青い海、白い砂浜、赤いハイビスカス、オレンジ色のサンセット。観光立県・沖縄の典型的なイメージ戦略はこれまで常に「夏の沖縄」と結びつけられてきた。沖縄の観光PRのポスターは、ほとんどのケースで透明度の高さを誇る海の写真を採用している。

 そんな“常夏の島沖縄”に冬季限定のサウナ施設が誕生した。沖縄本島北部・名護市のリゾートホテル・カヌチャリゾートを運営するカヌチャベイリゾート(沖縄県名護市)と、Web制作や広告プロモーション、イベント企画などを行うエイド・ディーシーシー(大阪市)が展開する体験型サウナヴィレッジ「Δ℃℃ ZONE(アッチッチゾーン)」だ。料金は1人6000円(税別)〜。テントサウナ1台を最大6人で利用できる。新型コロナウイル感染拡大により変動する可能性もあるが、期間は2月7日まで。毎週土曜日に開催している。

 なぜ沖縄でサウナなのか。両社は、利用者が見込めずに遊休化する冬季の「冷水プール」を逆手に取った。プールを取り囲むようにテントサウナを9基配置し、水着のまま高温のサウナで汗を流す。そのあと目の前の冷水プールにそのまま入ることで、サウナの醍醐味ともいえる水風呂効果と、開放的なリゾートホテルのプールの雰囲気を一気に味わえる点を訴求する。

 エイド・ディーシーシーのプロデューサー・佐々木駿さんは「地方創生の文脈も含めて、今ある資源をどう生かせるかと考えました」とし「サウナを目的に、1日でも長く滞在してもらいたいです」と、コロナ時代でのワーケーション需要とも関連付ける。野外イベントで、なおかつテントは個人やグループで完全貸切という点も、3密防止に沿っていると強調する。

●沖縄らしい演出で「サウナ」の定着を図れるか

 カヌチャリゾートはもともと、観光オフシーズンには毎年大規模なイルミネーションイベントを展開しており、色とりどりの電球に囲まれながらのナイトプールも同時に楽しめる仕掛けを生み出している。

 ロウリュ(水蒸気を発生させるサウナ入浴法)に使用するアロマオイルには、沖縄で古くから薬草などに利用される月桃や、地元かんきつのシークヮーサーなど“沖縄の香り”を採用。琉球ガラスでできたランプが色調変化したり、すぐそばのビーチから聞こえる波の音と合わせて聞く「環境音楽」が流れていたりと「沖縄ならではの体験」に主眼を置いた工夫が散りばめられる。

 佐々木さん自身、実家が銭湯でサウナがあり、筋金入りのサウナ好きでもある。本場・フィンランドに出向いてサウナを巡るほどだ。そのサウナ愛と共に「(サウナ時には)外が寒ければ寒いほどいいとされています。ライフセーバーがいればプールではなく海で行うことも可能です。テントサウナは設営も簡単なので、冬の沖縄で楽しめるコンテンツとして、今後も広げていければと思います」と展望を語る。

 カヌチャベイリゾートの嘉陽宗一郎さんは「沖縄の入域観光客数を月ごとに平準化させるために、冬のコンテンツを作っていこうという動きはずっとありました」と振り返る。「冬の集客が少なく、労働市場においても低賃金や雇用の不安定などの課題があります。そんな中で冬のプールサイドを使って新しいコンテンツが作れるというのはすごく魅力的です。冬の沖縄観光も楽しんでもらえたら」(嘉陽さん)

 そもそも、沖縄は夏のイメージが強く冬の行き先として選ばれにくかった。1〜3月は国内外のプロ野球キャンプなどスポーツ系の観光コンテンツがある。しかし嘉陽さんは「コンテンツとしての引きは限定的だ」と話し、冬のサウナに期待感を示す。

●19年はハワイ超え! 進む月別観光客数の平準化

 日本全体を見た場合、冬のコンテンツは地域によって充実しているものの、総じて“ナイトコンテンツ”が弱い傾向にあるという。一方、海外ではカジノやミュージックバーなど多くのナイトコンテンツがあり、インバウンドの取り込みや滞在日数の長さなどで国際的な競争力をつけるための課題の一つとされている。

 先述した通り、沖縄の典型的なイメージ戦略はこれまで常に「夏の沖縄」と結びつけられてきた。しかし近年、季節を問わず沖縄を楽しんでもらおうと、官民共に「冬の沖縄観光」のコンテンツ開発を進めており、アフターコロナやウィズコロナ時代の観光客誘致につなげる動きが顕在化している。

 コロナ禍に突入する前の2019年まで、沖縄を訪れる国内外の観光客数は増加の一途をたどっていた。沖縄県の資料によると同年は過去最高の約1016万人を記録。これはハワイへの観光客数を上回る数字だ。日韓関係の悪化で韓国からの観光客が前年から3割程度減少したものの、全体としての伸び率は3.2%を維持した。

 月別に見ると、最多月は8月で約102万人、最小月は1月で約75万人だ。これと同様に13年の資料によると、最多月は8月で約71万人、最小月は1月で約43万人だ。8月を100%とした時の1月の数値は、13年は60.5%だったが19年は73.5%と、この2つの年の比較では最多月と最小月のギャップが埋まり、平準化が進んでいることが分かる。

 沖縄県の観光推進を手掛ける県の外郭団体・沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)の担当者は「季節に関わらず、分散して安定的に訪れてもらえるような取り組みを進めています。例えば秋季は、夏季ほど混雑していないことを利用して、アクティブシニアにゆっくり観光してもらったり、冬季は(暖かい沖縄で)ゴルフを楽しんでもらったり、時期に応じた訴求を続けてきました。ダイビングについては、冬の方がプランクトンなどの浮遊物が少なく、透明度が高いため、本格的なダイバーは進んで冬の沖縄の海を楽しんでいます」と話す。

 OCVBの下地芳郎会長は、年始の「沖縄観光新春の集い」で、観光業界や行政の関係者が一堂に会する中、ウィズコロナ時代と関連付けながら「デジタル化推進」や「質の強化」などに触れ「今後は『以前の観光』に戻るのではなく、社会の変化に対応した『新しい観光、強い観光』の実現に向けて、官民が一致団結することが必要です」と言及した。ワーケーションの推進にも力を入れるとし「長期滞在型観光推進と新たな企業誘致の観点から、県内で取り組む関係者間の連携を強化するための体制を強化し、『沖縄型ワーケーションモデル』の構築に取り組みます」とも述べている。

 これまでの「青い海、青い空」にある意味では頼っていた沖縄観光は、総合力を増すことで転換の時を迎えつつある。

●プロ野球キャンプだけじゃない 掘り起こせ「冬の沖縄」

 とはいえ、沖縄の大きな魅力である「青い海」を連想させるような、沖縄ならではの体験型のサービスにも人気が集まりつつある。

 産地直送のあこや貝から取り出した本物の真珠でアクセサリーを作る体験コンテンツを提供するハッピーパール(宜野湾市)は、20年8月の開店以来「観光オフシーズン」「コロナ禍」という要素がありながらも売り上げは右肩上がりだ。ハッピーパールの藤本和宏代表は、前職で体験コンテンツを提供するプラットフォームの営業職をしており、シーズンに集客を依存しないサービスの事例を多く見てきた。「『通年で楽しめるサービス』を意識しました」という点が奏功した。

 藤本代表は「冬の沖縄はすごく面白いんですよ。ホエールウォッチングや(本州とは開花時期も品種も違う)サクラなど花関係、最近だとイチゴ狩りも人気で、人も来ている印象でした」と話す。さらに「沖縄に来る観光客はリピーターが7割8割を占めていて、滞在の時点で次の来訪予定がすでに決まっている人も多いです」という。

 そのようなリピーターを中心に、関心は海やマリン系だけでなく、食や文化も含めた体験系の人気が高まりつつある。「海以外の魅力は、すでに県外の人の方が探している状況です」と述べ、県民自身が沖縄の楽しさを再発見することで、新たな魅力を作り出していく大切さにも触れる。多くの県民にとっては、沖縄は「生活の場」であり「日常の場」であることから「沖縄を遊ぶ」という感覚は観光客より乏しいといえる。首里城に一度も行ったことがないという県民も決して珍しくはない。

 藤本代表がお客と接する中で大切にしていることは「この人にまた沖縄に来てもらえたらいいな」という気持ちだ。「海だけが目的ではなく『沖縄に会いたい人がいるからまた行く』という人が多くなると思います。観光客向けのお店もそうでないお店も、みんなでより一層のコミュニケーションを意識していくだけで、何気ない日常の沖縄にも、観光地としての魅力が生まれると思います」

長濱良起(ながはま よしき)