ニトリが島忠の買収に名乗りを上げた。

 10月2日にホームセンター業界2位のDCMが、業界7位の島忠を株式公開買付(TOB)すると発表。島忠側も同日、TOBへの賛同を表明。2社の直近売り上げを単純合計すると5836億円。新型コロナウイルスの影響で、ホームセンター各社が販売好調で大幅に業績を改善させているなか、友好的なTOBによって、業界首位のカインズ(売上高4410億円)を大きく引き離すグループが誕生する目前だった。

 しかし、10月29日、ニトリは島忠へのTOBを表明。買付価格を1株当たり5500円とした。これは、DCMの買付価格(4200円)を1300円上回る。ニトリ側はあくまで友好的としているが、TOB合戦が勃発した形だ。

●すでに「家具」のニトリから脱却

 「お、ねだん以上。」で知られているニトリは、国内の家具小売企業としてはすでに圧倒的な存在になっている。

 家具需要を刺激した新型コロナ流行前の2020年2月期時点で、6423億円を売り上げ、営業利益は1000億円を超えていた。国内家具小売企業としては突出した存在である。

 北海道での家具小売からスタートしたニトリは「他社と同じ品質の商品を他社の7〜8割の価格で販売する」(ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長)調達力を磨き続けて、低価格ながら他社よりも粗利率が高いビジネスモデルを作り上げている。

 ニトリは“家具”小売のイメージが依然強い。しかし、現在の売り上げに占める家具の比率は4割に満たない。「ホームファッション」関連の小売企業であり、独自のディスカウント業態としての進化を遂げているのが実態だ。

●ホームセンターにとっては脅威でしかない

 10月2日に発表した21年2月期の第2四半期決算では、新型コロナ流行による家具需要や家庭内用品需要の高まりを受け、前年同期比12.7%増収となる売上高3624億円、営業利益は同45.0%増となる805億円を計上し、通期で35年連続での増収増益を確実にしている。

 そんなニトリは、ホームセンターの脅威になっている。

 ホームセンターは、DIYや園芸、農業向けの専門店業態だ。しかし、近年のDCMが強化しているプライベートブランド(PB)商品は、日用品が中心だ。市場規模の限られたマーケットにとどまらず、日用品などで一般消費者を取り込む展開を行っている。“規模の経済”を実現するため、提携や合併などによって事業規模を拡大させる戦略を進めている。今回のDCMによる島忠買収にはそんな背景もある。

 ただ、この流れは、ホームセンターが本来のターゲットから離れてしまい、一般消費者向けのディスカウント業態と化していることも意味する。

 筆者は10月、島根県に本社を置くホームセンターチェーン「ジュンテンドー」の決算説明会に参加した。同社はホームセンター本来のマーチャンダイジング(商品政策)回帰を掲げて、農業関連の商品強化に近年取り組んでいる。

 決算説明会の質疑応答の中でこんなやりとりがあった。DCMのように日用品のPB商品を強化し、合併による拡大路線が進んでいる業界動向を踏まえ、自社としてどう対処していくかと質問されると、飯塚正社長は「(日用品でのPB展開は)勝手にやってくれ。DCMはホームセンターだと思っていない」とコメントしている。競合となる他社のホームセンターが、すでに日用品のディスカウンターになっているという認識だ。

 また、筆者は10月15日に行われたコーナン商事の決算説明会にも参加した。同社は、プロ向け業態の強化を近年進めている。また、ニトリHDの似鳥会長が社外取締役となっている。コーナン商事の疋田直太郎社長は、ニトリがホームセンターの日用品販売にとって脅威になってくるとの見解を示していた。

 では、大手ホームセンター各社とのニトリの収益率を比較してみよう。

 ニトリの売上高粗利率が55.2%なのに対し、島忠は33.7%、コメリは32.1%、コーナン商事は40.8%、DCMは34.6%、ナフコは32.9%となっている。

 粗利率の違いは圧倒的だ。一般消費者に対して、価格訴求でニトリと勝負した場合に、ホームセンターが勝てる余地は少ない。

●ドンキが一般消費者に浸透したきっかけはTOB合戦

 今回のニトリの報道を見てみると、まだホームセンターにとってニトリが脅威になるという論調の記事は少ないように感じられる。

 これは、実態はホームファッションのお店に変わっているのに、まだまだ「家具屋」というイメージを持っている消費者が多いということもあるだろう。家具以外を購入する際、ニトリを想起する消費者をいかに増やしていくか。コロナの追い風が止んだ後にも増収増益を続けるためには不可欠な要素だろう。

 こういったイメージチェンジの観点からも、今回のTOB合戦において、ニトリが受ける恩恵は大きい。

 筆者は、ニトリ同様に “覇道”を突き進む小売専門店の勝ち組としてドン・キホーテ(現パンパシフィックインターナショナルホールディングス、以下、PPIH)が挙げられると考えている。

 PPIHは、前期までに31年増収増益という驚異的な成長を果たしている。20年6月期に売上高1兆6819億円、営業利益759億円を達成。19年1月、中部地方を地盤とする小売大手ユニーを買収し、国内小売グループとしてイオン、セブン&アイグループに次ぐ地位を確立している。

 巨大チェーンに発展したPPIHだが、かつてドン・キホーテは、「あやしいディスカウントの店」というイメージがあった。そのため、誰もが利用するような業態としては、あまり一般消費者に受け入れられてはいなかった。

 そんなドン・キホーテが一般に浸透するきっかけになったのが、05年のオリジン東秀買収だ。イオンとTOB合戦を繰り広げ、大きくメディアに報道された。

 TOBを仕掛ける前の05年6月期には、16年連続の増収増益を達成。独自のディスカウントストアとして、驚異的な業績拡大を続けていた。当時にして、すでに“勝ち組”の小売業であった。

 強い集客力を持つドン・キホーテ業態を更に進化させようと、総菜に強い「オリジン弁当」を展開するオリジン東秀の株式を買い増して、子会社にしようとした。これに対し、オリジン東秀側が反発。イオンが買収することで、終結した。当時は珍しい「ホワイトナイト(白馬の騎士、敵対的買収を嫌がる会社に友好的な買収相手が登場すること)」などが注目された。この“買収劇”は、当時メディアに大きく報道されたことで、TOBには失敗したものの、ドン・キホーテが一般に認知されることに大いに役立った。

 その結果、「普通の人には入りにくいお店」のイメージを払拭(ふっしょく)するのに役立ち、現在に至る普通の人が普段使いする「ドン・キホーテという他にないディスカウントストア」というブランド育成につながっていったのだ。

●王手飛車取りの好手になるか

 筆者は、島忠の買収劇がどちらに転んでも、ニトリにはメリットしかないと考えている。

 一方のDCMにとっては、規模拡大に必要な島忠を奪われる可能性がある。もしくは、計画していたよりも高値で買わなければいけなくなり、財務の負担が増してしまうリスクが高い。

 島忠を獲得できたとしても、TOB合戦を通じてニトリがメディアに多く露出すると、どんなことが起きるだろうか。

 ホームファッション、そして日用品を含む独自のディスカウンターとして、ドン・キホーテのような新しい独自のディスカウント業態としての「ニトリ」が、社会に浸透することを助けてしまい、自分たちにとっての脅威を育てることになってしまうのではないか。

 DCMにとっては、長い目で見たときに“王手飛車取り”の嫌な手を打たれているように見えるのは言いすぎだろうか?

 今後の「ニトリ」の進化とホームセンター業界各社の対応は要注目だ。

(小島一郎)