新型コロナウイルス感染拡大に伴って在宅ワークが増えた昨今、仕事自体はリモートでこなすことができても、人とのコミュニケーション不足に悩む人も多いだろう。

 作業自体は在宅のほうがむしろはかどり、会議ではプレゼン資料や話者などが近くで見え、仕事効率は一見良くなったかのように思える。

 一方、同僚との雑談や人とのすれ違い、職場でのざわめきがなくなった分、寂しさのあまりレスのない「LINE」や「Facebook」のチャット画面を何度も眺める無駄な時間が増えるという問題もある。

 そこで、プロジェクションマッピングと同僚の3Dモデルを駆使して、自宅でも職場のような雰囲気や同僚がそばを歩く様子を再現すればよいことに気づいた。

●バーチャル職場とバーチャル同僚が自宅に

 私の在宅ワーク環境は以下のような様子となる。

 目の前はただの白い壁であり、もちろん人がそばを通り過ぎる気配もなければ、話しかけられることもない。あるのは、備品と食料を買ったことで増えた置き場のないダンボールの山だけである。このデスク前の白い壁とダンボールに、職場の様子をプロジェクションマッピングしていく。

 まず職場の背景だが、写真を持ち合わせておらず機密性も高いため、フリー素材サイト「写真AC」の画像を活用した。

 また、出先表やホワイトボードなど職場風景を構成する要素を自前で作成した。(内容は一見それっぽいが架空の適当なものである)

 これらを使い、先ほどの私のデスク前の壁とダンボールに対してプロジェクションの位置合わせをしていく。

 思ったよりも臨場感が出てきた。出先表やホワイトボードの内容は架空のものではなく、むしろ本当の同僚の予定や、オンライン会議での共同メモを投影すれば実用的かもしれない。

 ただ、これだけでは無人のオフィス感が出るのでむしろ孤独感が増す。そこで、さらにここに同僚が行き来する様子も重ねてプロジェクションマッピングする。

 幸い、私は同僚の3Dモデルデータを所持しているので、これを活用することにしよう。

 この同僚の3Dモデルに、適当にオフィスを徘徊(はいかい)するようなループアニメーションを付け加え、背景透過動画として書き出す。

 1人では味気ないので、もう少し加えたいところだ。幸い、私は上司の3Dモデルデータも所持ししているため、これも活用することにする。

 ここまでの素材の位置をそれぞれ個別に合わせた上でプロジェクションマッピングした様子が以下である。

 画像や動画では伝わりきらないかもしれないが、一気に臨場感が増した。作業に集中しているとプロジェクションマッピングのことを忘れ、ふと目が会うたびに思わず声が出そうになる。

●孤独感に変化はあったか? 脳波を測ってみた

 ここからは、今回構築した環境が私にもたらした効果を検証した結果を紹介する。幸い、私は簡易脳波計を所持しているため、これを活用した。

 検証では、「プロジェクションマッピングなし」「プロジェクションマッピングあり」「ありの場合、同僚の人数を0人から、1、2人と追加で投影したとき」のそれぞれの場合で脳波がどのように変化するかを計測した。

 計測は、「何もしないとき」(休憩時を想定)、「簡単な入力作業(就業時を想定。今回は各試行において条件をそろえるため、任意のニュース記事をそのままタイピングする作業)を行っているとき」の2パターンで行った。

 脳波は、各パターンにおいて1分間の計測を3回行ったものの平均を使用し、連続した値や外れ値を除外した上で集計した。脳波の分析においては、β/α値がリラックス(緊張)度合いの目安となることが報告されている(※1、※2)。そこで、今回の検証でもβ/α値を用いることにした。

※1:平井章康、吉田幸二、宮地功「簡易脳波計による学習時の思考と記憶の比較分析」、DICOMO2013、2013

※2:大久保友幸、山丸航平、越水重臣「携帯型脳波計を用いた観光客の印象検出システムの開発」、日本感性工学会論文誌、2018

 脳波検証結果は以下となる。

 まず、動作なしの休憩時の結果を比較してみる。

 その結果、興味深いことに、「プロジェクションなし」よりも、「プロジェクションあり(人物0人)」のほうが、わずかながらβ/α平均、β/α分散ともに低く、リラックスできていることが分かった。何もない白い壁だけを前にすると、孤独感や不安感があおられるとともに、机の書籍や段ボールの文字などに視線が移ってしまいがちなのかもしれない。それならば静止画でもいいので何か投影するとよいのだろう。

 動きを伴う人物を投影する場合は、1人よりも2人のほうが、β/α平均は低かった点にも注目したい。1人の動きだけの単調なループよりは、2人の動きによって多少複雑性があったほうがストレスは少ないのかもしれない。なお、β/α値の分散は、人物2人を投影した際に大きく増加しており、脳が活性化していることが分かった。ゆっくり落ち着きたい休憩時は人物なし、気分転換したいときは人物を2人投影するなど使い分けするとよさそうだ。

 作業時は、どうだろうか。

 プロジェクションマッピング時は、β/α値の平均、分散ともに大きく、特に人物投影時に外部刺激により脳が活性化されていた。ただし、その分、注意が分散している可能性が高い点に気をつけたい。プロジェクションをする場合、人物なしよりも、1人投影した場合にわずかながらリラックスできているようだ。

 今回はあくまで簡易脳波計を使った分析であることに留意してもらいたい。私自身、脳波を用いたプロジェクトに関わったことはあるが専門家ではない。詳細は、より測定精度の高い脳波計を用いて専門家の立ち会いのもと計測・分析する必要があるだろう。

●「疑似居酒屋zoom飲み」も可能

 今回構築した環境は、プロジェクションマッピングによるものであるため、容易に雰囲気を変えられる。例えば、食堂カフェのような場所に置き換えた場合、以下のようになる。

 近頃は「Zoom飲み」が盛んだが、この環境はZoom飲みでも大きな効力を発揮する。居酒屋風の素材を配置すると下記のようになる。

 いかがだろうか。昨今の過酷な状況はまだ当面続くと思われるが、最大限、在宅ワークを楽しむことを心掛けたい。