新型コロナウイルス感染症により、日本でも一時期、マスク不足が起こった。これにより、シャープやユニクロのような異業種がマスク提供に乗り出したり、布マスクを手づくりしたりすることがブームになる。街を歩けば、不織布製の使い捨て以外のマスクをつけている人が珍しくなくなった。

 ブームになったのは、マスクそのものだけではない。マスク関連アイテムでも思いがけないヒットが生まれている。

●マスクは洗って繰り返し使うという新生活様式に対応

 その代表が、丹羽久(岐阜県恵那市)の「住まいの魔法のパウダー マスクのつけ置き除菌洗浄剤」。マスク専用の洗剤だ。

 同社は社員20人ほどの小さな日用品メーカー。「住まいの魔法のパウダー マスクのつけ置き除菌洗浄剤」は「つねに顔に触れているマスクを他の洗濯物と一緒に洗うのは抵抗がある」「洗濯機で洗うと傷んでしまいそう」といった懸念から開発された。

 使い方は、洗面台に張ったぬるま湯に投入し、マスクを30分ほどつけ置きするだけ。終わったら水ですすぎ、干して乾かせば再び使える。つけ置き洗いなのでマスクの繊維を傷めることがなく、防御機能の低下を心配する必要がない。

 「普段使っている衣料用洗剤でもいいのでは?」と思うかもしれないが、衣料用洗剤はマスクの洗濯にとって適切な選択とはいえない面がある。香りがあると装着と同時に吸い込み続けてしまうし、マスクは肌が敏感な顔に装着するものなので肌荒れの心配もあるためだ。

 そのため「住まいの魔法のパウダー マスクのつけ置き除菌洗浄剤」は、主成分に、使い終わると炭酸ソーダ、水、酸素に分解される、環境にやさしい過炭酸ナトリウムを採用。過炭酸ナトリウムは酸素系漂白剤の主成分で、汚れを落としイヤな臭いを分解するだけでなく、除菌・漂白も行ってくれる。合成界面活性剤を使っていないので、肌への刺激が抑えられるほか、無香料なので香りを吸い込み続ける心配がない。

 「住まいの魔法のパウダー マスクのつけ置き除菌洗浄剤」は、発売から1カ月半で当初目標の4倍に当たる数量を出荷するほど好調に売れている。洗える素材のマスクが一般化し、マスクを洗って繰り返し使うことが新しい生活様式として浸透したことが、現在の好調につながっている。

 マスク専用洗剤はこのほかにもいくつか発売されているが、面白いことに手がけているのはどこも中小企業ばかり。大手はコープ(日本生活協同組合連合会)がこの12月に発売するぐらいだ。ニッチすぎて、大手は参入のメリットがないのだろう。

 この現象に、中小企業が求めるべき活路が見える。それは大手が参入するにはニッチだが、確実に需要が見込める分野で勝負すること。「住まいの魔法のパウダー マスクのつけ置き除菌洗浄剤」の例は、中小企業は新規参入するフィールドを誤ってはいけないことを示唆している。

●コロナ以後に爆売れした理由はマスクメイクの訴求

 もう1つ、マスク関連アイテムで売れているものがある。コーセーの「メイクキープミスト」だ。

 「メイクキープミスト」は汗や皮脂による化粧崩れを防ぐメイクキープスプレー。19年6月に発売したものだが、新型コロナの感染拡大に伴い、「マスクで化粧が落ちない」と評判になったことから売れ行きが急拡大している。発売からか9カ月後の20年3月に総出荷本数が100万本を超えるなど、コロナ以前から人気があったものの、さらに4カ月後の20年7月には総出荷本数が200万本を突破。単純計算だが、コロナ以後の売れ行きがコロナ以前と比べて倍以上で、まさに爆売れ状態だ。

 メイクした上からマスクを装着すれば、マスクが触れた部分の化粧は落ちる。布マスクのように洗って繰り返し使うマスクだと、洗っても落ちにくいことがあるので、洗濯が厄介になる。

 このように、女性は化粧することもあり男性よりマスクの装着に神経を使う。マスクするたびに化粧が落ちてしまうことに悩む女性が「メイクキープミスト」に飛びつくのは、ある意味自然なことだ。

 メイクキープスプレーは数多く販売されている。その中で「メイクキープミスト」が選ばれている理由として、効果が8時間ほど持続する、ドラッグストアで手に入る、化粧の質感が変わらない、などを挙げることができるが、コロナ以後の爆売れを実現したのは、プロモーションによるところも大きい。化粧品にしてはテレビCMの放映など予算をかけていないが、コロナ以後、同社公式TwitterアカウントやSNS広告で動画を配信するときは、必ずハッシュタグ「#マスクメイク」を付けることを徹底。これにより、マスクによる化粧落ち防止の情報を探している女性の目に商品を触れやすくした。

 実は「メイクキープミスト」のプロモーションではもともと、季節に応じて訴求ポイントを変えていた。発売した19年6月ごろは化粧が崩れにくいこと、同年冬はこれに加え保湿効果があることを訴求している。マスクメイクの訴求もこの流れの一環だった。

●消費者に安全・安心が実感できる具体的な提案の実行

 2つの商品が好調に売れている理由は異なるが、共通していることもある。それは、安全・安心が実感できる具体的な提案を消費者に行ったことである。

 「住まいの魔法のパウダー マスクのつけ置き除菌洗浄剤」は、洗えば繰り返し使えるマスクの適切な洗い方を、専用洗剤を使って行うことを提案。環境にやさしく肌への刺激が抑えられた上に無香料な専用洗剤を使いつけ置き洗いすることに、消費者は高い安全性を感じた。一方「メイクキープミスト」は、マスクをつけることで化粧が落ちることで悩む女性に、吹き付ければ8時間ほど化粧が落ちないことを訴求。スプレーのため化粧の質感が変わることもないこので、安心して使えた。

 新型コロナは不明なことが多く収束の見通しが立っていない。今は先行きに不安を感じる異常時といえよう。平時でも安全・安心なものは選ばれるが、異常時は不安な心理からその傾向がより顕著になる。

(大澤裕司)