寒い冬における日本の味覚と言えばお鍋。そして、家庭のお鍋のお供として欠かせない地位を築いているのが「マロニーちゃん」だ。

 そのマロニーちゃんは、昨春の新型コロナウイルス感染拡大第1波による緊急事態から秋口まで、毎月の売り上げが前年比3〜4割増で推移。売り上げが集中する2020年11月〜21年1月も好調で、国内4工場(大阪、信州伊那、浜松、九州飯塚)がずっとフル稼働している状況だ。

 経営するマロニー(大阪府吹田市)の21年3月期(20年4月〜21年3月)における売上高は、2桁を超える高い伸び率となるのが確実視されている。

 お鍋のシーズンではない春と夏、マロニーちゃんの消費量はもともと低かったが、コロナ禍でステイホームが政府から要請され、巣ごもり消費が拡大。お鍋以外のサラダや麺料理などに広く活用された。低カロリーでグルテンフリーの商品であり、健康志向のトレンドにはまった一面もある。また、20年11月以降は、お鍋への利用が順調に増えた。

 マロニーちゃんは、日本全国、津々浦々のスーパーやコンビニ、食料品店で販売されている。シラタキのような用途を同じくする商品はあっても、類似した競合は見当たらない。まさに、ニッチな市場でほぼ100%のシェアを誇る、オンリーワンの商品なのだ。

 発売してから50年以上が経過しているが、色あせるどころか、新しい用途が見直されて成長を続けるマロニーちゃんの魅力に迫った。

●「生マロニーちゃん」もある

 マロニーちゃんは、北海道産の「じゃがいもデンプン(遺伝子組み換えでない)」を主たる原料としており、国産(国内製造)の「コーンスターチ(とうもろこしデンプン)」を配合したシートを細切りにカットして麺状にした製品だ。

 生麺のもちもちプリプリした食感の「生マロニーちゃん」と、それを乾燥させたつるつるシコシコした食感のマロニーちゃんの2種類があり、全国に広く普及しているのは乾燥しているほうだ。従って、一般にマロニーちゃんとは、乾物の製品を指している。

 一方、生マロニーちゃんは大阪を中心に主に関西で販売されている。

 ゆで時間は、生が1分程度、乾燥しているほうが5〜6分である。

 乾物のマロニーちゃんは、賞味期限が常温で3年と長い。この賞味期限の長さも、1年前の緊急事態宣言時に買い求められた要因だ。即席ラーメンや乾燥パスタと同様、長期保存に向いており備蓄ができる点が消費者に選ばれている。

●シベリアから生還し創業

 マロニーは1950(昭和25)年に吉村義宗氏が創業した。大阪市東淀川区にて、もやし製造業の吉村商店を創業したのが始まりだ。

 吉村氏は福岡県飯塚市の出身。太平洋戦争では兵役で中国に渡り、極寒のシベリアで抑留を余儀なくされた。48年に帰国し、野菜の仲買などで生計を立てる一方で、もやし製造の技術を取得。親類を頼って、一旗揚げようと大阪に出てきた。

 吉村商店のもやし製造は好調で、急速に業界でも注目される存在となる。55年には会社組織に改編して、大洋産業株式会社として再スタートを切った。吉村氏には先見の明があった。工場設備で耐久性と衛生面での充実を図り、完全な機械化でなんと生産量日本一となった。

 しかし、原料である緑豆の高騰や競争の激化により、吉村氏はもやし製造の限界を感じていた。

 61年には春雨を改良した製品ができないかと模索し、大阪府立工業奨励館(現・大阪産業技術研究所)を訪ねた。委託研究生を派遣して、溶けない春雨の開発が始まった。これがマロニーちゃんの原点となる。当時の春雨は、煮込むとすぐ溶けてしまうので扱いが難しく、家庭では鍋料理に使っていなかった。

 そうした試行錯誤を繰り返し、63年に開発したのが初代「マロニー」だった。

●当初は全く売れなかった

 マロニーのブランド名には、吉村氏がシベリアに抑留された時に工場で一緒に働いていた少女「マロン」の明るいイメージが投影されているという。一方で、まろやかに煮えることから、マロニーになったとする説もある。

 初代のマロニーは、緑豆デンプンにじゃがいもデンプンを加え、天然の葉緑素を混ぜて、薄い緑色をしていた。ところが知名度が全くないうえに、どんな商品なのか分かりにくく、全然売れなかった。出荷して1カ月後に全品が返品されてしまった。

 パッケージを変更し、すき焼きの写真を入れてお鍋に適した食品だとアピールしたが、それでも売れなかった。

 しかし、料理教室にサンプリングをしたり、CMを打つなどの宣伝活動に励んだ結果、徐々に認知が広がっていった。

 67年には、ヨーサン食品に社名を変更。同年、お湯で戻す手間を省いた「生マロニー」を発売した。また、68〜69年にかけて原料をじゃがいもデンプンとコーンスターチに変更し、煮崩れしにくいマロニーの品質を向上させた。

 マロニーを定着させるためには、社名は商品名と同一のほうが有利だと吉村氏は考えた。そこで、78年に社名をマロニー株式会社へと変更した。

 ちょうどこの頃、ダイエーから生マロニーを扱いたいとの打診があり、納入を決定。本格的にスーパーなどの量販店を開拓する契機となった。

●中村玉緒さんが出演したCMの効果

 マロニーがブレークして全国ブランドに上り詰めたきっかけは、女優・中村玉緒さんが出演したCMの効果が大きい。CMは95年から放映された。

 中村さんがCM中に歌った「マロニーちゃん」のフレーズは、台本になく、彼女のアドリブによるものだった。このCMによって、「マロニー」は「マロニーちゃん」へと擬人化されて、大衆のものになったと言えるだろう。

 当時、中村さんは既に女優としての地位を確立していたが、バラエティに進出して新境地を開拓しようとしていた。そのため、時流に乗って勢いがあった。

 それまでマロニーは関西でしか売れていなかったが、一気に全国へと販売が拡大した。

 ただし、鍋の具材として有名になったので、売り上げの6〜7割が11〜1月の3カ月間に集中してしまう現象が起こっている。2000年代以降、同社の経営課題は、「鍋以外の用途で商品をどう売るか」に移っていった。

 06年には、海藻の水溶性食物繊維(アルギン酸ナトリウム)を使った新商品「プチ! プチ! 海藻麺」を開発。カロリー・糖質・脂質がゼロで、水洗い不要。そのままトッピングするだけでサラダなどに使えるのが特徴だ。ヘルシー食材として、新市場の開拓を狙った。

●「マロニー」から「マロニーちゃん」へ

 同社は17年、ハウス食品グループ本社に買収されて、完全子会社となった。背景には後継者問題があった。ハウスは「CoCo壱番屋」も15年に買収するなど、一芸に秀でた食の優良企業のM&Aに熱心なイメージがある。

 ハウス出身の難波克章氏が新社長となり、19年にはブランドを一新。商品名を「マロニー」から「マロニーちゃん」へと改名した。

 そして、20年2月には、「スープマロニーちゃん」を発売して、即席カップスープに参入。食べやすいショート麺を採用し、カップ麺の感覚で、熱湯を注ぐだけで手軽にマロニーを楽しめるようにした。量販店向けの商品で、当初は近畿と中四国のみの限定販売だった。8月には、好評につき九州へと拡大。順調な滑り出しを見せている。

 アイテムは、鶏ダシたまご、うま辛担々味、まろやか鶏白湯、コクうま酸辣湯の4種類。

 同社は、このように鍋用途以外のさまざまな商品拡大の試みを行ってきた。そうした努力がコロナ禍でステイホームが政府から国民に要請される中で、鍋の季節でもないのに販売が目覚ましく拡大するという成果に結びついた。

 昨夏には、「しみこめ、スープ。まろにーちゃんす!」と題して、料理研究家のリュウジ氏やニューヨーク在住の人気ユーチューバーkemio氏とのコラボを展開した。YouTubeやTwitterで、マロニーを使ったチャプチェ、サンラータン、マーボー麺、春巻きなどを紹介。若い人向けのプロモーションを行った。

 焼肉の残り具材にマロニーを加えてレンジでチンするだけで、チャプチェができる。残り物の中華スープに、卵とマロニーを入れてサンラータンにする、などといった簡単レシピが紹介された。

 反響は大きく、動画がアップされた週に売り上げが2倍になるなど、ユーザーの広がりが見られた。

 北米では、ベトナムの麺料理である「フォー」のようにマロニーを食べるのが浸透しており、まだまだ知られざる活用法が眠っていると言える。発売からそろそろ60年となる長寿商品なのに、食の未来を感じさせる大きな可能性を秘めているのがマロニーちゃんの魅力だ。

●健康志向が追い風

 同社が自信を深めているのは、マロニーちゃんが、低カロリーでグルテンフリーの健康志向に合った商品であることだ。

 20〜25グラムのマロニーちゃんをゆでると、約100グラムになる。エネルギーは70〜90キロカロリーだ。同じ100グラムでも、白米のご飯は約168キロカロリー、食パンが約264キロカロリー、中華麺(ゆで)が約149キロカロリーだ。これらと比べると非常に低カロリーである。また、創業以来、マロニーの製造ラインはマロニーのみをつくっており、アレルギーを引き起こす特定原材料等28品目は含まれていない。

 マロニーの年商は2016年時点で27億円。ハウスの傘下に入ってからは公表していないが、同社・広報によれば当時とあまり変わっていないようだ。18年と19年は暖冬の傾向が強く、逆風だったという。コロナ禍となってからは、市販の商品は絶好調だが、業務用が落ち込んでいるのが懸念点だ。

 しかし、アフターコロナではテレワークが定着していく可能性がある。

 マロニーちゃんは健康も意識した商品だという強みを持っている。また、単身者やオフィスワーカー向けにはスープマロニーちゃんが浸透していけば、すみ分けが可能となる。そう遠くない未来に売り上げ倍増も夢でないのではないだろうか。

【お詫びと訂正:2021年01月28日午前5時の初出、記事のタイトルで中村玉緒さんの名前を間違って記載しておりました。1月30日午前8時20分、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】

(長浜淳之介)