合従連衡という言葉の語源は、古代中国の戦国時代末期に、強大な秦に対抗するために、残る諸国が生き残るため講じた同盟策から来ている、というのは有名な話だろう。最近では、この時代を舞台にしたマンガ『キングダム』が、映像化もしているので、こうした時代背景については、若い方々も知っておられるだろう。今のホームセンター業界は、「キングダム状態」ともいえるのではないか。全国制覇を目指す一強に対抗して知略の限りを尽くして諸国が対抗する絵がそう見える。

 横浜の旧市街でマンション暮らしをしている筆者は、家具を買いに行く機会はそう多くないのだが、近くにある島忠のホームズ新山下店は、よく利用している。ここは、島忠のホームセンターとスーパーのオーケーストアを核に、書店、カフェなどもあり、その他にファッション系の店舗や、100円ショップなどのテナントが入っていて、日常の買物は一通り済んでしまう便利な複合施設として重宝している。

 そんな島忠が、ホームセンター大手のDCMグループ入りしそうだ。そして、ここにきてニトリが参戦してきたのは、中華に隣接する地域の強大な北方民族が乱入してきたというイメージだろうか。異民族の匈奴(きょうど)ともいうべき異業種ニトリが、ホームセンターにとっての中原に介入してきたという構図に見えたのである。

 シマホ(島忠が自ら名乗る愛称)ユーザーとしては見過ごせないニュースでもあり、今回はその背景について考えてみよう。

●デフレ時代の勝ち組、ニトリ

 まずは、家具小売業界の過去を振り返る。1990年代以降の国内経済の停滞に伴って、住宅着工件数は2010年ごろまで急激な減少傾向が続き、こうした影響を受けて家具市場も大幅な縮小を余儀なくされた。バブル期までの需要拡大を背景に、全国各地には地場の家具チェーンが勃興していたのだが、こうした長い市場縮小が続く中で、多くの家具チェーンは淘汰されたり、業容を大幅に縮小したりして存在感を失っていった。この、デフレ時代以降の勝ち組といえば、いわずと知れたニトリホールディングスである。家具、インテリア雑貨の製造小売業(SPA)として圧倒的な地位を確立し、今もトップシェアを独走していることは周知の通りだ。

 ニトリの勝因とされるのは、家具、雑貨を製造から販売まで一気通貫で行うSPAとして、他社の追随を許さないコストパフォーマンスを実願した、ということが本質なのであるが、もう一つ重要な勝因がある。それは、コスパの高いインテリア雑貨の品ぞろえを充実することによって、顧客の来店頻度を上げて、自社の家具売場の存在を消費者に刷り込むことに成功したことだといわれている。売場にお客を呼ぶことさえできれば、家具のコスパは一目瞭然で、家具にそこまでお金をかけたくない層をがっちりつかんだ。今でもニトリの売上の多くはインテリア雑貨であり、多くの店舗で1階売場が集客のエンジンであるというスタイルは、こうした過程で確立したのである。

 家具チェーンの中で生き残ったパターンがもう一つある。ホームセンター併設型の家具チェーンで、その代表格は東の島忠、西のナフコとされ、両社ともにホームセンター業界では大手かつ高収益企業としても知られる企業だ。こちらも、1階をホームセンターにして、日用消耗品などを買いに訪れるお客を集客し、ついでにリーズナブルな家具売場の存在を認知してもらうことで、市場シェアを獲得していくことに成功した。家具は1年に何回かしか買わないが、洗剤やシャンプーなどの消耗品はもっと高頻度で購入する。そのため、家具購入機会があったときになじみのある店で買うという選択肢をとる人が多いという戦略であるが、実際その通りの結果を生んだということだ。

 そんな高収益企業の島忠も単独経営を断念し、DCMグループという、各地の有力ホームセンターの合従連衡で生まれたグループ入りすることで合意した。

●DCMって、何者?

 DCMホールディングスは地方の有力ホームセンターであるホーマック(北海道、東北が地盤)、カーマ(中部地方が地盤)、ダイキ(中四国が地盤)が2006年に経営統合して誕生した業界トップクラスの企業で、伸び悩む市場環境を踏まえた業界再編の受け皿としての旗印を掲げている。これまでにも大手企業ケーヨーと資本提携して持分法子会社とし、また地方の中堅中小同業を買収するなどして19年までは業界トップをひた走っていた。今回、DCMグループと島忠が手を結ぶ背景には、20年に業界トップシェアへ返り咲いたカインズの存在が大きいといえるだろう。

 次の図表は、10年と20年時点のホームセンター売上ランキングを比べたものだ。10年時点でグループ3社合計の売上は約4100億円に達しており、当時のトップ企業カインズの売上約3300億円を凌駕(りょうが)していた。その後も中堅中小企業をいくつか傘下に収めたDCMグループであったが、20年ランキングでは、買収や合併をせず単独成長で4400億円に達したカインズにトップシェアを奪還されてしまった。統合によってトップとなったDCMグループは、ケーヨーとの本格統合がなかなか進捗せず、島忠を仲間に引き入れることでトップシェアを奪い返すしかなかった、と見ることもできよう。SPA化に早くから取り組み、着実に顧客の支持を得つつあるカインズの競争力に、DCMグループを含む同業他社は防戦一方の状況にあるといっても過言ではない。

●戸建てエリアを軸に成長した島忠

 埼玉県の歴史あるたんす屋さんから、家具チェーンへと発展し、その後ホームセンターとして着実に成長した島忠は、埼玉、東京、神奈川の一戸建てエリアを地盤として店舗網を構築し、大手の一角としての地位を築いた。

 筆者は以前、ホームセンターのマーケットサイズに最も影響を与える要素を分析したことがあるが、戸建て住宅数の相関性が最も高かったことを思い出す。

 中でも、ホームセンター需要が豊富な、庭付きで相応の床面積を持った戸建て住宅が最も多いエリアと言えば、言うまでもなく首都圏の郊外部の低層住宅地ということになろう。人口流入が続く首都圏郊外の戸建て住宅エリアを店勢圏とした島忠は、この恵まれたマーケットを背景に、売上1400億円超の業界大手に成長したのである。

 しかし、島忠がその外周部にまで、店勢圏を拡大することはなかった。

●「仕入れ力」が足りなかった島忠

 千葉を中心とした関東東部にはケーヨー、北関東にはカインズという業界大手が、既にこのエリアを押さえていたからである。島忠は、ホームセンター大手ではあるが、売上の3割程度が家具関連(残り7割がホームセンター)であり、その3割が収益の柱となっていた。ホームセンター部門は、あくまでも家具を売るための「集客部門」という側面があり、カインズなどの専業大手と直接対峙するには仕入れ力が十分とはいえなかった。ざっくり言ってしまえば、首都圏地区大会の代表として「甲子園常連校」ではあったが、甲子園に行けば全国区の優勝候補が立ちはだかりなかなか勝てない、という感じが近い。

 ちなみに、なぜ仕入れの話をするのかといえば、それが収益力に大いに関係するからだ。セブン&アイ・ホールディングスやイオンといった小売トップ企業がプライベートブランド(PB)商品の強化に注力していることはご存じだろう。PB商品は在庫リスクを伴う一方で収益率が高いため、この品ぞろえを充実させて売上比率を高めることが、小売業界にとっての重要な課題となっている。

 ホームセンター業界においてもPB強化が競争力に直結するため、大手各社はPB開発とPB比率の向上にしのぎを削っている。ただ、PBを成立させるためにはいかんせん大量発注できることが前提であり、企業規模の大きい方が有利になる。DCMグループが仲間を集めて大きくなろうとするのは、実はそうした背景がある。

●PBの「必勝要素」とは?

 とはいえ、PBを用意して、「安いですから買ってください!」と店中に並べまくったとしても、消費者が「はいそうですか」と買ってくれるほど甘い話ではない。消費者は価格だけではなく、コストパフォーマンスが高いと評価しなければ買ってはくれないのである。

 PBで成功しているものといえば、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」、ユニクロ、ニトリ、良品計画の「無印良品(MUJI)」などが頭に浮かぶと思うが、共通している成功要因は、絶対的な低価格訴求ではなく、価値訴求にある。

 「お、ねだん以上。」をキャッチフレーズにしていることで有名なのがニトリであるが、まさにこの言葉を実現していると消費者が評価したから、ニトリは破竹の勢いでインテリア小売業界を制覇することができた。PBの成功は消費者の「評価と信頼」が前提にある。高いコスパの実現に向けた不断な改善と消費者への訴求が必要なのであり、一朝一夕にボロもうけできるものではない。その意味において、現在のホームセンター業界で、その域に達している企業は、カインズしかいない。同社は古くからPBの構築に取り組み、今ではPBで自社売場を構成できるレベルまで進化しているだけでなく、消費者の評価も高い。DCMグループが合従連衡でトップシェアを奪っても、単独成長のカインズに抜かれてしまったのは、カインズの総合的な商品力が競争力に直結していたからなのである。

●島忠の「本丸」へ攻勢を見せるカインズ

 北関東地盤のカインズは、郊外から地方エリアへの展開を進め、かつては地代の高い16号線内側への出店は少なかったが、近時では首都圏への攻勢を強め始めている。都市型インテリア雑貨の新業態、郊外のライフスタイル特化型コンパクト店、プロ向け小型店などを神奈川県内に相次いでオープンするなど、今後、首都圏の内側への攻勢を念頭に置いた業態展開であることは明らかだ。

 一方で勢力圏を拡大できなかった島忠の売上、利益は共に伸び悩み、14年をピークに19年までは減収が続き、コロナ禍の巣ごもり需要を受けた20年は何とか増収に反転したという状況にある。この状態で、業界最強プレイヤーのカインズが島忠の「縄張り」への攻略を本格化するならば、いずれ業績にも影響が出るという危機感が醸成されていたに違いない。

 北関東から発祥して全国展開を進めるカインズに包囲されつつある島忠と、カインズとトップシェアを競い合うDCMグループとの利害は共通していた。島忠は、この好業績期こそ、DCMグループに対して最も有利な「同盟条件」を引き出せる好機となったに違いない。ただ、このトップシェア連合が規模だけでカインズに対抗することは簡単ではないだろう。早急にグループのインフラ統合を進め、価値訴求できるPB商品の提供を目指すしかないのだが、先行するカインズの進化のスピードを凌駕(りょうが)するには、相当に求心力ある経営が求められるだろう。

――と、ここまで整理した上で、最後に急に名乗りを上げたニトリとの兼ね合いについても触れておこう。

●ニトリが黙って見ているはずがなかったワケ

 北海道から発祥し、全国展開を果たして今や小売業界屈指の有力企業となったニトリにしても、地方郊外を制覇してきたときと同じ手法で首都圏攻略とはいかず、都市型フォーマットを開発してシェア拡大を進めているのが現状だ。

 世界有数の人口密集地である首都圏中央部には大きな空き地はほとんどなく、地方、郊外でやってきたように大型店を出店して、競合からシェアを奪うというやり方はできない。また、不動産コストもかさむため、投資モデルを修正せざるを得ないだろう。インテリア雑貨中心に構成したビルインタイプである「デコホーム」などの中小型店を投入して、首都圏でも着実にシェアを獲得しつつあるが、ニトリの求める成長スピードからすれば歯痒かったに違いない。

 そこに、埼玉発祥という地の利を生かして首都圏に確固たる大型店ネットワークを持つ島忠が、M&Aに応じるというニュースを耳に挟んで黙っていられるはずがない。盤石の財務体質を持つニトリが資金力にモノを言わせて割り込むのも、当然の行動と見えてくる。ニトリがこれまで地盤としてきた地方郊外は、今後は人口減少、高齢化によってマーケットサイズが縮小することは避けられない。その前に、海外市場を開拓することと、人口集積地である3大都市圏を確保すること、この課題を解決することは、ニトリとしても死活問題なのである。とすれば、最大のマーケットである首都圏に足掛かりを確保できる千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。敵対的TOBであろうと構ってはいられないのである。

 「異民族」であるニトリは、争奪戦に勝てば島忠をホームセンターとして存続させることは考えにくく、短時間でニトリ化するように思われる。チェーンストア理論の優等生であるニトリが、自社内にホームセンターを残す非効率な運営をするのは考えにくいからだ。

 ただ、シマホユーザーである筆者の家族などは、島忠の売場がなくなってしまうのであれば、うれしくないとはっきり言う。ニトリは行ける範囲に店舗があるので、シマホを残してくれるであろうDCMグループを応援している、というのである。一般の消費者にとっても選択肢が減っていくというのは、決して喜ばしいことではあるまい。PBだけしかない世界での買い物を、消費者は望んではいないはずだ。この争奪戦、ニトリ優勢ともいわれる中でも、DCMグループに頑張ってもらいたいと思っている人は、そう少数派でもないような気がするのである。

(中井彰人)