昨春に新型コロナウイルスをほぼ収束させた中国で、再び感染者が増えている。東北3省や北京に近い河北省でクラスターが発生し、首都・北京、商業の中心地・上海の両都市でも散発的に感染者が出ている。

 「民族大移動」といわれる春節の帰省による感染拡大を危惧する中国政府は、「帰省しないで居住地にとどまる人」にさまざまな支援を提供し、いわゆる「Not Go To トラベル」を推進している。

●帰省には陰性証明書が必要

 昨年2020年の春節休みは1月24日からだったが、前倒しで休暇を取った武漢市民が市外に出て感染を全国に広げたため、中国政府は1月23日に同市をロックダウンした。

 今年の春節は2月12日で、法定休暇は11〜17日の1週間だ。中国当局は春節の前後を含む40日間(1月28日〜3月8日)に、17億人が移動すると見込んでいる。コロナ前の2019年より4割少ないが、より感染力が高いと言われる変異種が海外で広がり、中国でも海外からの流入、無症状感染者からの拡大が確認される中で、移動そのものがリスクであることは間違いない。

 都市部で働く出稼ぎ労働者が春節に帰省し、感染を広げるのを警戒し、中国国家衛生健康委員会は1月23日、帰省を予定する農村出身者向けのガイドライン」を公表した。

1. 帰省にあたっては、7日以内に発行されたPCR検査の陰性証明書が必要。また、帰省後は14日間自宅にて健康観察を義務付け

2. 1月28日以降に帰省した人は、帰省7日目と14日目にPCR検査を行う

3. 自宅健康観察期間は体温と健康状態の報告が必要だが、外出は禁止されない

4. 帰省を受け入れる村は、帰省者の記録、健康観察、啓発活動などを体系的に行う

 帰省そのものを禁じてはいないが、かなり面倒な手続きを課している。さらにコロナの拡大初期から対策を指揮してきた国家衛生健康委員会専門家グループ長の鍾南山氏も、手を合わせて「帰省しない皆さんに感謝します」と呼びかける動画を配信し、帰省しづらい空気が広がっている。

●市外に出ない「得」を提供

 無症状感染者が都市をまたいで移動すれば、接触者の追跡も大がかりになる。出稼ぎ労働者を留め置くため、地方政府はさまざまな施策を展開している。

 最もスタンダードなのが、帰省しない外地出身労働者への「生活補助ボーナス」だ。金額と支給方法はさまざまで、住民登記に基づいて銀行口座に自動的に振り込む方式や、アリペイを通じて受け取る方式、会社経由の支給などがある。その他、いくつかのパターンを見てみよう(以下、1元=16円)。

1.家政婦に補助金

 北京市は2月4日から2月26日にかけて、18日以上稼働する出稼ぎ家政婦とその派遣企業に特別手当を支払う。家政婦は派遣1件あたり400元の手当を受け取るという。共働きが基本の中国では、家事のアウトソーシングは以前から一般化しており、地方出身の中高年女性が主にその職に就いている。

 福建省厦門市は、職業を限定して手当を支給する。隔離施設などに指定されているホテルの従業員、衛生や公共交通など公益サービスを支える職種の従事者に、出勤あたり50元が支給される。

 今年は、春節期間の仕事や研修を奨励する自治体が多い。今冬のクラスターが結婚式や新年会など「宴席」で多く発生していることも関係しているだろう。

 天津市は、春節期間に従業員を帰省させず雇用し続けた企業に助成金を出すほか、就職のための実習を受けた外地戸籍の人々に、滞在補助金を出す。研修を実施した企業にも補助金を支給する。同市は失業者にも700元の生活手当を支給する方針も示しており、「どんな人もできるだけ市外に出ない」ことを強く働きかけている。

 このほか、職業訓練の内容、レベル、業種ごとに細かく助成金を設定し、感染対策だけでなく長期休暇を利用した人材育成を視野に入れている自治体もあった。

2.データ通信費プレゼント、営業する店舗に補助金

 市内でレジャーを楽しんでもらうため、観光施設の入場料を無料にしたり、「消費券」と呼ばれるクーポンを配布する自治体も多い。

 江蘇省昆山市は、市内の体育館など公共施設を無料開放するほか、外地出身者で帰省しない人を対象に、飲食店やスーパー、観光施設で使える新春クーポン計1500万元分を発行する。

 福建省安渓市は、市内に残る外地出身者に対し、路線バス、観光地を無料にする。

 鮮明な大盤振る舞いを行うのが、世界最大級の流通市場があり、中国中から人が集まる浙江省義烏市だ。同市で2月11日から26日まで利用できる消費券500元分をアリペイを通じて配るほか、20Gバイト分のデータ通信もプレゼントする。また、不動産のオーナーに半月以上の賃料減免を呼びかけ、春節期間に営業する飲食店、コンビニなどにも2000〜10万元の助成金を出す。

 出稼ぎ労働者が多い上海市は、帰省しない人に通信費、医療費を補助し、エンターテイメントチケット、軽食を提供。

 広州市の労働組合は、オンラインスポーツイベント、映画チケット、フィットネスチケットの他、一部地区でマスク、アルコール消毒剤などを支給する。

 これらのやり方は、出稼ぎ労働者には帰省しない「得」、商店には営業する「得」を示す方法だ。

3.ステイホームの娯楽提供

 「巣ごもり」に焦点を当てた施策を実施するのは、湖南省長沙市望城区で、こちらも義烏市並み手厚い。「春節中に使える1000元分(割引券含む)のお年玉」「3月まで使えるギフト券200元分」。さらに30Gバイト分のデータ通信、電子書籍200冊、マスク・消毒剤などの衛生用品、企業が従業員の家族に新年祝いを贈る場合、1人200元を補助する。

 また航空当局は1月26日、春節期間のフライトを無料でキャンセル・変更できると発表した。時間がなかった昨年は強硬措置を断行したが、今年は春節ムードに水を差さず、飴と鞭でしのぎ切れるか注目される。