ITmedia Mobileを含む各種Webメディアでも報じされている通り、楽天モバイルは自社ブランドで販売するAndroidスマートフォン「Rakuten Mini」について、製造時期によって対応する通信周波数帯の変更を行っていることを明らかにしました。

 この変更について、同社は「国際ローミング利用時の接続性の向上を目的に行った」と理由を説明していますが、変更に当たってユーザーへの事前告知が行われなかっただけではなく、総務省への届け出も適切に行われていなかったことも明らかになっています。

 問題は、発売当初の仕様と“異なる”仕様を持つRakuten Miniを手にしたユーザーが、ネット上で報告したことをきっかけに発覚しました。このような経緯で仕様変更が明らかとなったことは前代未聞です。

 今回の5分で知るモバイルデータ通信活用術では、この問題について改めて解説していきます。

●対応できるBandには限りがある

 Rakuten Miniにおいて問題となっているのは、対応Bandを告知なく変更したことです。これの何が問題なのかを知るためには、まず「Band」とは何なのかを知る必要があります。

 無線は限りある資源の1つです。そのため、国や地域の規制当局が周波数帯ごとに使い道を定めています。歴史的な経緯もあり、モバイル(携帯電話)通信で使われている周波数帯は国や地域ごとに異なります。

 携帯電話端末は、販売される国や地域(あるいはキャリア)で使われている周波数帯に最適化された状態で出荷されます。「全部の周波数帯に対応できないの?」と思うかもしれませんが、そうすると本体内に搭載するアンテナと関連機器)を増やさざるを得なくなり、本体のサイズと重量が増し、価格も当然上がります。

 例えば、Appleの「iPhone」シリーズでは、同じ機種でも仕向け先ごとに2〜4モデルが用意されています。サムスン電子の「Galaxy」シリーズは、1つの機種でさらに数多くのモデルが用意されています。いずれも、販売される国や地域(あるいはキャリア)において最適な通信を実現するためです。

 端的にいうと、1台のスマホが対応できる周波数帯には限りがあるということです。このことは、今回の問題を理解する上で非常に重要なポイントの1つとなります。

 一方、周波数帯を「MHz(メガヘルツ)」や「GHz(ギガヘルツ)」と表記しても分かりづらいことがあります。特に北米や中南米では、送信と受信を離れた周波数帯の電波で行うキャリアも存在するため、実際の周波数で表記することが困難な場合もあります。

 そこで、W-CDMA(3G)以降のモバイル通信規格では、対応周波数帯を「Band(バンド)」と呼ばれる区分番号で表すようになりました。W-CDMAとLTE、そして5G通信規格である「5G NR」では、Band番号なら同じ周波数帯を利用しています(※)。

(※)通常、W-CDMAは「ローマ数字」、LTEは「算用数字」、5G NRは「n+算用数字」で記述しますが、この記事ではW-CDMAのBandも算用数字で記述します

 この後詳しく解説するRakuten Miniの「問題」では、以下のBandが関係します。

Band 1

 W-CDMAやLTE(FD-LTE)で利用される2.1GHz帯(日本では「2GHz帯」とされる)です。北米や中南米を除く世界各地で利用されています。日本では、楽天モバイル以外のキャリアが利用していて、特にNTTドコモとソフトバンクではメインBandに位置付けられています。

Band 4

 W-CDMAやLTE(FD-LTE)で利用されている帯域です。北米や中南米で見受けられる、送信と受信で周波数帯が異なる特殊なBandで、送信は1.7GHz帯、受信は2.1GHz帯の電波を利用します。

Band 5

 W-CDMAやLTE(FD-LTE)で利用されている850MHz帯です。主に北米やアジアで使われています。

Band 38

 LTE(TD-LTE)で使われている2.6GHz帯です。主にヨーロッパやアジアで使われています。

●2度の「仕様変更」を行ったRakuten Mini 何が問題なのか?

 Rakuten Miniは発売後、対応Bandを2度変更しています。最終的に、北米や中南米での通信に最適なBand 4やBand 5への対応を追加した代わりに、初期ロットでは対応していたLTE/W-CDMAのBand 1を“非対応”としました。

 端末の識別番号(IMEI)によって、Rakuten Miniは「初期ロット」「中期ロット」「現行ロット」が存在し、中期ロットと現行ロットでは以下のような仕様変更が行われました。

・中期ロット:Band 5(FD-LTE/W-CDMA)とBand 38(TD-LTE)を追加

・現行ロット:中期ロットからさらにBand 4(FD-LTE/W-CDMA)を追加し、Band 1(FD-LTE/W-CDMA)を削除

 2度の仕様変更によって、Rakuten Miniには“3種類”の製品が存在することになります。

 発売済みの端末における仕様変更自体は、実はそんなに珍しいことではありません。発売後のボディーカラー追加は、ある意味で仕様変更です。

 ハードウェアとして対応済みだった無線通信規格に、ソフトウェア更新で追加対応することもあります。直近の実例では、国内向けの「Galaxy S10」や「Galaxy S10+」におけるWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応や、NTTドコモ向けの「Galaxy S20 5G SC-41A」における5G対応などがあります。

 では、Rakuten Miniにおける仕様変更は何が問題だったのでしょうか。大きく分けると3点あります。

問題点1:ユーザーに告知せずに仕様変更した

 先述の通り、楽天モバイルはRakuten Miniの仕様変更をユーザーに告知することなく実行しました。

 ユーザーによるネットへの投稿で仕様変更が明らかとなった後、同社はLTEの仕様変更を実施したしたことを公表しました。しかしその後、ネット上で「W-CDMAについても仕様変更をしているのでは?」という指摘があり、W-CDMAの仕様変更も明らかにしました。

 このように、楽天モバイルはユーザーに指摘されてから仕様変更したことを公表しています。対応が後手後手に回ってしまっています。言い方を変えれば、指摘がなければ公表するつもりはなかったと取られてもおかしくありません。

問題点2:使い方によっては「悪い意味」で影響が出る

 Rakuten Miniの仕様変更について、楽天モバイルは「国際ローミング利用時の接続性向上」を理由に挙げています。中期ロットと現行ロットで追加されたBandを見れば分かる通り、主に北米での利用を特に強く意識した仕様変更です。

 一方で、国内におけるモバイル通信について、同社は仕様変更による影響はないとしています。仕様変更後の個体でも、同社が自社エリアの構築に使っているLTE Band 3は問題なく使えますし、エリア外でのローミングパートナーであるau(KDDIと沖縄セルラー電話)がメインで使っているLTE Band 18/Band 26にも対応できます。

 確かに、オーソドックスな使い方では国内における使い勝手に変化はありません。

 しかし、仕様変更後のRakuten Miniは使い方によっては使い勝手が悪くなる可能性があります。その1つが、楽天モバイル以外のeSIMカードを使って通信するケースです。

 携帯電話事業への参入を発表した際、楽天モバイルは「端末へのSIMロック」や「料金プランに対する最低利用期間と契約解除料」を設けないことをアピールしました。この方針の下、Rakuten MiniもSIMロックフリー端末として発売されました。

 日本国内では、インターネットイニシアティブ(IIJ)がeSIMを使った個人向け通信サービスを提供しています。このサービスが利用するNTTドコモのXi(LTE)/FOMA(W-CDMA)ネットワークについて、初期ロットと中期ロットは問題なく使えますが、後期ロットではXi/FOMAがメインに据えているBand 1が利用できないため、非常に使い勝手が悪くなってしまいます。

 海外渡航時も、渡航先によっては通信品質が悪化する可能性があります。

 仕様変更によって、確かに北米や中南米では接続性が大幅に向上します。しかし、現行ロットで削除されたBand 1は北米や中南米以外において広く使われていて、日本におけるドコモやソフトバンクのようにメインに据えるキャリアも少なくありません。Band 1の非対応化で、かえって「圏外」が増えてしまう可能性もゼロではないのです。

 「北米では使いやすくなった」ことは間違いないですが、世界全体を見渡すと「海外で全体的に使いやすくなった」とアピールするのは少々言い過ぎの感もあります。

問題点3:端末の認証申請に不手際があった

 日本国内で電波を発する機器は、電波法に基づく「技術適合証明」または「工事設計認証」を取得する必要があります。また、公衆通信回線に接続する通信機器は、電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」も取得しなくてはなりません。これらはまとめて「技適など」と呼ばれており、法令で定める方法で端末に「技適マーク」と合わせて表示しなくてはいけません。

 現行の法令では、無線部分のハードウェアに大幅な変更がない限り、取得済みの認証に“追加”する形で新しい通信規格や周波数帯に対応することができます(参考リンク、PDF形式)。先述のGalaxy S10/S10+におけるWi-Fi 6対応やSC-51Aにおける5G対応は、この制度を活用して行われています。この場合も、追加される通信規格や周波数帯での通信について、証明機関においてチェックを受け、法令に定める基準を満たしていることの証明を取得しなければなりません。

 Rakuten Miniの仕様変更について、楽天モバイルは当初「同一の認証番号で追加の認証を取得した」という旨の説明をしていました。繰り返しですが、同一の認証番号で追加認証を取得できるのは無線部分のハードウェアに大幅な変更がない(≒過去の製造分でもソフトウェア更新で変更に対応できる)ことが前提です。

 この理屈に従うと、過去のRakuten Miniでも、ソフトウェア更新をすることでBand 4/5/38に対応できるはずです。しかし、現実として「初期ロット」「中期ロット」「現行ロット」で対応Bandに違いがあり、ソフトウェア更新によってそれを埋めることもできていません。よって、無線部のハードウェアにも設計変更があったと見るのが自然です。

 先述の通り、1つの端末で対応できるBandには限りがあります。対応するBandを変更するためにハードウェアの設計も変えること自体は悪いこととは言いきれません。しかし、無線のハードウェアに変更があった場合は、本来であれば“別の無線機”として新規に認証を受けなければいけません。

 この辺りの認識に混乱があったためか、Rakuten Miniの初期ロットと現行ロットにおいて技適などの表記に誤りが生じてしまいました。それが発覚する少し前には、Rakuten Miniにおける対応Band変更について、総務省が報告を要求しています。

 本件について、高市早苗総務大臣は6月16日、「必要に応じて、厳正に対処をしてまいります」と述べています。総務省への報告期限は6月26日で、同社は同日までに報告を完了したようですが、その内容次第では同社に対する行政処分が行われる可能性もあります。

 Rakuten Miniを巡る一連の動きには、楽天モバイルの「自己矛盾」も見え隠れしています。

 キャリア(MNO)事業への参入前、同社は総務省に特定の通信事業者でしか使えない端末(≒SIMロックのかかった端末など)の販売を規制するように要求していました。通信と端末の「民主化」を旗印に掲げていたからです。

 繰り返しですが、Rakuten Miniの現行ロットにおけるBand 1対応の削除は、サイズに限りのあるボディーにおいて、自社回線での利用を前提に、北米や中南米での利便性を高めた結果ではあります。しかし、うがった見方をしてしまうと、SIMロックに頼らない方法で他キャリア(ドコモやソフトバンク)での利用を阻止しているようにも思えることも事実です。

 今回の問題を機に、楽天モバイルには、より一層の「モバイル通信業界の民主化」にまい進してもらいたいものです。