世界最大のサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」。今年は新型コロナウイルスの影響で8月に延期したが、「ツールのない7月は寂しい」と運営会社が前代未聞の「バーチャル ツール・ド・フランス」を始めた。その模様が日本のファンの間で「マリオカートみたい」と話題になっている。

 バーチャル ツール・ド・フランスに参加しているのは、本来ならツール・ド・フランスに出場していたプロ選手たちだ。彼らは自宅や練習場に設置したトレーナー(ローラー台)の上で愛車を駆り、トレーニング用プログラム「Zwift」(ズイフト)の作りだす仮想空間でリモートレースに臨んでいる。

 Zwiftは、多くの人が同時にログインし、同じ仮想空間でトレーニングするマルチプレイヤー型のネットワークサービス。コンパニオンアプリ(iOS/Android)を介して選手の体重や走行スピードといった情報を仮想空間での走行に反映するため、リモートユーザー同士で競い合えるのが特徴だ。

 また単調になりがちな練習や日々のワークアウトを楽しめるよう、架空の南の島や海底のトンネルを走るといったユニークなコースを用意。さらにコース内のアーチを通過するとランダムでパワーアップアイテムが獲得できるという。このコースやアイテムが、バーチャル ツール・ド・フランスでもそのまま使われている。

●ツール・ド・フランスにダッシュキノコ?

 例えば「Invisibility」というアイテムは、使用すると10秒間だけ自分の姿が画面から消えるため、前の選手を追い越すときに便利だ。体重が9.5kg軽くなる「Lightweight」は上り坂に有効。後ろの選手にドラフティング効果(空気抵抗が減る)を与えない「Burrito」という意地の悪いアイテムもある。

 中でも強力なのが、15秒間だけ選手の空力特性を向上させる「Airo Boost」。マリオカートの「ダッシュキノコ」のようにスピードが出るため、バーチャル ツール・ド・フランスの序盤は運良くAiro Boostを獲得し、ゴール前で使った選手がステージを制した。

 「今のところ、Airo Boostがないと勝てないレースが続いています。他のアイテムをとってしまった選手はすぐに消費し、Airo Boostのためにアイテム枠を確保します」とゲーム解説のように話すのは、スポーツ専門チャンネル「J SPORTS」でツール・ド・フランスを担当している関田晴香さん。リアルなツール・ド・フランスではあり得ないレース展開が魅力だという。

 ただし、ゲームのようでも参加選手は全員“ガチ”。チームや個人の年間成績に影響しないバーチャルレースでも、ツール・ド・フランスは世界中の注目を集める最高峰のイベント。スポンサーの看板を背負っている以上、プロ選手は負けられない。

 男子の第4ステージを制したフレディ・オベット選手は、自宅に秘密兵器を用意した。ローラー台の左右前方に2台の扇風機を設置し、レース中の愛車と自分を冷やす作戦だった。「ローラー台のトレーニングではバイクが熱くなるので扇風機はとても有効。Airo Boostとダブル扇風機パワーの勝利でした」という。

 一方、昨年のツール・ド・フランスで総合優勝を果たしたエガン・ベルナル選手は苦戦が続いている。理由はリモート環境。ベルナル選手はコロンビアの高地に住んでいるため、空気が薄いのだという。

 普段の練習が高地トレーニングになる便利な環境もバーチャルレースでは不利に働いた。珍しいエピソードを選手の表情や自宅の様子と一緒に見られるのもバーチャル ツール・ド・フランスの魅力だ。

 コロナ禍により、「試合ができない」という厳しい状況に置かれた今年のプロスポーツ。関田さんによると、J SPORTSも3月中旬以降は放送する試合がなくなり、過去の映像を流す日々が続いた。しかしバーチャル ツール・ド・フランスのような“盛り上がる企画”が始まったことで加入者数は上向いているという。

 J SPORTSでは、バーチャル ツール・ド・フランスの第1、第2ステージを「J SPORTSオンデマンド」で無料配信している(要ID取得)。7月18日の第5ステージ、19日の第6ステージは専門チャンネル「J SPORTS 4」で生放送する他、J SPORTSオンデマンドや「Amazon Prime Video」の「J SPORTSチャンネル」でも配信予定だ。