こんにちは! イラストレーターのrefeiaです。

 今日はまた1つ、ペンデバイスの多様性の夢を見ようと思います。レノボ・ジャパンのハイスペックなオールインワンPC「Yoga A940」です。

 我々がよく使う製作用のPCは、普通ならケーブルまみれの煩雑な状態になりがちです。大画面の液晶ペンタブレットや、しっかりしたデスクトップ級のパフォーマンスを求めればなおさらで、これらの要求とスッキリとした見た目を両取りできる製品は、これまでほとんどありませんでした。

 それを実現するのが、Yoga A940というわけです。シンプルでありながらも力強さを感じるビジュアル、かなり良いです。後は実際の使いやすさと性能はどうなのか?

 早速、見ていきたいと思います。

●高価過ぎて煮え切らなかったSurface Studioへの回答?

 冒頭からぶっちゃけて言ってしまうと、Yoga A940は、日本マイクロソフトの「Surface Studio」シリーズへのレノボからの回答ですね。

 Surface Studioは、ペン+タッチ操作が可能で上下する28型の大画面と、エレガントな外観の一体型を訴求した、クリエイティブ志向のデスクトップPCです。Surface Studioはデザイン性こそ高いですが、モバイル用のCPUしか選択できない点と、価格が非常に高いのが弱点になっていました。

 それに対し、Yoga A940は高性能な一体型PC、筆圧対応のペン、タッチ操作が可能の27型(3840×2160ピクセル)という大画面、軽い力で角度と位置を調節できる画面、多機能ダイヤル、これらのコンセプトはほぼ完全にSurface Studioと共通しています。一方で、一体型としては比較的余裕のあるボディーによって、高性能なデスクトップ用CPUのCore i7を積むことが可能になりました。

 そして、さらに大きな差は価格です。Surface Studio 2は最小構成でも約49万円もするところ、Yoga A940は約32万円(いずれも税込み)と大幅に買いやすくなっています。

●ペン対応の動くディスプレイとダイヤルが特徴

 では、Yoga A940をもう少し詳しく見ていきましょう。特徴として筆頭に挙げたいのは可動する大画面です。Surface Studioの「ゼログラビティ・ヒンジ」を知っているなら想像しやすいと思いますが、この画面は目の前に立った普通のPCディスプレイのような状態から、机に置いた液晶ペンタブレットのような状態まで、軽い力でスルスルと調節できます。

 ロック機構はないですが、ペンで何かを描いたぐらいでは動いたりしない、という絶妙な固さに調整されています。また、画面を倒すと手が届きやすい位置に出てきてくれるので、ペンやタッチ操作が快適です。モバイルPCやiPadなどは、もともと持ち方や設置を変えてPC的にもペンやタッチ操作でも使いやすかったのですが、これくらいのボリューム感がある機材でこれほどストレスなく扱えるのは感動的です。

 そして、すっきりしたオールインワンPCの最後の散らかり要素、マウスとキーボードとペンをすっきりまとめられる工夫もあります。下の写真のように、キーボードは専用の少しくぼんだエリアに、マウスとペンは本体右側の台のような部分に片づけられるようになっています。マウスに台は必要? と思われるかもしれませんが、実はここがQi充電台になっていて、マウスを置いていない間はスマホの充電ができます。

 デスクでPC以外の作業をしたいときには、キーボードとマウスは邪魔なものです。これはうれしい配慮ですね。

●ダイヤルはオシャレだけどクリエイティブ用途には適していない

 次はダイヤルを見てみましょう。このデバイスは1つのボタンと2つのダイヤル、1つのLEDインジケーターを備えていて、本体の左側または右側の好きな方に装着できます。また、対応アプリの使用中にはそのアプリのイメージカラー風の光を放ちます。

 しかし、このダイヤルは執筆時点ではAdobe Creative Cloudの4つのアプリと、Microsoft Officeの3つのアプリにしか対応しませんでした。よくある左手デバイスは、任意のアプリにキーボード操作を割り当てられたりする場合が多いのですが、Yoga A940のダイヤルにはそのような機能はなく、お絵描き作業ならばPhotoshopだけが恩恵の得られるアプリになります。

 また、ペンを持っていない手をダイヤルに添えているより、キーボードに添えている方がずっと生産性が高いです。日本マイクロソフトの「Surface Dial」にも同様の問題があり、ダイヤルデバイスの存在意義が問われる根本的な問題でした。後継モデルでも良いので、何らかの打開策がほしいところですね。

 対応アプリ以外を使用している間は、音声ボリュームと画面輝度を変えられるようになります。音声は当然ながら、画面の角度を変えると輝度も変えたくなるものです。それにボタンではなくてダイヤルで即応できるのは、Yoga A940の使い勝手を高めています。

●これは便利! な機能もあります

 本機は他にも注目ポイントが多いのですが、普通に書くとちょっと長くなりすぎるため、簡潔にポイントを紹介していきます。

 まずは、Dolby Atmos対応のスピーカーです。さすがにちゃんとしたPC用の外付けスピーカーにはおよびませんが、気軽に音楽を楽しむには十分な音質でした。

 また、本体にHDMI信号を入力して、外部機器のディスプレイ+スピーカーとして使うこともできます。

 これはかなり夢があるというか、「おっ!」となるのですが、なぜかHDMI入力状態で画面輝度や音声ボリュームを変更する方法が用意されておらず、PCとして設定した画面輝度や音声ボリュームは、HDMI入力時には反映されませんでした。普通に使うには、接続する機器ごとに工夫が必要となりそうです。

 もう1つ、Bluetoothの音声を受け取る機能もあって、スマホの外部スピーカーのような使い方もできます。

 こちらはスマホで音量調整ができるので、便利に使えました。

●惜しい弱点が残っているペン性能

 さて、ちょっと本題以外が長くなりましたが、そろそろクリエイティブ用途で要となるペンと描き味を見ていきましょう。

 まずはペンの形状です。Windowsの静電容量方式のペンとして一般的な太さ、重さです。手持ちのノートPC「Dell XPS 13 2-in-1」でも動作しました。ボタンは2つあります。

 まずはオン荷重ですが、Windowsペイントで約7g、Photoshop CCで約9gでした。フェザータッチに近い筆圧でも描きやすく、ワコム製ペンタブレットのデフォルト値の8g前後とも近くて、問題ない値です。

 次に遅延は、Windowsペイントで120分の7秒と、これも他のWindowsのペンデバイスと比べて問題ない値でした。

 逆に、ジッターは問題がある結果になりました。画面に垂直に近い角度で描いていれば大丈夫ですが、自然な角度で手に持ったり、深く傾けたりした状態では、線がゆらゆらとブレます。これは後の実描テストでも問題になってきます。これくらいのジッターはWindowsやAndroidのペンデバイスではよくある結果で、特別劣っているというわけではありませんが、Apple Pencilやワコム製品と比べるには厳しい結果です。

 そして、他のペンデバイスと比べて厳しいと感じたのが視差です。このように、画面表面から液晶パネルまでの距離が一般的な空気層のあるペンデバイスと比べても大きく、見る角度によってはカーソルとペン先が大きく離れて見えます。

 厚みが大きいのは大画面だから仕方がない面もありますが、大画面だからこそ、画面の端を見る時にはかなり斜めになります。この厚みと大画面が合わさって、一般的なペンデバイスよりも視差の影響は大きいです。個人的には視差にはおおらかなつもりでしたが、これくらいだとさすがに厳しい、というのが正直な感想でした。

 視差は大きいですが、ペンを傾けて使ったときに、カーソルがペン先より内側(傾けている側)にずれてしまう現象は起こりませんでした。これはうれしいポイントだと思います。

 全体として、魅力的な機能も多く備えていますが、静電容量方式のペンによくある弱点や、他のデバイスよりも厳しい評価になる部分を抱えています。

●イラスト作業では弱点が露呈し作業はストレスに

 では実際に絵を描いてみましょう。今回は、比較的ちまちましたラフと線画、後はいつもの魔女ちゃんの彩色テストをしています。

 まずはラフですが、ここは普通に描けました。ただし、描画しているときのカーソルの追従に少し違和感があります。ぐしゃぐしゃと線を重ねたり、ハッチングをしたりしたときに、何だか後ろに引っ張られるような線になってしまいます。

 詳しくその感触を見ていくと、どうも手振れ補正のような平滑化フィルタが強めに働いているようでした。そのせいで、素早く字を書いた時には下の写真のように字画がうまく再現されなかったり、省略されたような文字になったりしてしまいます。フリルやレース生地の端のようなぐにゃぐにゃとした線画を素早く描こうとする際も、違和感が出やすいはずです。

 それ以外の筆圧はアプリで調整すれば問題なく、広い面積を使って描いたときは伸び伸びと描けて、概ね気持ち良く描画できました。

 次に線画です。一番ジッターの影響が見えやすい工程ですが、やはり最初に顔の輪郭を描いた時点で、ウッ……となってしまいました。

 ペンを画面に垂直に立てるように持って描いたり、画面を大きく拡大した状態で描いたり、素早く描いたりすれば影響を減らすことができます。ですが、常にそうするわけにもいかないでしょう。自分がジッターを見逃さないようにしたいと思っているのは、丁寧に描いた時ほど描線が不正確になる苦痛を、絵師仲間に味わってほしくないからです。メーカーも製品作りの中で見逃さないようにしてほしいところですね。

 続いて彩色です。この工程はジッターや視差の悪影響が小さいので、少しの筆圧調整を行って慣れてしまえば自然に進めることができました。

 全体としては、マシンパワーも相まって、手の込んだ大がかりな絵を最後まで描き上げる能力はあると思います。ですが、ジッター/視差/平滑化フィルターのような描画感の影響を避ける工夫をしたり、迂回(うかい)しきれない部分を我慢しながら進めたりするのはストレスフルです。ペンで何か描くこともある、ぐらいならば非常に便利ですが、ペンを長時間使い続けるイラスト製作用のメインPCにしたいとは思えない、というのが正直な感想でした。

 高いパフォーマンス、4Kの大画面、大画面でありながら容易に角度調整できるディスプレイなど、機能面では「これ1台でイラスト機材コンプリート!」にしたいと思える内容なだけに、ペンの性能が優れていないのがなおさら悔しいですね。

●PC性能

 今回は、評価機が国内で販売するモデルと少し仕様が異なるものだったので、性能について詳しく評価するのは避けます。

 基本的に

・高性能のデスクトップ向けCPU(第9世代Coreプロセッサ、8コア8スレッド)

・ほどほどの性能のエントリー向けディスクリートGPU(AMD Radeon RX 560)

という、イラスト用途とかみ合わせの良いプロセッサとGPUの組み合わせに、

・16GBの大容量メモリ

・Intel Optaneメモリ付きの2TB HDD(SSHDのようなパフォーマンスと大容量)

 で、イラストやデザインなど、一般的なアプリや、2Dの製作では不足を感じづらい仕様です。ただし、動画や3D製作のような極めて負荷の高い製作もするなら、GPU演算や3D性能の不足を感じたり、16GBのOptaneメモリでカバーしきれないストレージの読み書きが生じてたりしてがっくりと遅くなることもあると思います。

●まとめ

 それでは、そろそろまとめていきましょう

気に入った点

・かっこいいボディー

・電源以外のケーブルなしで運用できる

・Qi充電台やマウス、キーボード置き場、左右どちらにでも装着できるダイヤル、Bluetoothスピーカー化機能など、ユーザーに便利に使ってもらいたいという思いが企画に生きている

・従来のPCとしても、タッチ主体の作業にも、お絵描きにも、全ての利用スタイルにベストな位置に軽い力で調節/対応できるディスプレイ

・ディスプレイを45度ぐらいまで降ろした時の、極めて快適なタッチPCとしての操作感

・4Kディスプレイはタッチやペン操作時でもドットが目立ちづらい

・高性能なCPUと、欲張りすぎないディスクリートGPUという組み合わせ

・Surface StudioよりCPUパワーがありながらずっと安く、iMacより多彩な使い勝手を持ち、一体型PCとして独自の立ち位置を得ている

人によっては難点になり得る点

・お絵描きをメイン用途にはしづらいペン性能とディスプレイ視差

・ダイヤルが使えるアプリが少なく、カスタマイズできる範囲が限定的

・高パフォーマンスPCといえばSSDの時代に、Optaneメモリで補助されているとはいえHDDがメインストレージに採用されている

・サイズが巨大なACアダプター

 Yoga A940は、“1つの塊”でコンプリートするという従来のオールインワン型の美点をさらに突き詰めたPCです。シンプルな設置からは想像しがたい、ペンやタッチも含めた多彩な使い勝手を実現しています。

 また、キーボード台やマウス台、スマホの無線充電機能を備え、Bluetoothスピーカーとしても使えるなど、PCとして使用していないときにすら使いやすいと感じられるのは、本機の企画の妙でもあると思います。

 一方で、クリエイティブPCとして見ると、ペンは静電容量方式によくある弱点が解決されておらず、視差の大きさという弱点も抱えています。GPUパワーやストレージ性能なども限定されており、完全に万能というわけではありません。

 このあたりを納得して検討するなら、外部スピーカーや、ディスプレイとの接続などの、デスクトップPCにありがちなケーブルまみれの煩わしさから解放されながら、一般的なPCとしても、メディア鑑賞にも、クリエイティブ作業の多くにも満足して使える、万能PCになり得るでしょう。

 HDMI入力機能やダイヤルの完成度、ハードウェア構成のモダン化など、次なるモデルにも期待したいところですね。