米Qualcommは12月1日(米国時間)に「Qualcomm Snapdragon Tech Summit Digital 2020」を開催し、同社の最新のプレミアム市場向けプロセッサ「Snapdragon 888 5G Mobile Platform」を発表した。例年、同時期にハワイで開催されている同イベントだが、新型コロナウイルスの影響で2020年はバーチャル開催となっている。現地での実機デモやベンチマークを体験できないのは残念だが、Snapdragon 888の機能詳細を含め、動画によるデモコーナーが翌2日に公開されるため、改めてレポートしていきたい。

●拡充される5Gインフラと最新のSnapdragon プロセッサ

 Qualcommが初の5Gモデムである「Snapdragon X50 5G Modem-RF System」を発表したのが2016年10月のこと。OEM向けの実際の出荷開始は2018年となるが、5Gサービスの開始が2019年に1年前倒しされたことを受け、先行してデバイスメーカーに搭載製品の開発を進めてもらうのが狙いとなる。2019年4月に韓国でサービスが開始されたのを皮切りに、日本を含む各国での5G展開がスタートしている。

 一方で、iPhone 12といった最新モデルを含む多くの5G端末がいまだSub-6のみの対応にとどまっているように、各国でのインフラ展開もまたSub-6を中心にまわっている印象がある。Verizon Wirelessのように「5G Ultra Wideband」の名称でミリ波(mmWave)サービスを先行展開し、後にDSS(Dynamic Spectrum Sharing)を使って4G LTEと5G NRで面展開を行ったキャリアもあるが、カバー範囲も含め5Gが満足な状態で使える環境にはいまだ至っていないのがほとんどの国での現状だ。

 今後はSub-6だけでなく、Verizonのようにミリ波やDSSによる5Gエリアの拡大の他、5G SA(Stand Alone)基地局の設置などがより進んでいくことになる。5G SAは2020年8月に米T-Mobile USAが世界初のサービスを開始したが、Tech Summitにビデオ登場したNTTドコモ常務執行役員CTOの谷直樹氏が同社インフラでの2021年の5G SA展開の開始に触れている。ドコモでは世界に先駆けて2020年10月にSub-6 CA(Carrier Aggregation)のサービスを開始しており、着々とインフラ整備は進みつつある。

●なぜ命名規則が変更に?

 プレミアム市場向けの前モデルが「865」だったことを考えると、今回から命名規則が変更されたことになる。これには恐らく2つの意味があり、プレミアムティアの型番が「8xx」ということから「8」を並べたという考えと、もう1つは中国で縁起のいい数字とされる「八」を3つ合わせて“験を担いだ”という考えだ。中国語ではSnapdragon 888を「小龍888(シャオロンパーパーパー)」と呼んでいるが、OEMベンダーの多くが中国メーカーであることを考えれば、そうした市場を意識した命名なのかもしれない。

●スマートフォンの価格やデザイン面にもメリット

 これまでSnapdragon 855+X50 5G Modem、Snapdragon 865+X55 5G Modemときて、Snapdragon 888では5Gモデムとして第3世代にあたるX60 Modem-RF Systemを採用する。この世代での最大の特徴はプロセッサとしてシングルチップにモデムが封入された点であり、前2モデルが2チップソリューションを採用し、コスト面と省電力面(さらにいえば設計の自由度)でペナルティーを抱えていた問題を解消する。現在、プレミアムティアのスマートフォンは価格帯が10万円台半ばというのも珍しくないが、2021年以降に登場するSnapdragon 888搭載のスマートフォンでは、価格とデザイン面で現行モデルよりも優位に立つ製品が増えると予想される。

 Snapdragon 888のローンチパートナーとしては、ASUS、Black Shark、Lenovo、LG、MEIZU、Motorola、Nubia、realme、OnePlus、OPPO、シャープ、vivo、Xiaomi、ZTEの14ブランドが紹介されているが、このうち最初の搭載デバイスを投入するのはXiaomiで、同社の搭載製品の「Mi11」が2021年初頭にも登場することになる。

●AI、ゲーミング、カメラの性能が向上

 Snapdragon 888のプロセッサとしての性能については現時点で詳細が公開されていないため不明だが、同社が第6世代Qualcomm AI Engineと称するHexagonプロセッサを交えたAI処理能力は26TOPSとなり、前モデルのSnapdragon 865の15TOPSを2倍近く上回っている。つまり、CPUとGPUともにそれだけ性能が強化されていることを意味しており、全体にパフォーマンスが向上していると考えていいだろう。

 AI以外ではゲーミングとカメラの性能をアピールしており、前モデルに引き続きドライバーアップデートが可能な第3世代Snapdragon Elite GamingでのGPU性能の大幅向上の他、35%高速化されたSpectra ISPで秒間2.7ギガピクセルのビデオ・写真撮影または1200万画素の120枚撮影が可能になったという。Qualcommではスマートフォンの用途としてゲーミングと写真撮影が主要な位置を示しつつある現状を紹介し、これら機能強化がユーザーのメリットになるとともに、デバイスを開発するメーカーのアピールポイントにもなる点を強調する。

●ミリ波を使ったリモコンカーの操作デモ

 初日の講演の最後では、VerizonとEricssonの協力で構築された5Gのミリ波のプライベートネットワークを使い、1マイル以上離れた場所からリモコンカーを操縦するレースのデモが紹介された。ドライバーは遠隔地からスマートフォンでカメラ映像を頼りに操縦するが、この実現にはTensionが提供する低遅延での位置情報マッピング技術が用いられている。動画自体もSnapdragon 888搭載スマートフォンを使って行われたもので、最新プラットフォームと5Gの実力をアピールすることが狙いだ。