AIや機械学習と聞くと、人間と同等の知能を持ったロボットや、ものすごいスピードで処理をするシステムのようなものを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、実際の生活や業務で活躍するAIは、もっと理解しやすい、身近なものです。

 例えば、お掃除ロボットや、スマートスピーカー、SNSで人をタグ付けする機能など、皆さんの生活の中ですでに活用されています。これらのAI・機械学習を使うと、コストを下げられる、パーソナライズできる、つながりを生み出すことができるなどのメリットがあります。

 例えば、SNSで誰かをタグづけしようとする際に、自分で検索をして、選択してという作業をするのは手間がかかりますが、AIが自動で提案してくれることにより自分でタグ付けするという手間、つまりコストを下げられます。

 また、ECサイトでよく見かける「あなたにおすすめ」などのレコメンドは、個人の嗜好(しこう)をデータから分析し、パーソナライズされた結果を返しています。SNS上では「この人は友達?」などとサジェストしてくれる機能も同様で、人とのつながりを生み出しています。

 このようにとても便利なAI・機械学習ですが、その「学習」プロセスや仕組みはどうなっているのでしょうか。本記事では、AIやビッグデータを活用してビジネス課題を解決できる“AI人材”を目指す新社会人にも分かりやすいよう、AI・機械学習の基礎知識やビジネス活用の考え方などについて解説しています。もちろん、新社会人だけでなくあらゆる年代や業種の方に読んでいただける内容になっています。

●AI・機械学習の正体は?

 AI・機械学習は、脳みそ部分ともいえる変換器(アルゴリズム・計算式)に、何らかの値をインプットすると、予測値を返します。そして、実際の答えと予測値の差、つまりギャップを計算し、そのギャップを埋めるように変換器にフィードバックを返します。このサイクルを何度も繰り返すことによって、予測値と答えのギャップを埋めていきます。つまり人間が与えた「答え」をできるだけ再現するようになっていくというわけです。

 例えば、特定エリアの賃貸物件の価格を予測する場合、「目黒」「駅から徒歩15分」「延床面積30平方メートル」といった値をインプットします。最初、学習していない状態では「賃料=10円」というでたらめな予測値を変換器が返してきます。しかし、実際の賃料は9万円だとします。つまり、予測値の「賃料=10万円」と答えの「賃料=9万円」とのギャップを埋めるように変換器にフィードバックします。すると、同じような値がインプットされたとき、答えにより近い値を出力するようになってきます。このプロセスを繰り返すことにより、実際の値にますます近い予測値を返すようになります。

 このようにインプットと答えのペアをアルゴリズムに“食わせる”ことで、インプットを与えると食わせた答えに近い値を出力する変換器を最終的に得ることとができます。こうした学習の仕組みがAI・機械学習です。

 ここで、強調しておきたい点があります。それは、インプットを与えて得られる予測値が100%正しいということはあり得ないという点です。答えに限りなく近い値はあり得るかもしれませんが、ピッタリということは難しいのです。このことから、絶対に間違ってはいけないところには使えない、というのが大前提としてあります。

●AIができることは主に3つ

 このようにAI・機械学習のできることは、限られているともいえます。AI・機械学習ができることは、主に次の3つがあります。

(1)分類

(2)回帰

(3)クラスタリング

 まずは(1)の「分類」の例。人事業務について、退職しそうな従業員を早めに特定して退職を食い止めたい、という課題があったとします。勤怠データや人事評価データ、アンケートなどをインプットします。答えとなるデータは「退職する」「退職しない」の2値です。これらのインプットと答えのデータを機械学習アルゴリズムに学習させると、従業員ごとの退職確率のスコアを予測値として出力できるようになります(精度はともかく)。この出力されるスコアが一定の値以上であれば「退職する」、未満であれば「退職しない」といった具合に2値の分類ができます。複数カテゴリがあっても同じ仕組みです。このように、AI・機械学習では、2値、もしくは多値の分類をすることができます。

 (2)の「回帰」について話を進めましょう。チケットの売上を上げたいスポーツチームがあったとします。この課題を解決するため、チケット価格や、予約状況、天候のデータなどをインプットデータ、チケット販売数を答えのデータとして準備します。このインプットと答えのデータを機械学習アルゴリズムに学習させます。すると、チケット価格が1000円で、予約状況は20%、天候は晴れで気温20度、対戦チームはXチームといったインプットのデータを入れることで、チケット販売数の予測値を出力してくれるわけです。

 この学習済みの変換器を使えば、価格を動かしたときにどのくらいの入場者数になるかをシミュレーションできます。そうすれば、最も売上が大きくなるチケット価格を導き出せます。この例のどの部分が「回帰」なのかというと、チケット販売数を予測する部分です。回帰というのはチケット販売数のように数値の予測のことをいいます。

 (3)の「クラスタリング」は言い換えると自動グルーピングです。例として、旅行サイトの運営者が顧客に合わせたマーケティング施策を考えるとしましょう。この旅行サイト上の行動ログデータやユーザーの属性データを準備し、クラスタリングができる機械学習アルゴリズムに投入すると、自動的に類似しているユーザーをグルーピング、つまりクラスタリングしてくれます。その結果、「近距離を移動する出張ユーザー」や「大型連休で家族で旅行先を探しているユーザー」といったユーザーのグループを見つけることができます。

 このように関連するデータを準備し、そのデータを使えば機械学習アルゴリズムは分類、回帰、クラスタリングを行ってくれます(100%の精度ではないですが)。ということは、機械学習アルゴリズムで成果を上げるには、自身の業務の中から機械学習アルゴリズムを適用するとうれしい業務を見つけられることが重要になってきます。

●仕事が楽しくなる、課題の見つけ方

 では、実際の業務の中で、機械学習を使うと効果が出そうなシーンや課題を見つけるにはどうすればよいでしょうか。

 このとき重要なのは、手段から考え始めるのではなく、ビジネス課題を見つけることから始めることです。課題があってこそ、解決の手段は意味のあるものになるため、まずは仕事上の課題を見つけましょう。

 日々、多くの業務に追われていると、目先の作業をこなすことで頭が一杯になりがちですが、そんな当たり前の業務に一度立ち止まって向き合ってみると、実は解決できる課題が浮かんでくるはずです。

 課題の見つけ方のポイントとしては、日々の業務で「繰り返しで面倒くさい」「何度もやるのがだるい」と思うことは何か? そこにヒントが隠されています。なぜなら、AI・機械学習はそういった「繰り返しで面倒くさい」「何度もやるのがだるい」を解決するのが得意だからです。

 日々の業務を自動化するのに向いているのは、以下の3つの特徴がある業務です。

(1)毎日同じことを繰り返す「ルーティンワーク」

(2)人数や時間さえあれば終わる「マンパワーで解決できる仕事」

(3)ベテラン社員にはできる「職人芸」

 毎日同じことをしているな、単純作業だな、と感じる作業はルーティンワークです。毎月同じ交通費など経費の入力をする、メールの定型文を打つ、などの作業は、AIを使って自動化できるかもしれません。

 また、大量の顧客データを整理する、膨大な資料の中から欲しい資料を探し出すなど、マンパワーで解決できる仕事や、経験やスキルを持っている人しかできない、”職人芸”ともいえる仕事もAIに頼ることができます。

 まずは、担当業務でAIを使える仕事にはどんなものがあるか思い浮かべてみましょう。

 他にも課題を見つける考え方として、以下の3つのステップを踏んでみるのもおすすめです。

課題解決の3つのステップ

(1)現状を把握する

(2)あるべき姿を考える

(3)「現状」と「あるべき姿」の差分を認識する

●AI導入の推進に欠かせない「ビジネストランスレーター」

 課題が見つかり、いざAI・機械学習を使って課題を解決しようとしても、ビジネス側の担当者と、専門家であるデータサイエンティストやデータエンジニアの間で、コミュニケーションがうまくいかない、ということはよくあります。

 プログラムが書けるエンジニアや機械学習を使いこなすデータサイエンティストがいたとしても、現場のニーズや状況が分からなければ、実際に生々しいビジネス上の課題を解決するのは難しいです。逆に、ビジネス側が全く技術が分からない、技術には興味がないなどということでは、より良い課題解決を行うことは難しいでしょう。

 そこで重要になってくるのが、現場の業務を理解し、かつ解決の手段を持つデータサイエンティストやエンジニアのやっていることも理解し、両者の間に入って、つなぐ役割を果たす「ビジネストランスレーター」の存在です。

 ビジネス課題とそれを解決する手段(データや技術)の両方を理解しているハイブリッド人材であるビジネストランスレーターは、今後ビジネスにおけるさまざまな場面で重宝される存在になるでしょう。

●5段階の問いのレベルを意識し、難易度に合わせた道具を使う

 ビジネストランスレーターには、課題を解決する手段にはどんな技術やアプローチがあるかを知り、専門家であるデータサイエンティストやエンジニアの話を理解できる必要があります。

 ここで課題を解決するために答えるべき「問い」を5段階で表現したいと思います。

 5段階の問いを営業職を例に説明します。

1段階目:先月の商談数は何件か、Web経由の問い合わせは何件で何%受注できているか、など過去や現状の数値を把握する

2段階目:アウトバウンドの場合、どのくらい問い合わせが増えるか、など事象をかけ合わせて把握する

3段階目:価格を半額にすると、どれくらい売上が増えるか、など因果関係を把握する

4段階目:営業マンを1.3倍にすればどれくらい売れるかを予測する

5段階目:1〜4段階目までができると最適解が導ける

 筆者は、この5段階の問いにおいて、下の段階ができていなければ、上の段の問いを答えるのは難しいと考えています。そのため、最適解を知りたいあまり、最下段にある「過去や現状の把握」をおろそかにしても良い答えを得ることは難しいでしょう。組織的に取り組みたいのであれば、なおさらです。1段階目から順にクリアしていくことが重要です。

 さて、ビジネストランスレーターになるためには、どのくらいのスキルが求められるのでしょうか?

 一つの目安として、筆者は各問いに対してどのような手段があり、その手段がどのようなものかを理解しておくことは最低限必要だと考えています。例えば、最下段の「過去や現状を定量的に把握」したいというときは、データの可視化・集計や、クラスタリングなどの道具の概要は頭に入っていてほしいところです。

 なぜデータ分析に関する技術の理解が必要なのかというと、ビジネス現場側の事情の中でデータサイエンティストに考慮してもらいたいポイントを見極めることが求められるためです。

 また、プロジェクトマネジメントという点で、簡単なレベルの問いを、わざわざ難しいアプローチで取り組むのは非効率です。そのような非効率を避けるには、ビジネストランスレーターはデータサイエンティストと分析のアプローチについて議論することが求められます。そのような場面で、「クラスタリング? 何それ?」ということでは困るわけです。

●AI・機械学習の理解が当たり前の世の中になっていく

 政府が発表している「AI戦略」の中にもあるように、これからは高校生や大学生がデータサイエンス・AIの基礎を学ぶことになります。そして、このような学生が社会に出て、ゆくゆくはビジネスや社会の課題を解決するブレイクスルーを起こしていくことが期待されています。

 そうすると、現在、働き始めたばかりのビジネスパーソンの皆さんは、今後どのようにAI・機械学習を活用する時代に適用していけば良いでしょうか?

 少なくとも自らAI・機械学習を学んでいく必要があります。そうすることで、今働いているビジネスパーソンは、AI・機械学習を早い段階から学ぶ次世代の若者よりも、ビジネス経験では勝るため、ビジネストランスレーターとして価値を出すことができるでしょう。

 また、AI・機械学習は常にトライ&エラーが伴うため、失敗を許容し学習しようという組織文化でないと浸透しません。その点で、現在働き始めたばかりのビジネスパーソンの皆さんは重要な役割を果たしていくでしょう。なぜなら、今後10年くらいの間に組織の中心人物になっていく人たちが、AI・機械学習の強み・弱みを理解し、トライ&エラーを当たり前とする文化を作っていけば、これから社会に出てくる若手にとっても魅力的な職場になるはずです。

 このように見ていくと、ビジネス経験というアドバンテージを持っている現社会人がAI・機械学習を理解すれば、より仕事を楽しむことができ、無敵になれるというわけです。

●在宅時間はスキルアップのチャンス

 AI・機械学習のアルゴリズムを理解すれば、仕事を効率化したり、課題解決したりすることができるため、どのような職種の方にも習得していただきたいと考えています。

 そして考え方を理解するだけなら、プログラミングをしなくとも、Microsoft office製品の「Excel」でもできるのです。Excelで考え方を理解しておけば、いざ「Python」や「R」といったプログラミング言語でAI・機械学習に取り組もうとしたときに役立ちます。

 データサイエンティストになりたい方に限らず、「こういった課題は、こういった手段、ツールで解決できる」と課題解決の思考ができるようになることが最も重要です。

 現在は、在宅勤務や外出自粛を強いられており、出鼻をくじかれたと感じている新社会人の方も多いことでしょう。しかし、これからの長い社会人生活で、周囲よりも活躍できるビジネスパーソンになるには、今与えられた時間は、スキルアップするチャンスといえます。

 ぜひ、家にいる時間が多いこの期間に、今後の長い仕事人生において役に立ち続けるであろうAI・機械学習を学んでみてください。