が不自然にせり上がった弁当の容器だった。先月発売された「スタミナ炭火焼肉弁当」などセブンの弁当を食べた人たちが、底上げされたように見える弁当容器の写真とともに「ひどい」「ふざけるな」などとSNSに投稿したのだ。

 実はセブンでは昨年も、3個入りの「いなり寿司」がリニューアルで5円値上げしたにもかかわらず、2個入りになったこともあった。そこで、これらの弁当も知らない間に量を減らしたステルス値上げではないかという指摘が相次いだのである。

 そんな疑惑がブスブスとくすぶり続けていたところ、今月に入ると追い打ちをかけるように、セブンの「ハリボテたまごサンド」が注目を集める。パッケージに「厚焼きたまごミックスサンド」と書かれている段階では、ボリューム満点の卵焼きが挟まれているように見えるが、実際に中身を開くとスカスカだったという写真が投稿されて、これまた大きな反響を呼んだのだ。

 さらに極め付きが、一昨日に話題になった「コンビニおにぎりの小型化」。マネーポストが、コンビニの主力商品であるおにぎりが最近、えらく小さくなっている疑惑があるとしてコンビニ各社に回答を求めたのである。セブンは、ここ数年ご飯の量は変化していないと疑惑をキッパリ否定。しかし、疑惑が相次いで指摘されていることもあって、SNSには「うそにしか聞こえない」「実際に小さくなっている」などと不信感をあらわにしている人も少なくないのだ。

 そこに加えて、ここまで不信感を募らせている人が多いのは、消費者がハラオチしない説明のせいもある。コンビニ側や専門家は、利用者に単身世帯や高齢者が増えたことで、彼らが購入しやすいように米自体は減らしていないが、握り方などでおにぎりがダウンサイジングしているだけだという。しかし、それはマーケティング側の一方的な事情で、消費者側からすればまったく知ったこっちゃない。

 大きさが変わったように感じるかもしれませんが、こういう理由で米自体の量はまったく変わってないですよ、というアナウンスをしていなかったのに、質問された途端に「お前らの財布のヒモが緩みやすいように小さくしておいたからな」なんて言われても、一般消費者はまったくピンとこないのだ。

●セブンは反論せずにスルー

 毎日大量のおにぎりや弁当が廃棄されている食品ロスを少しでも改善するためには小型化や減量はしょうがないという人もいるが、それならばなおさら消費者にちゃんと説明しなくては意味がない。「どうせ難しいこと言っても大衆は分からないでしょ? われわれはいろいろ考えて商品つくってんだから、あんたらそれを信じて買えばいいんだよ」という企業側の上から目線は、不信と反感しか生まないのである。

 そのあたりをよく心得ているのが、ライオンだ。同社の衣料用洗剤「トップ スーパーNANOX」はステルス値上げをウォッチするWebサイトで、13年のリニューアル時に内容量が50グラム減ったなどと指摘されていた。しかし、今回のリニューアルでは、嵐の二宮和也さんが出演するCMで、従来の液体洗剤は「約7割が水」という事実を明かすとともに、新しい「トップ スーパーNANOX」は7割が洗剤成分で「濃い」ことを強く訴求。一歩間違えれば、液体洗剤全体のイメージダウンにもつながるような思い切ったコミュニケーションだが、減量している背景がクリアになったことで、「ステルス値上げだ」などという風評は立っていない。

 この対極に位置するのが、今回のセブンの対応だ。先月から底上げ弁当がSNSで叩かれているにもかかわらず、言われっぱなしでまったく反論をしない。SNSで騒いでいる連中などは、われわれのお客さまではないと言わんばかりのスルーっぷりなのだ。

 個人的には、こういう大上段から構えたいかにも大企業的な対応も、ステルス値上げ疑惑に拍車をかけているのではないかと思ってしまう。

 それに加えて、もうひとつセブンへの不信感を強めているのは、不祥事ラッシュだろう。昨年の24時間営業をめぐる問題から、ブラック労働が注目を集めたからと思ったら、セブンペイの不正利用とそのグダグダ対応が世間から批判され、今年に入ってからも、本部社員による無断発注、さらには1970年代から続く残業代の未払いまでもが発覚した。

●コンビニのビジネスモデルは「限界」か

 日本郵政、レオパレスなどを見れば分かるように、ガバナンス不全になっている組織は往々にして、ビジネスモデルそのものが大きな問題を抱えて、これまでのやり方が「限界」に達していることが多い。ということは、ここまで不祥事が相次いで発覚しているセブンのビジネスモデルも「限界」が近いと考えるべきだ。

 その代表が、「近くて便利」を掲げて、同一商圏内を陣取りゲームのように店舗を埋め尽くしていくドミナント戦略だが、実はもうひとつ大きな問題がある。それはPBが掲げる「手ごろな価格」(セブンプレミアムWebサイト)という企業戦略だ。

 「そんなのどこの食品メーカーもあたり前のように掲げている手垢のついたスローガンだろ」と思うかもしれない。そう、確かにこれは多くの食品メーカーがスローガンとして掲げている。だが、あくまでスローガンなので、外部環境が変われば臨機応変に対応していく。可能な限りの「手ごろな価格」を目指すのだ。

 カップラーメンでも野菜でも小麦粉でも食品は、原材料費の高騰や原油高などの影響を必ず受けて、値上げをする。ファミレスのメニューもそうだ。しかし、セブンをはじめコンビニは、有言実行というか、本当に「お手ごろな価格」を死守するのだ。

 その象徴的な商品が「おにぎり」だ。セブンのWebサイトを確認すると、「山形県産つや姫おむすび紅鮭切り身」のような190円のおにぎりもあるが、ほとんどは120〜140円帯。「味付海苔おにぎり 梅おかか」のような110円のおにぎりもある。

 では、今から30年前のコンビニおにぎりは、いくらだったのかというと110円から140円だった。93年になると「従来の商品より10円から40円安い1個100円のおにぎり」(日本経済新聞 1993年3月23日)などポイント、ポイントで「激安おにぎり」というトレンドはあったが、基本的にはこの価格帯を30年間キープしているのだ。

 いくらバブル崩壊後の「失われた30年」で物価が上がっておらず、コメの価格も下がっているとはいえ、この間に消費税の引き上げもあれば、原材料高騰などもあったし、人件費だってわずかながら上がっている。このような社会の変化にまったく左右されることなく、価格を維持しながら「定番商品」としての進化も続けているのだ。

●素晴らしい理念が生んだ「あだ花」

 もちろん、この傾向は「おにぎり」だけではない。例えば、先日もウーバーイーツでよく注文されたと話題になったローソンの「からあげくん」は定価216円(税込)だ。では、この商品が発売された86年はいくらだったかというと、「5個入りパックで200円」(日経流通新聞 1986年4月14日)である。ケンタッキーフライドチキンだって80年代から何度か値上げに踏み切っているのに、ビタッと固定なのだ。

 時代変化の中で価格をキープし続ける「実質値下げ」といってもいいような商品が、コンビニ業界にはゴロゴロしているのだ。「それだけ日本のコンビニが優秀なのだ」と誇らしげになる方も多いかもしれないが、この「無理」のしわ寄せが、コンビニバイトの過酷な労働環境や、FCオーナーの弱い立場など、「コンビニの闇」として表面化している可能性があるのだ。

 「手ごろな価格で美味しい商品」を維持するには、とにかく売れ続けなくてはいけない。そうなれば当然行きつくのは、FC側に限界まで商品を仕入れさせ、安売りは一切認めないくせに、売れ残りが出ればその原価の大半を負担させる――という昨今問題になっているFCオーナーの搾取スタイルだ。

 また、「手ごろな価格で美味しい商品」という原理主義にとらわれてしまえば、実際は量が減っていたり、材料が小さくてもとにかく見た目を盛らないといけない考え方に至る。弁当容器のかさ上げや、ハリボテたまごサンドは「手ごろな価格で美味しい商品」という素晴らしい理念が生んだ「あだ花」なのだ。

 このような問題を解決するには、FCオーナーやバイトから搾取するようなビジネスモデルを変えていくしかない。消費者が喜ぶ「低価格高品質」を維持するため、前線に立つ弱い立場の者たちに自己犠牲を強いる、という旧日本軍のようなマネジメントをあらためるのだ。

 そうなれば当然、「手ごろな価格」の見直しは避けられないし、街中にボコボコ乱立する店舗も減らすしかない。商圏内の店舗数と24時間営業という「量」ではなく、「質」で勝つスタイルに変えることは容易なことではないだろう。

 ただ、それをしない限りコンビニのステルス値上げは、これからさらに進行していく。「食品新聞」によれば、4月から7月までのコンビニ来店客数が約15〜20%減少したことを受けて、おにぎりが売れておらず、その影響で国内コンビニ向けが全需要の35%を占める海苔業界も大打撃を受けているという。

 この厳しい時代はまだ続く。高齢化対応や健康志向の名のもとに、お値段据え置きで、おにぎりや惣菜パンの具がスカスカ、おでんやフランクフルトなどもしれっと小さくなっていくかもしれない。なぜそんなことが言えるのかというと、既に社会インフラでお値段据え置きでサービスを低下させる、「実質値上げ」が進行しているからだ。

 郵便料金は変わっていないが、配達日が減るので荷物や郵便が届くスピードが落ちていく。また、電車の運賃は変わらないが、終電が早まって運行本数は少なくなる。自治体でも税金は下がらないのに、行政サービスの窓口や公共交通機関の本数は減っていく。

 ならば、コンビニという社会インフラを現状維持するには、これらと同じく「お値段据え置きでサービス低下」の方向に進むしかないのは自明の理だ。まだ実感している人も少ないかもしれないが、われわれ日本人はもはや「縮小する経済」のど真ん中で生きているのだ。

●「低価格高品質」の呪い

 「近くて、便利」を掲げるセブンの企業理念を見ても、どこにも「安さ」はうたっていない。もともとコンビニは手ごろな価格で商品を提供するような場所ではなかったのだ。それがドミナント戦略という血の海で戦ううちに、現場の人間を犠牲にしてでも「手ごろな価格」を実現しなくてはいけないという強迫観念に取りつかれてしまったのだ。

 日本を代表する流通企業が、1日も早く「低価格高品質」の呪いを断ち切ることを心から祈りたい。

(窪田順生)