ニトリホールディングス対DCMホールディングスによる島忠争奪戦は、大方の予想通りニトリの勝利で決着した。DCMの3割増しとなる、1株5500円のTOB価格を提示したニトリは、現経営陣による経営計画の遂行期間と、従業員の雇用維持期間も、DCMの3年を上回る5年を提示して島忠側との合意を実現した。これにより、島忠はニトリの完全子会社となる。

 ニトリにとって、島忠の首都圏店舗網を手に入れることが、5年間の激変緩和措置を容認しても、2100億円の投資金額を十分回収できる利用価値があると判断しているということだ。今後、島忠ブランドは存続させ、独自ルートでの家具調達など島忠の強みを残しつつ、自社のプライベートブランド開発ノウハウを提供して、島忠店舗の全国展開を支援するという。今後、島忠はニトリのインフラや商品力を活用して、これまで以上の成長を目指していくということであり、島忠関係者にとってはかなり有利な条件提示だといえるだろう。

●設備投資が伸び悩んでいたニトリ

 次の図は、ニトリの最近5年間の営業キャッシュフローと設備投資額を示したものだ。

 これは、「稼いだキャッシュをどのくらい設備投資に使っているか」という単純な対比を見た表だ。成長企業であるニトリは順調に稼ぎを増やしてきたが、一方で設備投資額はここ2年ほど減少していることが分かる。店舗網を拡大するスピードに陰りがあり、このままでは従来のような成長スピードを維持できないと踏んだ、という見方もできる。

 地方、郊外での出店余地が少なくなってきた中で、大都市進出を進めてきた勝ち組ニトリといえど、大都市でも場所の確保はなかなか進まないという様子がにじみ出ているデータであり、店舗さえ出せば売上が見込める状況にあるニトリとすれば、さぞや歯痒かったに違いない。そんな中、首都圏に2100億円分をまとめて投資できるチャンスが出たのであるから、これは黙ってはいられなかっただろう。

●お値段以上、お釣り十分の買い物か

 直近期の営業キャッシュフローが1000億円弱のニトリにとって、今回の投資額は2年で稼ぎ出せる程度のものだ。もし何もなく、直近期の設備投資である200億円程度のような状態が続いたら、首都圏攻略は何年もかかったことだろう。島忠に対して寛大にも見える5年間の時間的猶予を与えたとしても、ニトリにしてみれば十分におつりがくる時短投資になったはずだ。

 ニトリは中期計画で、2022年に「1000店舗・売上1兆円」、32年には「3000店店舗・3兆円」という壮大な目標をコミットしている。21年2月修正計画では、売上見込7026億円となっており、島忠の1400億円を加えれば、単純合算でも8400億円とその目標達成はほぼ確実となった。その上、島忠の店舗網をニトリ化した場合の潜在力はそれ以上だ。

 ニトリの売場面積当たりの売上は、島忠の実に1.4倍。順調にニトリ化すれば、単純計算で1400×1.4=約2000億円の売上を確保した、という計算になるのである。さらに言えば、地方、郊外での売上が多いニトリの既存店で計算して1.4倍というのは、人口密度の高い首都圏の島忠だとそれ以上の売上を生むことができると考えてもおかしくはない。ざっくり言えば、ニトリは海外も含めたこれまでの実績に加え、島忠を獲得したことで、32年に3兆円という目標達成がかなり現実味を帯びてきたといえよう。

 島忠を手中にしたことで首都圏攻略の道筋をつけたニトリであるが、インテリア、雑貨に加え、最近ではカジュアル衣料品への取り組みにも意欲を示している。「私のための大人服」を標ぼうし、婦人向けに展開するN+(エヌプラス)という業態はまだ11店舗ながら、郊外ショッピングモールを中心に着実に出店を進めている。現状ではまだ実験的な範囲を出ないかもしれないが、都市郊外部における女性客のニーズ取り込みということではニトリとしては外せないジャンルだと考えているようだ。

 現在、コロナ禍でアパレル事業者が苦境に立たされている中、商業施設内のアパレルテナント交代のチャンスが広がりつつある。この機に、余裕のあるニトリは一気に大都市部に売場確保を進めることも可能であり、一定の売上規模を確保できれば製造インフラを整えて定着化を進めることが予想される。コストパフォーマンスの高いインテリア、雑貨、カジュアル衣料品というジャンルで、「非食品小売業」としての総合化を図っていくという姿勢は明確だろう。つい最近、今後5年間で物流投資に2000億円をかけるというニュースも出たが、こうした背景をあわせて考えてみれば、さらなるインフラ投資にも合点がいく。

●順風満帆に見えるニトリ、ライバルは?

 こうした戦略で首都圏を狙う企業はニトリのみではない。前月稿でも触れた、カインズを傘下に持つベイシアグループは、将来的にニトリへ挑戦できる可能性をもった存在だ。非上場なのであまり知られていないが、ベイシアグループとは、国内有数の小売グループを構成する1社であり、ホームセンターであるカインズと、郊外で単層大型生活必需品スーパーを展開するベイシアが中核企業だ。その合計売上規模は現時点でニトリを上回り、11月19日には売上1兆円を達成したと発表している。

 同グループは「ホームセンター」という業種に分類されているが、雑貨、インテリアなどを中心に多くの商品のプライベートブランド化に成功している。この会社が目指す姿もニトリと同じ製造小売業であり、今やその完成度と品ぞろえはニトリに並びつつあるといっていいだろう。

 中核であるカインズでは、ニトリ同様に都心部への攻勢を最近強めている。都市中心部ではショッピングモール向け雑貨業態「Style Factory」を投入しつつ、郊外では生活雑貨中心の小型ホームセンターを展開して大都市住宅地への進出も旺盛だ。そんなカインズのコンセプトは「楽カジ」。家事を楽に、そして楽しくなるようなアイテムを提供し、「くらしを家事から変えていく」ことを標ぼうしている。こうした発想を基に女性目線の店に仕上がったカインズの小型店は、男臭いハードなホームセンターから明らかに脱却しつつあるといえるだろう。

 加えて、ベイシアグループにはもう一つ注目すべき企業がある。

 意外と知られていないのだが、作業着店から出て今や女性客の取り込みにも成功し、マスコミでも話題のカジュアル衣料品チェーン「ワークマン」も、このグループなのである。

 ワークマンは作業服由来の機能的なカジュアル衣料を進化させた「ワークマンプラス」で、郊外女性客の支持を受けるようになり、今や「ワークマン女子」という業態を横浜中心部のターミナルショッピングモールに出して、大いに話題となっている。郊外から中心部まで首都圏を席巻し始めており、都市部攻略を進めるベイシアグループの知られざる尖兵となりつつあるのだ。

 今回、島忠を傘下とすることに成功したニトリに対して「首都圏進出」で後れを取ることにはなるが、「カジュアル衣料品分野」ではベイシアグループが一歩先を行っている。着実な成長でぴったりと追随するベイシアグループとニトリは、首都圏争奪戦で相まみえることになるはずだ。既にこのジャンルで、首都圏の中心部で確固たる地歩を固めているMUJIブランドをもつ良品計画も交え、3社が競合として意識される日が来るのはそう遠くないだろう。

●製造小売勢が「都市攻勢」を強めるワケ

 雑貨、インテリア、カジュアル衣料を巡って、製造小売業化した新興勢力が大都市争奪戦を準備している理由は、当たり前のことだが、郊外から成長してきたがゆえに郊外を食いつぶしてしまい、さらなる成長のために残る大都市圏を奪い合うしかないからだ。それも、今後の地方圏での人口減少、高齢化の進行を考えれば、地方のみに座していれば、縮小均衡しかないのは自明だろう。

 ただ、ニトリ、ベイシアグループが優先的に大都市部を争うのは、他にも理由があると思っている。

●大都市部の総合スーパー狙いか

 それは、大都市部に総合スーパーの旧態依然とした店がいまだに残っていて、それなりの売上を生み出しているということだ。

 都内にある、それなりに大きな駅の周辺に、老朽化したイトーヨーカ堂、西友、旧ダイエー、旧サティのイオンなどが残っているのを思い出してほしい。大都市圏は地価も高く、新規出店する余地がほとんどないため、これらの店舗を脅かす競合大型ショッピングモールが多くない。そのため、「昭和平成の遺物」といえるような店舗でも存続できている。競合の激しい地方や郊外では、もうほとんど存在しないレガシーが意外にも大都市圏には残っているのだ。

 経済産業省の商業動態統計によれば、19年時点で首都圏における総合スーパーの非食品ジャンルの売上は、少しずつ減ってきたとはいえ、まだ1兆円程度残っている。前述のような競争環境を理由に残っているマーケットだとすれば、ニトリ、ベイシアグループのような新鋭製造小売業からみれば、フロンティアのように見えているのかもしれない。

 これまではなかなか入っていけなかった、大都市圏住宅地域の需要に近づける道を彼らが見いだしたとすれば、こうしたマーケットが蚕食されることは必至だろう。歴史的な意義を終えたとも考えられる総合スーパーは、地方郊外においては大型ショッピングモールの核店舗として、居場所を残しているが、大都市圏ではこうした転換ができる場所はそう多くはない。「競合の新規参入がない」という理由だけで存続してきた老朽総合スーパーの市場は再分割される可能性は高いだろう。総合スーパーという業態は、地域で必要とされている食品供給機能のみを残して、消失する可能性さえあるかもしれない。

●「次なる島忠」は……

 話は戻るが、島忠のような大都市圏に大型店舗網を抱える企業が他にもあるとすれば、これからも“全集中”の争奪戦が行われることは想像に難くない。そうした意味で、大都市圏、つまり京阪神と首都圏に大型店舗を多く保有する企業と言えば、ホームセンターのコーナン商事が思い浮かぶ。

 同社はホームセンター業界第3位として売上は3700億円以上。その3分の2が都市部に集中している。このことから、「次なる島忠」は、コーナン商事といえるかもしれない。そして、ここで驚くべき事実がある。ニトリの似鳥会長はコーナン商事の社外取締役を務めているのである。ただそれだけのことといってしまえばそうなのだが、島忠を巡る動きを見た後、この事実は何とも不気味に感じる。今後もこの業界からは目が離せない。

(中井彰人)