マスクや体温計など新型コロナウイルスの影響で需要が急増している商品に狙いを絞り、相場よりも高い値段で販売したり、商品を送らないといった悪質な販売業者が目立つようになった。中でもトラブルが多く報告されているのがAmazon.co.jp。きっかけは海外出品者の登録基準を緩和したことだった。

 読者の中には、何気なく購入しているECサイトでの買い物が、誰が販売し、どこから送られてくるのかを意識していない人も多いだろう。特にAmazonの場合、販売ページのデザインがあまり変わらないため、Amazon自身が全ての商品を販売していると勘違いしている方もいる。しかし、そこには“軒を貸しているだけ“のAmazonマーケットプレイスの商品も並んでいる。

●拡大するクロスボーター取引が生んだ隙間

 Amazonはこれまで、自身の持つ集客力を他社に提供するAmazonマーケットプレイスを売り上げ拡大の基本戦略としてきた。

 Amazonマーケットプレイスは、Amazonの販売の仕組みを他の出品者に提供するものだ。出品者は一定の条件を満たせば、「Fulfillment by Amazon」(FBA)という、商品の保管から注文処理、配送、返品などを提供するサービスが利用可能になり、テレビCMでおなじみの「Prime」マークも取得できる。

 この仕組みが当たり、Amazonマーケットプレイスは、Amazonのドル箱ともいえるサービスに成長。今やAmazonの売り上げの半分以上はAmazon自身ではなく、Amazonマーケットプレイスの出品者が上げている。さらにそれを伸ばすため、Amazonは海外の出品者に間口を広げるクロスボーダー取引を拡大してきたが、そこにつけ込む隙ができた。

 例えば、以前は日本国内に返品先がなければFBAへの登録は行えなかったが、現在は海外の住所でも登録が可能だ。さらに架空の住所での登録や、契約する会計事務所など実際にオフィスでは使っていない電話番号などでも登録できてしまう。中国では実績のある出品者IDが売買され、いつの間にか無責任な出品者に代わってしまう例も後を絶たない。そして新型コロナ禍の下で粗悪な商品が出回る温床となった。

 例えばPSE(電気用品安全法)基準を満たしていないモバイルバッテリーにPSEマークを表示したり、ワイヤレスイヤフォンに記載した容量に満たないバッテリーを内蔵したりは日常茶飯事だ。こうした事例は日本だけではなく、各国で報告され、問題になっている。米国では安全性の低い粗悪玩具が原因で子どもの命が奪われたケースもあった。

 出品者の身元確認も緩く、商品のトラブルが起きても連絡が取れないという事例もある。過去にはバッテリーの発火で火事が発生し、マンションの一室が全焼したことがあったが、被害者の代理人を務める弁護士がAmazon.co.jpを通じて売主に連絡を取ろうと試みたものの、結局コンタクトできなかったという。

 もちろん、悪質な出品者は一部だ。しかし悪質業者は各国の市場動向に極めて敏感で、売れ筋商品があればすぐに品質を無視した低コストの商品を大量に作り、販売する。新型コロナウィルスの広がりでニーズが高まった商品群を見逃すはずもない。

 例えば使い捨てマスクは、普段なら50枚で数百円程度だ。しかし新型コロナ禍の影響で一気に5000円程度にまで上昇。この価格変動に乗じて品質の悪いマスクが出回り、出荷したと通知しながら消費者の元にいつまでたっても届かないという事例が増えた。

●問題になる前に別の商材に切り替え

 無論、Amazonも手をこまねいているわけではない。出品者による不正は数年前から問題となり、対策を講じてきた。Amazon広報によると、日本法人だけではなく、各国で悪質業者や不正出品を取り締まり、毎週1000万件もの出品が、機械学習によるAIと人間による監視の両方で掲載前に削除されているという。

 しかし問題のある出品は減少しても、撲滅できていない。悪質業者はあの手この手で監視の目を潜り抜け、多数の商品を出品している。こうした努力を怠らないのは、うまくいけば大きな利益を得られるからだ。

 Amazonに出品されている商品は、毎月2回、1日と15日に売上が集計され、およそ10日後に入金される。短期間に多くの商品を売り、顧客からのクレームで出品が削除される前に入金のタイミングが来ればもうかる。そのために悪質業者は、出品している商品に悪い評価が増え始めると商品を切り替えて時間をかせぐ。

 さらに中国からの荷物が新型コロナの影響で遅れ気味であることを逆手に取り(中国からの出品者のうちPrimeマークが付いていない商品は現地からの発送であることが多い)、実際は発送していなくてもシステム上は発送したことにするケースも。Amazonからの入金が行われるまで、クレームを受けるタイミングを引き伸ばしているのだ。

●ある業者の手口

 ある業者は、洗えるマスクで商品部門別の売上トップになった直後、商品の写真を奇妙なキャラクターのアイコンに置き換え、別の商品に軸足を移した。この時のアイコンに書かれた中国語は「まぁ、そういうことだね」という意味だ。

 この業者が次に狙いを定めたのは、布マスクを作るための材料だった。布マスクの自作というトレンドを敏感に察知し、ガーゼや耳掛けゴムが不足し始めるとそれらを割高な値段で売り始めた。

 この時も、商品の品質やサポート対応の悪さなどが低評価のコメントで入り始めると、洗えるマスクの時と同様のアイコンに写真をすり替え、主力商材を別のものに切り替えた。この時のアイコンには中国語で「恥知らずめ!ペッ!」と書かれていた。

 次に狙いを定めたのは、なんでもマスクにできるというクリップ付きのストラップとガーゼだった。ガーゼに関しては執筆時点でも販売を継続している。

 Amazonでこの業者の情報を確認すると、多数の購入者から「商品が届かない」「商品は遅れて届いたが汚れていて使い物にならなかった」と否定的なコメントが書かれている。これを先に見ていれば購入を思いとどまった人もいたかもしれない。しかし、購入前は目的の商品のレビューはチェックしても、同じ業者がどんな商品を販売しているか、その業者の評価などまで確認する消費者は少ないのだろう。

●中国からの発送品に注意、出品者の評価をチェック

 こうした問題が表面化しにくいのは、AmazonはAmazonマーケットプレイスで販売されている商品に関して、トラブル時の返金補償を行っているからだ。つまり、金銭面での損失はAmazonが被っていることになる。

 しかし失った時間は戻ってこない。ある一人暮らしの女性は、仕事で忙しくマスクを買いに行く時間がなかったため、割高な使い捨てマスクを3月下旬にAmazonマーケットプレイスで注文。すぐに発送したとの連絡が来たが、4月中旬になっても届かなかった。返金は受けられたものの、その期間はマスクが入手できず、使い捨てマスクを何日も使い回すといった運用でしのいだという。

 Amazonは、大きな予算をかけてAIと人員の両方で不正出品対策を行っている。Amazon自身のブランド毀損にもなりかねないだけに、できる対策は可能な限り実行しているはずだ。

 しかし、疑わしい出品者が今も大量の商品を販売しているのが実情。ここで注目した出品者のIDもまだ凍結されていない。Amazon自身が出品者の監視を十分に行えないのであれば、消費者側は自分で細心の注意を払うほかない。とりわけ発送元が海外の出品者である場合は、その評価を確認することを勧めたい。