6月22日(現地時間)から26日にわたって米Appleが開催した「WWDC20」が、ついに幕を閉じた。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、初のオンラインイベントになるなど、従来とは大きくスタイルを変えたWWDCだが、基調講演で各製品の最新OSが発表されたのは例年通り。中でも「iOS 14」やそれをベースにした「iPadOS 14」は、iPhoneやiPadが10年以上かたくなに守ってきた“ホーム画面の流儀”を変え、話題を集めた。UI(ユーザーインタフェース)をよりシンプルな方向にデザインし直しているのも、iOS 14の特徴といえる。

 単にホーム画面が変わるだけでなく、iOS 14は、アプリへの向き合い方も大きく変わる可能性を秘めたOSといえる。それは、ユーザーもデベロッパーも、だ。アプリを自動でまとめる「App Library」や、QRコード、NFCのスキャンで呼び出せる「App Clip」など、アプリの在り方を徐々に変えていこうとしているAppleの思惑も垣間見えた。ここでは、iOS 14から見えてきた、Appleの戦略を読み解いていきたい。

●大画面化するiPhoneにフィットする新機能のウィジェット

 スキューモフィックデザインからフラットデザインへの刷新や、コントロールセンターの追加、ジェスチャーによる操作への対応など、過去10年以上に渡って、iOSにはさまざまな変更が加えられてきた。一方で、かたくなに守り続けられてきたこともある。それが、ホーム画面のアイコンだ。端末サイズが変わり、配置できる数が変わったり、フォルダを作れるようになったりと、ホーム画面も初代からそのままになっていたわけではないが、アプリのアイコンが自動で整列する基本は常に踏襲され、現行のiOS 13でもこの仕組みが採用されている。

 一方で、WWDCの基調講演に登壇したAppleのソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長、クレイグ・フェデリギ氏が「iPhoneでできることが増えてきたため、iOSを見直すことにした」と述べていたように、その間、iPhoneの機能は大きく向上してきた。ディスプレイの大画面化は、その1つだ。スマートフォン全体のディスプレイが大型化する動きに歩調を合わせ、Appleは「iPhone 6」を導入した際に初めて“Plus”の名がつく5.5型の大画面モデルを投入。以降、サイズ違いのiPhoneは恒例になり、最新モデルの「iPhone 11 Pro」にも、大画面版の「iPhone 11 Pro Max」が用意されている。

 アプリのアイコンが並ぶユーザーインタフェースは直感的な半面、大きな画面とは相性があまりよくない。片手で操作する際に指が上部に届かない上に、アイコンの数が増えてしまうと、画面のどこにあるのかが分かりづらくなってしまうからだ。こうした欠点を解決するのが、iOS 14で採用されたウィジェットだ。正確に言えば、これまでのiOSにもウィジェットは搭載されている。ただし、設置できる場所が、ホーム画面のさらに左側に限定されていた。アプリのアイコンが並ぶ通常のホーム画面とは、完全に別扱いだったというわけだ。

 これに対し、iOS 14のウィジェットは、ホーム画面のアイコンと混ぜて設置することができる。サイズはラージ、ミディアム、スモールの3つで、それぞれアイコン16個分、8個分、4個分のスペースを取って配置できる。大きなウィジェットほど情報量が増える半面、アプリのアイコンを置けるスペースが圧迫される仕組みだ。画面の大きなiPhoneの場合、特に上部には指が届きにくく、タッチが必要となるアプリのアイコンを置くのに向かない。アイコンは左上から順に並べなければならず、あえてあまり使わないアプリを配置するといった工夫が必要だった。ウィジェットなら、このデッドスペースを役立つ情報が配信される窓にすることができる。

 ウィジェットを採用するモバイル端末用OSといえばやはりAndroidだが、iOS 14のそれとは違いもある。Androidは自動整列がなく、上部に小さいウィジェットを単独で置くことができるが、iOSのそれは、あくまでアプリアイコンの延長。そのため、左上からアイコンなりウィジェットなりで画面を埋め尽くさなければならない点は、これまでのiOSと同じだ。かつてKDDIが独自モデルとして投入した「INFOBAR」のUIに近いといえば、理解しやすいかもしれない。

●ウィジェットはアプリの活性化にもつながるか、App Libraryでアプリの再発見も促す

 ウィジェットへの対応は、アプリ市場の活性化にもつながりそうだ。ユーザーがホーム画面の配置を見直すきっかけにもなり、アイデア次第では新たなヒットアプリが生まれる可能性もある。iPhoneのロックを解除するだけですぐに情報が表示されるという意味では、ウィジェットはアプリ以上にユーザーとの強力な接点になる。既存のアプリがウィジェットに対応して導線を見直すことで、利用率が向上するなどの効果も見込めそうだ。

 WWDCは、その名の通り、本来デベロッパー向けのイベント。基調講演は以前からネットで配信されており、各OSの新機能が発表されることもあって、ユーザーからも注目を集めているが、本来的な役割は、デベロッパーに対して新OSへの対応を促すところにある。その意味で、ウィジェットへの対応はWWDCにおあつらえ向きの新機能だったといえそうだ。オンライン開催になってしまったため、参加者の反応がつかめなかったのは非常に残念だが、例年のように大きなホールにデベロッパーを集めていれば、大歓声が上がっていたかもしれない。

 アプリ市場の活性化という観点では、新たに導入されるApp Libraryも見逃せない機能といえる。App Libraryとは、機械学習を使ってアプリを自動的に整理する新機能のこと。ジャンルごとに分けるだけでなく、最近使ったアプリやお勧めといった形で、自動的にアプリが分類される。

 クレイグ氏は、「アプリケーションが増えると、最初の数ページ目以降を把握できなくなる」と述べていたが、この機能はその悩みを解消するものだ。実際にどの程度の精度でアプリが分類されるのかによって効果は左右されそうだが、ホーム画面や検索に頼らずアプリを再発見できる経路を設けた動機は理解できる。

 ホーム画面を整理するという観点では、丸ごと特定の画面を非表示にする編集機能も用意される。以前のiOSでは、iTunesを使ってホーム画面の入れ替えやアプリの並び替えができたが、iTunes 12.7以降は、この機能が削除されてしまった。現状では、原則としてiPhone単体でしか編集ができないため、ホーム画面を効率的に整理したいユーザーにとっては、うれしいアップデートといえる。

●App Clipで変わるアプリの配布スタイル、リアルなサービスには朗報か

 iOS 14では、App Clipという新方式のアプリも用意されている。これは、いわばミニアプリのようなもので、本体にインストールせずに利用することが可能。フェデリギ氏によると、アプリのサイズは10MB以下に抑える必要があるという。同氏が「軽くて速く、簡単に見つけられるので、必要なときに素早く使える」と語っていたように、外出先などで使う、リアルなサービスと相性がいいアプリといえそうだ。

 WWDCで紹介されていた電動キックボードのサービスはその代表例。通常であれば、こうしたサービスは事前にアプリをインストールし、ユーザー登録を済ませた後、アプリを起動して利用しなければならない。街中で電動キックボードの本体を見つけても、すぐに利用できないというわけだ。

 これに対しApp Clipの場合、電動キックボードに掲載したQRコードやNFCを読み取ると、即座にアプリの一部がダウンロードされ、利用することができる。サービスへの導線が大きく変わるというわけだ。ユーザー登録には「Sign In with Apple」が利用でき、Apple IDがあればログインは不要。決済はApple Payで行える。

 電動キックボード以外では、カフェのテークアウトやレストランの予約といった事例も紹介されていた。Webやマップなどのアプリからだけでなく、先に挙げたようにQRコードやNFCもトリガーにできる。小売店などがマーケティングツールとして独自のアプリを作るケースは多いが、App Clipを上手に活用すれば、そのハードルを大きく下げることができそうだ。もちろん、App Clipからフルバージョンのアプリをダウンロードさせることも可能だ。

 スマートフォンは正面から見ると、ほとんどがディスプレイになるため、ホーム画面のデザインやUIの変化は、文字通り“顔”が変わることにつながる。同時に、アプリの強力なエコシステムは、iPhoneやiOSの“顔”になっていた。iOS 14は、その顔を大きく変えるOSといえる。基調講演の冒頭では、CEOのティム・クック氏が「本日はそれぞれのプラットフォームを飛躍的に進化させる」と語っていたが、iOS 14を見ると、その言葉が誇張ではなかったことがよく分かる。