ウィズコロナの時代でも成長を続ける業種の代表例が食品スーパーです。イオンやイトーヨーカ堂などの総合量販店がなかなか業績を伸ばせない中で、食品スーパーの伸びが目立っています。中でも埼玉を地盤とする地方スーパーの雄、ヤオコーの強さが際立っています。

 31期連続増収増益かつ26期連続最高益をたたき出している会社です。コロナ下でも増収増益を確保する企業の1社として注目を集めています。そのヤオコーは、2021年1月1〜3日まで休業すると発表しました。従業員にも家族とゆっくり過ごしてほしいからだそうです。

 同社の強さの秘訣はどこにあるのか。それはコロナ下で自宅での食事が増えたことによる食品需要の高まりという追い風以上に、同社の「人」を大事にする経営法にポイントがあるようです。

 コロナによってデジタルトランスフォーメーション(DX) への取り組みが声高に叫ばれる中で、アナログの象徴ともいえる従業員重視の経営こそがこれからの企業の成長条件となります。

 流通小売・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきているムガマエ株式会社代表の経営コンサルタント、岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。

●26年連続最高益

 巣ごもり需要の恩恵を受けたのは、前回紹介したニトリなどのインテリア・家具用品と食品です。特に、郊外立地の食品スーパーは、都心立地のコンビニが売り上げを落とす中、成長を続けています。

 日本スーパーマーケット協会(JSA)に加盟する各社の売り上げも4月以降好調なのですが、ヤオコーはその平均を軽く上回り、8月までは毎月二桁の伸びを示していました。客数は毎月前年割れの状況ですが客単価は120%超伸びており、売り上げを押し上げています。

 ニトリなどと違うのは、食品は購入頻度が高いという点にあります。食品は毎日購入する人も多いものです。しかしコロナの影響で混雑する場所に毎日出かけたくない。そこで、購入回数を減らして1回で購入する量を増やすという状況がこの半年ほど続いています。来店客数は減少しているものの、購入点数の大幅増加によってヤオコーは二桁の伸びを示しているのです。

 では、なぜヤオコーは全国の食品スーパーを上回る伸びを示しているのでしょうか。それは次のデータを見るとよく分かります。

 ヤオコーは客数が少ないからといって、一品単価を「高く」して売り上げを伸ばしていません。一品単価は上がっていますが、2〜3%の伸びです。伸びているのは買上点数です。業界ではPI値(Purchase Index:総買上点数÷総客数×100%)と呼びます。この数字が高ければ高いほど客の支持率が高く、満足度も高いことを意味します。

 ちなみに、ヤオコーの前年度の年間平均PI値が102.3%だったことを考えると、非常に高い支持率を得ている売り場だと分かります。このPI値が高くなるような売り場を作れていることがヤオコーの成長のポイントなのです。

●増収増益を支えるポジショニング戦略

 ヤオコーは21年3月期決算も2.7%の増収、経常利益も1.4%増の199億円を見込んでいます。経常利益率はこの10年間、4%台を割ったことがありません。食品スーパーで経常利益率2%を超えるのは数社しかないので、同社の収益性の高さが目立ちます。

 もともと低い粗利で経営をしている食品スーパー業界で、同社はなぜ業界の2倍の利益率を達成できているのでしょうか。そのカギは同社の「小売業の最大の財産は人材」(同社川野幸夫会長)と言い切る、人を大切にする経営にあります。「個店経営」や「全員参加の商売」という言葉で語られる同社の経営は、人の可能性を引き出し、店に主体性を持たせて、結果的に高い効率を上げる店舗づくりにつながっているのです。

 ちなみに、同社の正社員1人当たりの売り上げは1億3000万円以上あり、パートナー(パートタイマーやアルバイト社員を同社ではパートナー社員と呼ぶ)も含めた全従業員1人当たりの売り上げでも3000万円を超えています。それでいて労働分配率は47〜48%を維持していますので、低賃金で長時間働くことで利益を出しているわけではないことが分かります。どちらかといえば、一人一人のレベルを向上させ、商品力と提案力に磨きをかけている企業なのです。

 なぜ、このような考え方をするようになったのでしょうか。それは、競争の激しい食品スーパー業界の中で生き残るために立案した第2次中期経営計画(1997年4月〜2000年3月)にありました。

 同社では94年4月に第1次中期経営計画を発表して以降、3年ごとに見直しをしています(現在は第9次)。

 第1次中計で「ヤオコーは何屋になるのか」を定義し、第2次では「ライフスタイルアソートメント型スーパーマーケット」という概念を打ち出しました。

 食品スーパーというのは大ざっぱに分類すると、価格訴求型か、価値訴求型かのいずれかに分かれます。

 コモディティ商品とは、大衆品や汎用品といったようにどこでも買える商品のことです。ライフスタイル商品とは、生活充実品や嗜好品といわれています。生活者のライフスタイルに合わせて購入する、いわば生活を楽しむための商品です。コモディティ重視型は、どこでも買えるようなものを扱うので、できるだけ安く販売する「価格訴求型」となります。

 一方、ライフスタイル提案型は、食材のこだわりやオープンキッチンなどの豊かな食文化を提案をする「価値訴求型」といえます。大資本の企業であれば価格訴求でも勝負できますが、ローカルのスーパーではそれは難しいですし、今後の世の中の変化を考えると価値訴求でいくのが正しいと考えたのです。そこで同社は「ライフスタイル商品(生鮮・デリカ部門など)でお客さまに来ていただけるスーパーマーケットを目指す」と第2次中計で明示したのです。これが同社の方向性を明確にしただけでなく、今の成長につながる原点になったといっても過言ではないでしょう。

●個店経営の本質である従業員への信頼と企業の成長

 ヤオコーでは、従業員満足度を高めるためにさまざまな工夫をしています。そして、それがコロナ下でも伸び続ける同社の軸となっています。そのポイントをいくつ整理してみます。

(1)パートナーも入れる労働組合を結成

 1981年、職場環境を整えるために「全ヤオコー労働組合」を結成しています。当時のヤオコーは埼玉県内に11店舗展開しており、従業員500人ほどの規模でした。この規模で労働組合を作るというのは当時の流通小売業界では珍しかったと思われます。しかも、川野会長(当時社長)からの提案だったそうです。いかに同社が人を大切にしたいと考えていたのかが伝わってきます。さらに、当時としては画期的でしたが、パートナーでも組合員になれる仕組みにしたことも重要です。

 この組合結成時に、同社が組合と決めたことが2つあったそうです。

 1つ目は、月に1回の経営協議会で労使間の本音の話し合いをすること。

 2つ目は、運動会や旅行会を定期的に開いて社員の親睦を深めること。

 これを結成当時から現在まで続けています。また、同社ではパートナーにも夏・冬の賞与を出し、期初見込み利益が確保できれば年度末手当ても支払っています。これが安心して働ける環境につながっているのです。

(2)パートナーも巻き込んだ全員参加の商売

 同社では、パートナーにも積極的に店づくりに関わってもらう工夫をしています。ライフスタイル提案型の店の考え方を、会議や朝礼、社内報やパートナー懇親会などの場で、社長自ら説明するなどして、全社に徹底教育しています。そして、販売計画や発注ミーティングにパートナーの意見を取り入れているのが特徴です。

 さらに、同社ではパートナー社員が成功事例を発表する「感動と笑顔の祭典」を2006年5月から月に1回開催しています。毎回9地区から各1チーム(1部門)を選出し、代表のパートナーが成功事例を発表します。ある回では、店舗のレジリーダーが「笑顔の接客で集客アップ」という発表をしました。このレジ部門では月に1回レジミーティングを実施。アイコンタクト、笑顔、発声などのトレーニングを部門のパートナー全員で行い、その問題点や解決法までパートナーで話し合い、改善につなげたそうです。

 このようなモデルとなる取り組みを表彰し、その内容を映像として記録して全店に配布し、全員がノウハウを学べるような教育環境も整えているのです。非常にきめ細かい売り場づくりをしており、どの店の陳列もきれいなのがヤオコーの特徴です。ここまでの規模の店で、これだけ陳列やディスプレイにこだわっているのはなかなか珍しいことです。

 パートナーには店ごと・部門ごとの損益まで分かるようにしています。そして、自ら損益改善案まで考えた上で売り場づくりに取り組む例は数えきれないほどあるそうです。社員だからとかパートだからといった線引きがほとんどないのがヤオコーの強さの秘密です。

 同社は健康経営優良法人2020(ホワイト500)にも認定されており、従業員の健康状態にも気を配っています。店舗での働きにあわせてオリジナルで考案された「ヤオコー体操」や、全員参加でのヤオコー大運動会を実施しています。パートナーまで含めた、健康維持の取り組みを行っています。

(3)基本的に全て現場に任せるという発想

 ヤオコーはこのようにして全員参加の商売を徹底してきました。同社のコンセプトや商いの考え方から外れない限り、基本的には何をしてもいいというのが経営における最大の特徴です。

 例えば、ある新店で店長に就任する予定の方にお会いした時にも、自分の要望をできるだけ聞いてもらって売り場をつくったという話を聞きました。「近隣に別のヤオコー店舗もあり、競合店も多いので、生鮮食品のコーナーは市場風にして地元野菜もしっかり入れています。そして、バックヤードを広めにとって総菜を強化します」とのこと。そして、その通りの売り場をつくり、見事に繁盛店になっています。店づくりはできるだけ現場の従業員に任せれば任せるほどいいようです。

●デジタルが進むほどアナログが重要になる

 ヤオコーが創業したのは1890年です。2020年には創業130年を迎えました。現在は、6代目社長の川野澄人氏が経営を担っています。川野社長は川野幸夫会長の次男です。会長と現社長の間に5代目社長をしていたのが会長の弟である川野清巳氏です。

 川野前社長が13年3月に退任する際のニュースに私は大変驚きました。なぜなら、川野氏自身の保有する株式の一部を当時の従業員1800人に贈与すると発表したからです。当時の発行済み株式の1%強の21万5000株、時価換算で約7.9億円分をパートナーまで含めて贈与したのです。「会社発展に尽力した社員への感謝の気持ち」と説明していましたが、そんなことができるヤオコーはすごい決断のできる会社だと実感しました。

 しかし、それは同社を小規模な八百屋から一流の流通小売業に育て上げた川野会長、川野前社長の母親である故・川野トモ氏がパート社員も含めて従業員を大事にし、家族のように接してきたことを引き継いでいるからできることでしょう。これが「この店で働く幸せを感じられる存在になりたい」というヤオコーの個店主義であり、人を大切にする経営の真髄(しんずい)です。

 現在、店舗で働くことに不安を感じている従業員は多いと思います。だからこそヤオコーのような従業員を大切にする経営が、これから重要になるのです。今後、デジタルが進めば進むほど、従業員の心と体をケアするアナログなマネジメントが必要になります。

(岩崎 剛幸)