クルマの電動化が加速している。既存の自動車メーカーが純エンジン車からハイブリッドやEVへ転向しつつあるのはもちろんだが、この勢いに乗ってたくさんのEVベンチャーが立ち上がっている。数あるEVベンチャーの中でもパイオニア的な存在が、テスラ・モーターズを立ち上げたイーロン・マスクだ。

 イーロン・マスクがテスラより少し前に立ち上げた、宇宙ロケット開発企業がスペースXだ。同社は試行錯誤を繰り返しながらも、着実にNASAに代わる宇宙開発や民間の宇宙旅行を実現する手段として存在感を高めつつある。そしてテスラも、およそ15年の歳月をかけて、ベンチャーから完成車メーカーへと成長を遂げた。

 ところで彼は、賭けに勝ったといえるだろうか。

 イーロン・マスクが採った、その巧みなテスラの成長戦略を思い起こしつつ、数あるEVベンチャーの現状と今後の可能性を見ていく。

●テスラの巧みな成長戦略

 テスラの発想力と決断力、行動力はベンチャーならではというより、ベンチャーの枠を超えていたといえる。思えばテスラは、最初から自動車エンジニアの度肝を抜く発想力で、高性能なEVを作り上げて見せた。

 まだリチウムイオンバッテリーがクルマ用としてはほとんど使われていなかった頃、ノートパソコン用ので直径18ミリ、長さ650ミリの円柱型をしたバッテリーを6831本も使ったEVを開発した。コストを抑えながらもスポーツカーとしての動力性能は十分で、当時のEVとしては驚異的な356キロメートルという航続距離を実現した。

 そして自動車メーカーとしてのノウハウがない問題は、ロータスからシャーシを購入することで解決してしまった。こうして作り上げられたのが、テスラ・ロードスターだ。

 次にテスラは、より完成度の高いEVをイチから自社で開発することを目指す。自動車メーカー出身のエンジニアを雇い、シャーシを自製。運転操作以外の装備をすべて大型タッチパネルに集約することで、近未来的な運転感覚を強調しながら、ソフトウェアだけで幅広い領域を制御できるシステムを構築した。

 自動運転技術も積極的に導入し、さらにはOTAと呼ばれる無線を利用したソフトウェアのアップデートを採用することで、ディーラー不要のサービスを実現した。

 こうして高性能ぶりを投資家たちにアピールし、マスクは多額のベンチャーキャピタルを集め、テスラを成長させ、存続させてきたのだ。

 ベンチャーキャピタルからの出資だけでは経営が難しくなると、次は顧客から予約金を集めることで、資金難を乗り切ろうともした。結果的にギリギリのところでテスラは踏みとどまり、中国に新工場を建設して「モデル3」の生産台数を一気に引き上げ、危機を乗り切ったのだ。時には発言などを通じて株価を高く見せることもあったが、それも危機を乗り越えるためだった。

 少し前にイーロン・マスクがテスラをアップルに売却したいと、ティム・クックCEOに打診した事実が明らかになったが、報道によれば会うことさえ拒否されたという。アップルは独自の自動運転車を開発中であり、すでに構築されたブランドであるテスラには興味を示さなかったのだろうが、結果的にマスクは、なんとかテスラを手放さず危機を無事に乗り切ったのだ。

 世界中の自動車メーカーがグループ再編の動きをみせているが、今のテスラを買おうとする自動車グループは存在しないだろう。理由は単純で、株価が高過ぎて手を出せないからだ。かつてトヨタが出資していた頃のテスラと、今のテスラは同じではない。

 2020年だけを見てもテスラの株価は8倍にも高騰しており、カーボンニュートラル規制も伴って、世界的なEVへの期待からその過熱ぶりは留まることを知らない印象だ。

 テスラの成功とEVブームの双方が背景にある北米では、テスラに続けとEVベンチャーが続々と登場している。

●数あるEVベンチャーは、どれだけ生き残れるか

 北米では、EVベンチャーが急速に増えている。実質的にはベンチャーキャピタルが運営しているようなものだが、これらは今後どのように成長していくだろうか。

 北米には、ニコラ・モーター、ボリンジャー・モータース、リビアン、フィスカー、ルシッド・モータース、ローズタウン・モーターズなど、目ぼしいところだけでも片手を超えるほどのEVベンチャーが存在する。

 ニコラ・モーターはテスラ同様、そのネーミングを、交流電流を広めた発明家ニコラ・テスラを由来としているだけに、テスラの二番煎じの印象だが、その実態はどうであろう。

 同社は、投資家や購入者の関心を煽りたいあまりに自社の技術をやや誇張して紹介したため、非常に残念なことに開発能力を疑われてしまった。その後GM(ゼネラルモーターズ)のバックアップを得られるようになったが、信用を完全に取り戻したといえるほどにはない。

 もっともEVベンチャーは、ニコラのような怪しげなところばかりではない。高級EVで失敗したフィスカーは、SUVで3度目の挑戦に賭けている。発売は22年とまだ先だが、逆にこれまでの実績が信用を高めることになるかもしれない。

 ルシッドは高級セダン「エア」を開発中だが、その他のブランドはSUVもしくはピックアップトラックなど、サイズの大きなRVを開発しているところが多い。その理由としては、現在の北米市場では税金の安いピックアップトラックが人気で、大きな車体はたくさんのバッテリーを搭載しやすく、車体の重さがデメリットになりにくい点などが挙げられる。スタイリングなどデザイン面でも、メジャーな完成車メーカーでは難しい冒険心のある造形を打ち出して、ユーザーの関心を集めやすい。

 これらEVベンチャーについては、21年以降、生産にこぎ着けられるブランドがどれだけあり生き残っているか、その動向を観察していこうではないか。

●中国の新興EVメーカーの進出と、EVベンチャーの今後

 そんな北米と比べると中国の新興EVメーカーは、いささか状況が異なる。すでに販売を開始している企業が多い上、SUVを中心にミドル〜アッパーミドルクラスのボディを有しているブランドが主流だからだ。

 ボディサイズは中国市場での需要を考えれば当然のことだが、SUVは世界的に好評なため今後は積極的に輸出するところも増えてくるだろう。EVが主流となると、中国の新興メーカーのブランド力も急速に高まる可能性がある。モーターやインバーター、バッテリーのマネジメントシステムなどの早急な改善が予想できるからだ。

 ただし純エンジン車の販売禁止規制が始まると、これまでハイブリッド車やEVには不向きだった地域にもバッテリーを多く搭載するクルマが増える。そのため信頼性や安全性に問題があればたちまちリコールとなるから、数あるブランドも自然と淘汰されていくだろう。

 そのような信頼性や安全性が重要視される状況下では、品質の高い日本のバッテリーが再び注目を集める可能性がある。確かにパナソニックは、テスラへの投資に思い切ることができず、結果として他のバッテリーメーカーの参入を許してしまったが、品質面で一級品であることは間違いない。

 東芝のチタン酸リチウム二次電池「SCiB」も、耐久性に加え、瞬発力や急速充電に優れている。こうした日本ならではの高品質なバッテリーは、EVやプラグインハイブリッドが多くなると、各メーカー差別化アイテムとして活用されることになるかもしれない。

 これから先、EVやハイブリッド車を購入するユーザーは、車体の衝突安全性や電動車としての信頼性を重視する保守的なユーザーと、刺激を求める新しモノ好きのユーザーに、需要が二極化していくことになるのではないだろうか。

 それにクルマの価値は決して、性能やコスパだけでは決まらない。空間の心地良さ、予想を超える使い方の提案と、EVや自動運転技術の成熟により、クルマに新たな可能性を付加できる要素も生まれる。

 日本では超小型モビリティの法整備が整い、衝突安全基準も軽自動車より簡素化された結果、これまでよりEVベンチャーを立ち上げやすい環境になってきた。高齢ドライバー向けやスポーツカーなど、さまざま需要に合わせてデザインされた超小型モビリティの登場も、現実になりつつある。

 今まで以上にワクワクするクルマを提案する、そんな自動車ブランドの登場も期待できそうだ。

(高根英幸)