コロナ禍で終始した2020年が終わって、21年になっても第3波は収まらず、ついには緊急事態宣言の再発出という事態になってしまった。宣言後も感染者数は「過去最多」「曜日最多」といった状況で推移し、まだまだ収まるようには思えない。その間にも、オンラインでのコミュニケーションは浸透し、コロナ後もリモートワークは当たり前のこととして定着していくに違いない。

 リモートワーク定着化の影響ともいわれるが、最近では「東京一極集中」にも変化が起こっているという報道をよく目にするようになった。総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告によれば、これまでは増加傾向であった東京都への移動人口が7年ぶりに減少へ転じ、主に首都圏郊外へ流出し始めたというのである。

 日本経済新聞の21年1月3日付記事「東京郊外へ移住じわり 都心100キロ圏内に関心」によると、リクルートの不動産物件を扱うネット情報サービス「SUUMO」の地域別閲覧数を分析したところ、東京から50〜100キロ圏での閲覧件数が大きく増加しているという。

 記事で挙げられていた閲覧増加ポイントを列記してみると、千葉県館山市、東京都あきる野市、栃木県那須町、神奈川県逗子市、埼玉県本庄市、茨城県取手市、千葉県佐倉市、神奈川県茅ケ崎市と、確かに都心からはそこそこ遠いところが並んでいた。2拠点生活需要という面もあろうか、という見立てではあったが、こうした情報を聞けば、大都市圏住民の居住地に関する考え方は確かに変わりつつあるのかもしれない。

●「国道16号」が境目

 東京一極集中とは、人口が東京及びその周辺地に集中し、その周囲、地方から人を吸い寄せるといったことのイメージだが、具体的にはどこまでが人口を吸引してきたエリアなのだろうか。小売ウォッチャーの見方でいえば、その境目といえるのが、国道16号線であろうと考えている。

 国道16号線とは、神奈川県横浜市西区の高島町交差点を起点に、横浜市、東京都町田市、神奈川県相模原市、東京都八王子市、埼玉県川越市、さいたま市、千葉県柏市、千葉市、木更津市、神奈川県横須賀市を経由して、高島町交差点を終点とする一般国道の路線で、東京都心部を中心軸とした環状線になっている。

 ざっくり言ってしまえば、この環状線から外側が、いわゆる首都圏郊外エリアであり、中心的移動手段がクルマであるロードサイド立地という地域である。対して内側が首都圏中核部であり、このエリア内の人の移動は放射線状の鉄道網と、鉄道駅を中心とした公共交通によって構築されている。具体的には、東京23区と多摩地区の立川以東、神奈川県では川崎市と横浜の北半分、さいたま市より南の埼玉県南部、千葉は浦安、市川といった地域ということになる。「首都圏」とまとめて語られることは多いが、内訳はこうした二重構造になっていることは、首都圏在住者であれば何となく気付いているはずだ。

●首都圏の人口減少、「内側」は無縁?

 首都圏内側は、東京の首都機能と従事する人の通勤可能な居住地であるため、都心を中心とした放射状の公共交通網がカバーする。その外側は後背地として製造拠点、物流機能などが分散配置されていて、人はクルマなどパーソナルな移動手段を中心に縦横に移動する、というのが活動イメージといっていいだろう。

 16号線が通っている自治体は、正にその“汽水域”であり、通過自治体から外を外側、それ以外を内側として人口規模、動態について統計値(国立社会保障・人口問題研究「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」)を集計してみたのでご覧いただきたい。

 現時点では首都圏1都3県の内と外の人口規模はほぼ同水準で、ともに1800万人ほどという巨大な人口集積となっているのだが、驚くのは、今後の動態だ。

 首都圏といえども今後は人口減少が進むというのは事実なのだが、この分類でいう内側は、45年になっても現在との比較で増加している、という推計結果になる。つまり、首都圏における今後の人口減少とはあくまで外側地域の減少であって、内側はほぼ無縁なのである。

 つまり、エリアマーケティングの観点からは、今後は首都圏の内側においてシェアアップしていく戦略を確立することが重要だということがデータ上も明らかなのだ。最近話題になったニトリ、DCMホールディングスの島忠争奪戦も、こうした背景をみれば「なるほど」と腑に落ちることだろう。なぜなら、島忠の店舗はほとんどが内側にあるからだ。

●16号線内外でガラッと変わる「小売業界勢力図」

 首都圏は、こうしたマーケットの二重構造がある。そのため、小売業界については、16号線の内外で有力企業の顔ぶれが違うのだ。

 例えば、われわれ消費者が最も頻繁に訪れる業態の一つである食品スーパーなどは、ほぼ16号線を境にすみ分けがされている。

 首都圏の有力企業でいうなら、内側は、オーケー、ライフコーポレーション、サミット、外側がヤオコー、ベルクという顔ぶれになる。加えて、内側のマルエツ、外側のカスミをイオン・グループが統合したユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)までが、代表的なプレーヤーだろう。それぞれの売上推移をみると、内側はオーケー、外側であればヤオコーに勢いを感じ取れる。ちなみに、食品スーパー業界の売上トップとされているのは、ライフコーポレーション(20年2月期売上7147億円)なのだが、京阪神と首都圏の2地域展開なので、首都圏だけに限定すると、オーケー・ヤオコーにやや見劣りする。

 ただ、前述の通り16号内外のマーケットは異質であるため、この2社がガチンコ対決しているという場面は、そんなにない。ヤオコーは外から内側に向けて入っていこうという意欲を過去から明らかにしてはいるが、まだ実現できているとは言いがたい。これに対し、オーケーは、自社の展開エリアは16号の内側と宣言して、淡々と内側への出店を続けている。内側のマーケットが潤沢かつ競争環境が緩やかということは間違いないのだが、では外側の実力者であるヤオコーでさえ恐る恐るの挑戦になっているのはなぜなのか。

●16号内の参入障壁が高いワケ

 単純な話ではあるが、16号内は、ヤオコーのビジネスモデルからみると、不動産などのコストが高すぎて収益確保が簡単ではないとみられる。内側で成長を続けているのはライフとサミットだが、両社は三菱商事、住友商事という巨大商社の子会社であり、そのネットワークの全面バックアップの下、店舗開発を行うことができている。他のスーパーは、そうもいかないため、可能な限り投資負担の軽い物件を探さねばならない。

 こうした背景から、オーケーもかつては、他社閉店跡地などの居抜き物件を中心に低コストの場所に出店を行っていた。しかし近年では、高コストな新築物件へも積極的に出店して、商圏拡大を実現している。近時のオーケーは、明らかに店舗開発力がパワーアップしたと感じられる。なぜそんなことができるのだろうか。

 オーケーが他社を圧倒的に凌駕(りょうが)する指標がある。売場面積当たりの売上だ。要は同じスペースでどのくらい売上を出せるかという指標であり、小売業にとっての本源的な実力を示す。次の図表を見れば一目瞭然なのだが、オーケーの指標は似たような環境にいる同業他社を圧倒している。

 オーケーの強みは、ただ安いというだけではなく、品質が担保された商品が安いという信頼を勝ち得ている点にある。実際、オーケーは日本生産性本部サービス産業生産性協議会が発表している顧客満足度に関する調査で、10年連続してスーパー部門のトップに君臨している存在であり、コストパフォーマンスに関して、日本屈指のブランドを構築した企業といっても過言ではなかろう。

●「ロードサイド→都市部」の出世コースを先食いするオーケー

 日本の有力小売業は、そのほとんどが地方からロードサイドマーケットを制覇してのし上がってきた。ファーストリテイリング(山口県)、ヤマダホールディングス(群馬県)、ケーズホールディングス(茨城県)、ニトリホールディングス(北海道)、ツルハ(北海道)、ベイシアグループ(カインズ、ベイシア、ワークマンなど・群馬県)など、名だたるトップクラス小売が地方出身なのだ。

 これまで、首都圏の内側は既存市街地が多いことから、新規出店可能な場所が少なかった。そのため、競争が緩慢となり、小売の強者はほとんど現れなかった。中でも数少ない例外がオーケーであり、業界最強クラスのモデルを構築した上で、外側の有力企業が手をこまねいているうちに、16号内という国内最優良マーケットを着々と攻略し続けている。

●今後はニトリ・オーケー連合も?

 つい最近まで世を騒がせていたニトリとDCMホールディングスの島忠争奪戦は、首都圏内側の優良マーケットを巡って、外側の強者が買収合戦をするといった構図だったといえるのだが、小売の世界では今後も同様の争奪戦は散発すると思われる。外の強者が内側の肥沃なマーケットをどう再分割するか、というのが小売業界での一般論だということだ。そこに先んじて、オーケーは鬼の居ぬ間に、肥沃な場所に牙城を築きつつあるといえる。もう10年もすれば、外側のライバルの参入が難しくなるほどに巨大化しているかもしれない。

 ちなみに島忠争奪戦に関していえば、オーケーが全く関係ないわけでもない。知る人ぞ知る、なのだが、オーケーと島忠は内側の企業同士ということもあって共同出店や隣地に出店している店がかなり多いのである。島忠の中でも家具を品ぞろえしている「Home's(ホームズ)」という大きめの店舗が首都圏には30ほどあるのだが、そのうち10店舗ほどはオーケーが共同出店、もしくは隣地にいるという関係だ。

 見方によっては、島忠の集客力をオーケーがかなり支えているといっても過言ではないだろう。今後、島忠を子会社化したニトリは、オーケーの集客力を間近で目にすることになる。これから、首都圏内側攻略を本格化するニトリとオーケー、面白い強者連合の関係が生まれるかもしれない。

(中井彰人)