ソフトバンクグループの孫正義氏に「4000億円のホワイトマーケットをよく見つけた」と、ユニクロの柳井正氏に「新しい市場を作った」と言わせた企業がある。作業服の業界で40年間トップを走るワークマンだ。「過酷ファッションショー」など独自の取り組みのほか、10年連続で増収、最高益を更新し、コロナ禍の中でも勢いを増している。

 2020年は緊急事態宣言が出された4月でさえ既存店売上高は前年を上回り、5月以降は常に二桁の成長(最大は6月の37.2%)を実現。11月の既存店売上高は38カ月連続で増えている。

 ITmedia ビジネスオンラインは、同社の土屋哲雄専務取締役にインタビューを敢行。いかにして4000億円という市場を発見するに至ったのかを聞いた。

●孫正義「空白市場をよく見つけた」

――三井物産で30年以上勤務した土屋専務は還暦直前に、(創業者で叔父の)土屋嘉雄会長に声を掛けられる形でワークマンに入社しました。当初は会長から開口一番「この会社では何もしなくていい」と言われたそうですが、入社後は何を考えてどんな取り組みをしたのですか?

 土屋会長から声がかかったのは2012年でした。当時のワークマンは30年以上、2位の会社に大差をつけ作業服のシェア1位に君臨していました。私はそれまで三井物産で多様なビジネスを経験していましたから、そこで培った経験を生かそうと思い、まずは社員のヒアリングを通じてワークマンの強みを見つけだそうと思いました。

  そこで掲げた方針が「法人契約は狙わない」「粗利益が高い製品を扱わない」「一番儲(もう)かる製品はチラシに載せない」「値引きをしない」といった「しない経営」です。

 一方でワークマンの成長の限界も見えていました。入社当初のペースで加盟店が増えたとしても2025年には1000店舗になります。そうすると売り上げは1000億円が限界です。

 企業文化にも閉塞感がありました。何十年も同じことをしてきたせいか、社員たちは危機感を覚えながらも変わらずにいました。そこで、新たな市場を開拓しようと考えました。

――のちにソフトバンクグループの孫正義氏が「4000億円のホワイトマーケットをよく見つけた」と言っていたそうですが、いかにしてその市場を見つけたのですか?

 まず自分たちがビジネスをする市場から近い市場を狙いました。それがアウトドアの市場です。ただその市場にはすでに強い競合がいたし、ワークマンにはそもそもアウトドアのイメージがありませんでした。

 一方で当社の製品をよく分析すると、もともと作業着用に作られているため機能面ではアウトドア向けの製品に見劣りしないし、何よりも低価格が実現できていました。そこがワークマンの強みだと分かったのです。

 アパレル市場を「価格」と「デザイン/機能」の軸でマトリクス分析すると、「低価格」×「機能性」という空白の市場を見つけました。それが4000億円というホワイトマーケットです。ワークマンはこの市場にフィットすることができたと考えています。

●ワークマンプラス立ち上げの舞台裏

――市場があっても参入して開拓するのは容易ではないと思います。

 そこでワークマンプラスという従来の作業着とは別のブランドを立ち上げました。しかしながら、ワークマンプラス用に開発した製品はなく、既存のワークマンで取り扱っていた1700の商品の中で、アウトドア向けに展開できる商品を320ほどピックアップしたのです。それをワークマンプラスの製品として販売しました。つまり見せ方を変えたわけですね。

 作業着のワークマンでは一体も使っていなかったマネキンや全身の姿見を置いたり、試着室も広めにとったりしました。製品には自信があったもののアウトドアのイメージがないため、「3年は赤字覚悟、認知されるまでには10年」と覚悟して、18年9月に「WORKMAN Plus ららぽーと立川立飛店」を出店しました。しかし連日の行列もあり、初年度の目標をわずか3カ月で達成することができました。

――実際にWORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店に立ち寄ってみましたが、確かにショッピングセンターに店舗があっても全く違和感がありませんね。

 実はショッピングセンター(SC)に作業着ブランドがこれまで入ったことはありませんでした。だから初めは「WM+」といったワークマンや作業着を連想させないセカンドブランドを作ろうとしたのです。

 しかし、ららぽーと立川立飛を担当していた三井不動産の担当者に聞いてみるとワークマンという名前が、高品質な製品の象徴だというアドバイスをもらい、最終的に「ワークマンプラス」という名前にしました。「WM+」か「ワークマンプラス」で成功したときにどちらのリターンが大きいかを考えたときに、ワークマンの名前が入っている方がいいと考えたのです。

●個人に依存しない「凡人経営」

――機能性はもちろんのこと、ファッション性も高いですが、商品開発にはどんな基準を採用しているのですか?

 ワークマンの場合、商品開発の途中でレビューすることはなく、完成品をみます。その代わりに1年目は小ロット生産にし、反響を見ながら2年目以降に需要予測をして生産するのです。自社製品は5年間売り続けるので、他社が機能面、価格面、デザイン面でも勝てないと思える商品作りを心掛けています。

 そういう体制をとっていると従業員が自発的に商品開発をするようになりますね。たとえ1年目で機能が間違っていたり、価格が合っていない商品ができたりしても初年度の生産量が少ないので大丈夫です。

――他社では社長や会長が居並んで御前会議をし、提案した商品に対してボツを出したりダメ出しをしたりする事例もありますね。ワークマンでは会社の上層部ではなく、あくまで商品を市場や客に判断してもらうということですね。

 そうですね。天才的なデザイナーが作るわけではなく、凡人が小出しに商品を作り、2年目で改善していくことを重要視しています。あくまで当社は「凡人経営」であって、特定の誰かに依存するのではなく、従業員にもストレスをかけず、やる気を持って働いてくれることが大切だと思っています。

 それこそ昔の商品部では結果が露骨に数字に現れるため、成果を出せない人材は半年で左遷したり、自主退職したりすることもありました。ですが個人の犠牲のもとに会社が栄えても持続性がなく、あくまで平準化し、誰でもできる商品開発をワークマンでは心掛けています。

――ワークマンの市場の見つけ方は非常に興味深いです。一方で他業種の場合は、この方法をどう応用したらいいのですか?

 まずは自社の強みをしっかり把握することが肝要です。製品力、顧客関係力、運営力のどれが強いのかを明確にする。次に強化する分野を考えます。ワークマンの場合、運営力は強かったため、製品力を高めることによって他社とより差別化ができると考えました。同時に市場の変化を読みながら、どの分野に進出するかを考えます。

 知見もない新たな市場に飛び出しても失敗する可能性が高いです。だから自社の強みが通用する近い市場を狙うことが重要ですね。私は縦軸に市場の大小、横軸に価格の高低を置いた、市場戦略マップを作成し攻める市場を分析しました。データサイエンティストやコンサルタントにこれを頼むと並一通りの答えしか出ないことがありますから、自分の頭で考えることが第一歩だと思います。

●事実を客観的に把握する視点

 以上が土屋専務へのインタビュー内容だ。難解なロジックを使わずに、他業界でも横展開できるマーケティング手法を活用し、新たな市場を見つけたワークマン。これまで同社が積み上げてきた強みと、決して背伸びをすることのない戦略、新たなカルチャーの定着がうまくかみ合い成長につながった。社員への地道なヒアリングと、事実を客観的に把握する視点が経営者には求められる。(鳥井大吾、アイティメディア今野大一)

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