コロナ下でスーツやワイシャツを着る機会が減り、紳士服業界の大手企業は軒並み「赤字決算」「店舗閉鎖」を発表しています。アパレル産業全体が苦戦していますが、そのあおりを受けて需要が減少している業界があります。それがクリーニング業界です。

 最近、クリーニングに出す回数が減った、もしくは出す枚数が減ったと感じている人は多いのではないでしょうか。業界大手の白洋舎もその影響を受け、新たな対策を打ち出しています。市場の変化と新興勢力の戦略から、これからのクリーニング業の生き残り策が見えてきました。

 流通小売り・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきているムガマエ株式会社代表の経営コンサルタント、岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。

●在宅ワークで家事関連需要増

 在宅ワークの普及で、消費者の家にいる時間が増えました。結果的に家庭での家事業務が増加しています。2020年5月に電力事業者のSBパワーが行った「おうち時間に関する調査」(全国の20歳〜69歳の家族と同居する500人が対象)によると、外出自粛中で家にいる女性は、多くの時間を家事に費やしていることが分かりました。「家では何をすることが多いか」と尋ねたところ、最も多い回答は「掃除」と「料理」(ともに68.4%)で、4位は「洗濯」(62.8%)という結果でした。このような変化により家事用品がよく売れています。

 P&G、ライオン、花王などはコロナ下で業績が好調です。中でもライオンの20年12月期通期見通しは、売上高3550億円(前期比2.2%増)、営業利益415億円(同39.1%増)と増収増益です。衛生関連用品が大きく伸びたことに加えて、生活者の在宅時間増加により、台所用品や住居用洗剤などの消費が増え、売り上げが増加したのが要因です。コロナは家庭回帰の傾向を強めました。また、「できることは自分でする」という家事重視へとシフトしているのです。

●クリーニング市場規模は年々減少している

 このような状況もあり、生活者が洋服をクリーニングに出す頻度が減少しているのではないかと感じていました。実際に筆者自身もスーツを着る機会が激減し、一時期はワイシャツのクリーニング枚数が半減しました。夏場はTシャツにジャケットというスタイルも増え、クリーニングに出す洋服が1枚もないという週もありました。

 そこで、クリーニング市場に起きている変化を分析してみました。

 全国にあるクリーニング店舗数の10年間の推移を見てみると、右肩下がりで減少が続いていました。最盛期には16万3000店舗あったクリーニング施設数は、2013年に13万3000店舗になりました。さらに、18年には8万9900店舗まで減少しています。機械設備をもった一般施設は3万4000店舗から2万2200店舗へと大幅減です。パパママストアの多い業界でもあることから、事業継続が難しい面もあり、廃業している店舗が多いという特性もありそうです。

 しかし驚くのは、取次所も大幅に減少していることです。一時期は店舗増加により過当競争が問題視されていました。そんな取次所が減少しているというのは、やはり構造的に難しい市場であることを意味しています。

 では、クリーニングの消費環境はどうなっているのでしょうか。消費者の消費実態を示すMS(マーケットサイズ=消費支出金額)を分析します(ここでは全国全世帯ベースでの月別のMSの変化を見ます)。

 国内の全世帯ベースでのクリーニング消費支出は、16年から軒並み減少傾向にありますが、20年2月からそれが強まり、季節指数の高い3〜5月に落ち込みが大きかったことが分かります。それ以降も消費は戻っておらず、年間でも前年比78%程度の4647円という世帯MSに落ち着きそうです(10〜12月は筆者推測値)。

 クリーニング事業者にとっては非常に厳しい年になっているのです。

 これを勤労者世帯と比較してみましょう。

 勤労者世帯では、全世帯平均よりもワイシャツやスーツなどのクリーニングを出す頻度も金額も多いのが特徴です。7月からは少し回復傾向にはあるものの、やはり前半の落ち込みが大きく、年間を通して80%程度の消費支出に止まるというのが実態です。

 こうした状況を踏まえると、クリーニング事業者は今まで通りの経営をしていたら売り上げは8掛け程度になってしまいます。クリーニングの料金設定は、この20年間ほぼ変化していません。ワイシャツで220〜230円です(総務省「小売物価統計調査」)。しかも、クリーニング事業者は個人経営が多く、その95%が従業員4人以下の零細企業です。そして経営者の50%以上が70代以上という高齢化が進んだ業界です。消費支出減、低価格、零細企業、高齢化。このような市場において打開策はあるのでしょうか。

 まずは白洋舎の決算数値から、現状と対策を考えてみたいと思います。

●白洋舎は新規需要の掘り起こしを考える

 白洋舎は2020年12月期第3四半期の連結業績を発表しています。売上高は290億円(前年同期比22%減)、経常損失36億円の赤字です。このうちクリーニング事業の売上高は139億円(同19%減)、営業損失10億円です。同社ではクリーニングだけでなく、事業者向けリネンサプライやレンタル事業の売り上げも大きいのですが、こちらも営業損失15億円と厳しい数字になっています。

 これまでは、クリーニングで250億程度の売り上げがありました。それが20年度は200億を切る可能性もあります。そこで同社では新しい需要の掘り起こし策を打ち出し始めました。

 それが「洗濯代行サービス」です。「PRIME AQUA」と名付けられたこのサービスは、東京都内の一部の区で10月から提供を開始しています。同社の担当者が利用者の自宅を訪問して洗濯物を回収し、洗濯して再び届けるというサービスです。価格は3キロで2500円。6キロで3000円です。同社では450人の回収担当者を配置していますが、果たしてこのようなサービスは利用者に響くでしょうか。たまった洗濯物を一気に洗うだけであれば、近所のコインランドリーを使うでしょう。持って行ったり持ち帰ったりする時間のない人にとっては便利なサービスだと思いますが、少しでも支出を減少させたい家庭にとっては、利用料金がネックになるかもしれません。

 同社の高品質なサービス力を売りにするのであれば、着る機会が減ったスーツやコートをきれいな状態のまま保管してくれるプレミアムなクリーニングサービスや、スーツと共に利用機会が減った革靴やカバンのような革製品のクリーニングなど、「どこへ頼んだらいいか分からないもののクリーニングサービス」こそ適しています。他社ではできない特別なサービスを強化してほしいと個人的には思います。もちろん、同社には「カスタムクリーニング」というプレミアムなサービスや、くつ・バッグ・ぬいぐるみのクリーニング、宅配サービスなどもあります。しかし、これらのサービスが消費者に十分に認知されているようには思えません。今こそ打ち出すチャンスだと思うのですが。

 同社はリネンサプライや環境美化用品のレンタル・販売サービスの大手であるトーカイ(岐阜市)との業務提携を発表しています。これは、今後の法人需要獲得に向けた布石といえるかもしれません。

 しかし クリーニングのような旧態依然とした市場の中で本当に必要なのは、もっと消費者の抱えている本質的な課題を解決するようなサービス開発です。なぜ利用が減少しているのか。なぜマーケットが縮小してきているのか。そこには解決すべき課題を解決できずにいる業界慣習があるからではないか。ここにどうメスをいれていくかが、成熟した業界で勝ち抜いていくためのポイントになります。実はそのような企業が今、クリーニング市場を席巻し始めています。

●クリーニングをDXの力で変えていくホワイトプラス

 テクノロジーを活用し、新たなサービス展開で利用者数を増やしている企業があります。「Lenet(リネット)」というクリーニング宅配サービスを提供しているホワイトプラス(東京都品川区)です。コロナ下でも会員数を伸ばし続けています。会員数は40万人(20年5月時点)を超え、クリーニング累計1000万点という実績があり、クリーニング市場を変える新たなリーディング企業となりつつあります。

 リネットは、注文から宅配手配までWebやアプリで完結します。自宅にいたままクリーニングに出せるネット完結型クリーニングサービスです。同社が事業をスタートさせたのは09年。起業にあたり今の経営陣となっている仲間と共に、日常の生活の中で不便・不満を感じていることをあれこれ挙げたのだそうです。その中にクリーニングサービスがありました。「コンビニは24時間開いているのに、なぜクリーニング店は仕事が終わる時間帯に店が開いていないのか」「休みの日にクリーニングに行くと受付に列ができていて待たないといけない。そしてまた取りに行かないといけない。その時間がもったいない」など、クリーニングには不満を感じている人も多いのではないかと考えたのです。

 「ネットの力で世の中の不便をなくせるか」「時代の流れにあっているか」「世の中を変えられるビジネスか」――この3点でネットを活用したクリーニング事業に参入することを決めたのです。

 スタート時はクリーニングの知識もなく取引してくれる工場もなく、かなり苦労したようです。しかし、事業の可能性を信じ、工場にはりついてサービス内容を改善していった結果、共感して協力する工場もでてきて、業界の常識を変える新しいサービスが作られていったのです。

 同社がネット完結型クリーニングサービスを軌道に乗せられたのは、3つのポイントがあると思います。1つ目は市場性、2つ目にセンターピンを見極める目利き力、3つ目にビジネスモデルの優位性です。

(1):市場は縮小しているが一定以上の市場性があること

 クリーニング市場は、世帯MSで4647円、1人当たりMSでは1787円あります。つまり減少しているとはいえ、日本のクリーニング市場は2000億円以上の規模があるのです。新規参入するにあたっては十分な市場規模があったということです。

(2):利用者の不満に直接向き合うサービスを開発したこと

 飽和しているクリーニング市場において一番の課題だった点は「利用したい時に利用できない」という業界常識でした。これこそが改革のセンターピンです。例えば、ワイシャツのクリーニングは多くの客が利用するサービスであり、もっともMSが大きいサービスであるにもかかわらず、そのサービスを利用したいビジネスパーソンが一番利用しづらかったのです。

 今でこそ残業が減り、仕事帰りにクリーニングも出せるようになりました。しかし、店で待ったり取りに行ったりという手間はかかります。このような不満を直接解消するためには、これまでのビジネスモデルを抜本的に変える必要があります。それは自社のサービスの否定につながり、結果的に変革が遅れます。だからこそ同社のような新規参入事業者が、DXによって本質的なサービス改革をできたのです。

(3):リピート客を確保できるストック型ビジネスモデルにしたこと

 同社の戦略で最も秀逸なのは、有料会員制というストック型ビジネスにしたことです。通常会員以外に、月額390円(税別)で登録できる「プレミアム会員」を設けて、よりお得に使えるオプションと納期に変更しました。クリーニングで有料会員制を導入するわけですから、明らかに既存のクリーニング店舗とは異なるサービス品質が求められます。

 そこで同社ではベンチャーキャピタルから出資を受け、オペレーションを改革するためのシステム投資に力を入れたのです。それによりクリーニングを預かってから届けるまでに当初は5日間かかっていたサービスを、最短2日で届けられるようなシステムに作り変えました。また、早朝6時から深夜0時までの集配や翌日届けを可能にしたり(東京23区ほか一部エリア限定)、シミ抜きや毛玉・毛取り、抗菌防臭加工、洋服にトリートメントをする「リファイン加工」などのケアサービスを毎回標準で利用できるようにしたのです。

 こうした取り組みが評価され、19年度のグッドデザイン賞を受賞しました。これは、同社のサービスが徹底的に客の立場で考えられたものだからでしょう。

 さらに最近は、新規客獲得のためにテレビCMを打つなど、広告宣伝費にも投資をしています。クリーニング業界でCMを打つこと自体、業界の常識を覆しているといえます。

 クリーニング業界はこれまで「集客難」にあえいできました。しかし同社のサービスはストック型のビジネスであり、しかも全国を商圏にできるネットサービスです。立地のよしあしに左右されずに客数を安定的に確保できるようにしたことで、同社は会員数を大幅に伸ばすことができたのです。

●客関連で新規サービスを考えることができるか

 同社は、クリーニング業が投資回収までに時間のかかるビジネスであることを前提に、並行して単価が高く利益をつくりやすい事業を立ち上げています。布団をクリーニングする「ふとんリネット」、靴を洗える「くつリネット」、クリーニング付き保管サービス「リネット PREMIUM CLOAK」など、衣類のクリーニング以外にもサービスを展開しています。前述したようなクリーニングそのものの価値を高められるようなサービスをすでに開始しているのです。

 このような考え方を私どもでは「客関連マーケティング」と呼んでいます。

 既存事業に新たに付加する商品やサービスを考える際には2つのアプローチがあります。それは「客関連」と「商品関連」です。

 クリーニングのような業界では商品関連で考えていくと、どうしても法人需要をとりに行くといったことになりがちです。それも一つの策ですが、クリーニング事業の本質からずれていきます。

 お客さんが本当に求めているサービスをこの業界ではまだ提供できていないのではないか。そこを改善し、満足してもらえるようなサービスを考えることが客関連マーケティングです。ですからホワイトプラス社のように、あくまでもクリーニングの本質に焦点を当てることが必要なのです。

 クリーニング市場は歴史が長く、市場も縮小しており、なかなか変化を起こしづらいように見えます。しかし見方を変えると、既存のプレイヤーでは変革できない市場ということは、業界外の人にはチャンスのある市場だということです。このような成熟市場が日本にはまだまだあります。

 いかに常識にとらわれず、そこに変革を起こせるか。

 市場が成熟するというのは既存事業者の先入観であって、異業種や新規参入者にとっては成熟という概念はありません。柔軟な発想であらゆる市場を見ていくことがこれからの経営においては欠かせないことだと思います。クリーニング市場からこれからの経営の本質を学んでいただければ幸いです。

(岩崎 剛幸)