ちょっと前から、「mmhmm」(んーふー)という、変わった名前のソフトが、一部で話題になっている。

 元EvernoteのCEOで、現在はスタートアップ支援企業・All Turtlesの代表を務めているフィル・リービン氏が、自らリードする新しい企業「mmhmm」が開発したアプリだ。何ができるのかは、次のビデオを見ていただくのが分かりやすい。

 要は、ビデオ会議やプレゼンテーションを分かりやすくするためのアプリで、確かにビジュアルインパクトがすごい。

 現在クローズドベータテスト期間中だが、筆者にも試す機会が回ってきた。せっかくなので、ある日に依頼されたオンラインでの講演を、実際にmmhmmでやってみた。その過程から、同ソフトの価値を考えてみよう。

 mmhmmは今もクローズドベータテスト中。とはいえ登録さえすれば、テスターを増やす段階でインビテーションが届く仕組みになっている。この記事を読んで興味が湧いたなら、登録してみてはいかがだろうか。

 なお、残念ながらmmhmmは現状Mac版のみが公開されており、Windows版はない。

●プレゼン前提、資料と顔を簡単に合成して配信する「バーチャルカメラ」

 mmhmmの正体とはなにか? 簡単にいえば「プレゼンの機能を備えたバーチャルカメラツール」である。

 バーチャルカメラツールは、PCのカメラと配信アプリの間に入り、カメラからの映像を受け取って加工したのちに、配信アプリへと渡す役割をするもの。有名なものとしては「SnapCamera」がある。mmhmmもそれと同様で、映像を加工して出力するものだ。

 もちろん単体のビデオとして書き出すこともできる。いかにもプレゼンアプリのような画像が出ているが、「On Air」ボタンを押していない(すなわちOff Air)だと、映像は外に流れない。

 これで「あー、そうかー」と気づいた方はかなりカンがいい。mmhmmがやっているのは、プレゼンのために必要な画像処理をワンパッケージにしてバーチャルカメラ化することで、分解すると、

・カメラからの自分の映像を加工する

・背景やプレゼン資料を合成する

・1つの映像にして動画として記録する、もしくは「バーチャルカメラ」として配信ソフトなどに出力する

という感じになる。だから、スライドの切り替えなどをしなくても、バーチャル背景合成や顔加工ができるアプリとしても使える。

●プレゼンの進行に合わせて「自分の見せ方」を簡単に変えられるのが便利

 mmhmmに関するリービン氏のビデオが公開になったとき、彼のシルエットが綺麗に抜けて、合成されていることに注目が集まった。が、そこはmmhmmの本質ではない。自分のシルエットを「抜く」機能もあるが、品質は他のバーチャル背景を備えた配信アプリと大差ない。あのビデオではグリーンバックを使っているから綺麗に抜けているだけだ。

 重要なのは自分と背景の関係を自由に変えられることだ。シルエットで抜くこともできるが、丸や四角の中に顔を入れたり、それを半透明にしたりもできる。

 しかも、丸窓や四角窓の中に入れた場合には、体を動かした場合にも顔を認識して追従してくれる。映像から特定の位置を切り出すだけだと体が動くと顔が切れてしまう可能性があるが、そういうことはない。

 さらには、顔を表示する位置も、サイズも自由に変えられる。

 これによって、プレゼン中に顔のサイズを変えて資料に注目してもらったり、資料の注目してほしい場所に自分の姿を近づけて指で指し示したり、というやり方ができる。

 一般的なビデオ会議の場合、書類の共有と表示はできるものの、自分の顔と合成して表示することは難しい。複数のソフトを組み合わせれば同じことはできるが、その操作は非常に煩雑なものとなる。「リアルタイムに、プレゼンしながらそれらの操作ができる」のが、mmhmmの最大の特徴である。

 これらはマウス操作はもちろん、キー操作やゲームパッドでの操作でも大丈夫だ。特にゲームパッドでの操作は意外と快適だ。プレゼン中にマウスを操作して顔の大きさを変えたり位置変更したりするのは面倒だが、ゲームパッドだと、その辺がとても簡単になる。

 とはいえ、本番を前に自宅で軽くリハーサル中、ゲームパッドには難点があるのも分かってきた。意外と操作音が大きいのだ。ボタンやLRキーを押したときの「カチッ」という音が響きやすく、プレゼン中に音として入る。指向性の高いマイクで完全に声だけを収録できる状況なら問題ないが、そうでない場合には、気をつけて使った方がいいだろう。

●プレゼンは「画面共有」+「ウィンドウ再生」で

 もう1つ留意すべき点がある。

 mmhmmはプレゼンソフトではない、と書いた。だから、プレゼン資料は直接読み込めない。

 いや、「方法が2つある」といった方が正しいかもしれない。

 1つ目は、資料をバラバラな画像にして読み込むこと。

 mmhmmには1つ1つの画像を順に切り替えて重ねる機能があるので、それを資料表示に使うのだ。この場合、表示の解像度も高くスッキリ見えて、操作もmmhmmだけで完結するので使いやすい。だが、プレゼン内で別の動画を使ったり、「トランジションのアニメーション」や「マーカー表示」などのインタラクティブな要素は使えない。そもそも、映像を連番で切り出して全部mmhmmに読み込むのは、意外と面倒なものだ。

 そして2つ目が「画面共有(Screen Share)を使う」方法。Macの画面自体やアプリのウインドウをmmhmm内に共有して表示する形だ。これなら、同じ機器内で動いているアプリの画面なら、なんでも配信側に表示できる。プレゼンはもちろん、WebサイトやゲームだってOKだ。

 リービン氏のビデオの中で、「AirPlayを使ってiPhoneの画像も入れられる」と言っていたが、実は、mmhmmにはAirPlayを受信する機能はない。「AirPlayer」などの「AirPlayをMacで受信するアプリ」を別途インストールし、その画面を共有して使う、ということなのだ。

 ただここで重要なのは、mmhmmの画面共有機能が、あくまで「画面全体かアプリのウインドウ」を共有するものだ、ということだ。

 プレゼンをする場合、一般には資料は「全画面」で表示される。プロジェクターに表示するならこれでいいが、mmhmmで画面共有を使う場合、「全画面」だとすべての操作がプレゼンソフトに奪われるので、mmhmmの操作ができなくなってしまうのだ。

 だからプレゼンソフトを使う場合には、プレゼンを全画面再生するのではなく、「ウインドウ内で再生」にする必要がある。PowerPointの場合には「スライドショー」のタブの「スライドショーの設定」から「出席者として閲覧する(ウインドウ表示)」を選ぶ必要があるし、Keynoteでは「再生」メニューから「スライドショーをウインドウで再生」を選ぶ必要がある。

 また、mmhmmとプレゼンソフトの操作は連動していないので、プレゼンのページ送りは操作対象アプリをプレゼンソフト側に切り替えて行うか、何らかの外部機器を使って行わないといけない。

 画面共有での解像度は、画像としてmmhmm内に取り込んだ場合に比べ劣るようだ。とにかく細かい文字をプレゼンで使うなら、画像にした方がいい。まあ個人的には、プレゼンのデータで20ptを下回る文字を使うのは本末転倒だと思っているので、そこは問題ないと感じたが。

●CPU負荷が気になるが、使い勝手は良好

 使ってみて、「確かにこれはいい」と思った。動画やアプリなどを同時に見せるにも向いているし、プレゼンにアクセントを付け加えるにもいい。なにより、操作がとてもシンプルだ。

 筆者の場合、講演などの仕事はさほど多くない(意図的に増やさないようにしており、月に1、2度の範囲で承っている)のだが、オンラインならば、今後はmmhmmでプレゼンをしよう、と思った。そのくらい便利だ。

 ただ気になるのは「CPU負荷の高さ」だろうか。プレゼンを始めるとCPUファンがずっと回りっぱなしだったのは気になる。マイクにファンのノイズが入るかと思ったが、そこはさほど問題なかった。とはいえ、指向性の高いマイクを別途用意した方が安心できる。

 「MacBook Airには荷が重いのか」と思ったのだが、知り合いに聞くと、「MacBook Pro 16インチでも同じ状況」と言っていたので、ピーク性能を求めるというより、常に一定以上の負荷がかかる作りなのかもしれない。この辺は、製品版で改善していってほしいところだ。

 Windowsへの対応も気になるが、両方のプラットフォームを並行して使っている身としては、さほど問題ではない。

 今後ベータテスター枠の拡大も予定されているということなので、皆さんもぜひ試してみていただきたい。

※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、西田宗千佳氏が執筆したコラムを転載したものです。