新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に翻弄(ほんろう)された2020年の前半。後半にさしかかった今日この頃だが、もうしばらくこの脅威と付き合っていくしかない情勢にある。

 この「コロナ禍」によって大きな影響を受けた分野の1つが「教育」だ。多くの学校では長期の臨時休校を強いられたが、そのことによって遠隔授業に関する学校間、あるいは自治体間の「格差」が浮き彫りになった。この格差を是正すべく、日本政府も「GIGAスクール構想」で打ち出した学習用端末の「1人1台」配備計画を2020年度内に完了させるべく計画の前倒しを決めた。

 この計画前倒しにおいて、重要な鍵を握るプレーヤーの1つが、PCメーカーにCPUを供給するインテルだ。同社は7月1日、日本の教育市場に対する取り組みを説明するセミナーを開催した。その模様を簡単にまとめる。

●キーワードは「1人1台」「次世代教育」「DcXとNew Tech」

 30年以上に渡り、インテルでは教育におけるICT(情報通信技術)の利活用を進める活動を世界規模でしてきたという。

 新型コロナウイルスの影響で、学校教育では遠隔教育の必要性が非常に高まっているものの、その取り組みには格差が存在する。そのような状況を是正すべく、同社は「1人1台の教育用PCの実現」「次世代教育の導入支援」「DcX(データセントリックトランスフォーメーション)とNew Tech(新世代製品)の推進」の3つを国内教育市場における活動の重点に据えているという。

1人1台:小学生から大学生や教員まで「1700万台」の市場を目指す

 GIGAスクール構想では、小学校、中学校および特別支援学校の児童や生徒を対象に「1人1台の教育用端末」を配備することを掲げている。高等学校や大学では教育用端末の配備に関する整備目標は掲げられていないが、学校や自治体によっては独自にBYODやBYAD(※)を推進する動きもある。

 ここで問題になるのが、学習用端末の供給だ。当初の構想では、小中学校や特別支援学校への学習用端末の配備は約4年間で完了させる想定だった。

 しかし、新型コロナウイルスによる臨時休校を受けて、端末配備を約1年間で完了させるように計画が“前倒し”された。厳密には、構想における1人1台は「3クラスに1クラス分相当の台数」ではあるものの、それでも相当な台数の学習用端末を“一気に”用意する必要に迫られる。

 そこで、インテルではPCメーカーやOSメーカー、流通・販売パートナーなどと協力して学習用端末の「スムーズな導入」に取り組み、高等学校の生徒、大学の学生や教員を含めて1700万台の「1人1台PC市場」の早期実現を目指すという。このうち、GIGAスクール構想の学習用端末は「数百万台規模」(井田晶也執行役員)を想定しているという。

 BYODやBYADへの取り組みについては、さまざまな端末の選択肢を用意できるように、Web通販業者、量販店といった流通チャネルのパートナーと共に販売促進施策を実施しているという。教員向けにも、遠隔授業を含む授業や教材作成での利活用を推進するべく、運用支援サービスを最大限利用できるvPro対応CPU搭載のPCの普及を図っている。

●「BYOD」「BYAD」とは?

・BYOD:「Bring your own device」の略。自分で用意した端末を持ち込んで使うこと。

・BYAD:「Bring your assigned device」の略。企業や団体が指定した端末を購入し、それを持ち運んで使うこと。私立学校や大学でよく見受けられる。

次世代教育の導入支援:教員のスキルアップ機会を提供

 遠隔授業を含めた教育ICTの普及は、児童、生徒や学生に学習用端末を配備すれば完了……というわけではない。教員がICTを利活用できることが大前提となる。

 しかし、文部科学省が4月21日に公表したアンケート調査の結果(PDF形式)を見ると、そもそも教育現場におけるICT活用が進んでいない現実が浮き彫りとなる。以下の通り、予定を含めた遠隔授業の実施率が低いのだ。特に、双方向のオンライン授業の実施率は非常に低くなっている。

・テレビ放送を活用した家庭学習:24%

・教育委員会が作成した授業動画を活用した家庭学習:10%

・デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習:29%

・同時双方向型のオンライン指導を通した家庭学習:5%

 新型コロナウイルスによって「ICTを利活用するための環境整備や教育実現において、日本が世界からまだまだ遅れを取っていることが浮き彫りとなった」(井田執行役員)。先述の通り、GIGAスクール構想を通して、少なくとも児童や生徒における端末の普及には一定のめどが付いたが、「不確定要素を大きく含む環境の中で、不測の事態に備えた“学びを止めない”学習環境の整備が必要」(同)であることは論を待たない。

 そこでインテルでは、パートナー企業と共同で、教員の自宅からのテレワークや、教室からのオンライン授業を実現できる環境整備を推進しているという。効率的なオンライン授業を実現するための教員研修も強化しているとのことだ。

 同社では、2001年から教員研修プログラム「Intel Teach Program」をグローバル提供しているが、今後はこれを時代に合わせて進化させた「Skills for Innovation(S4I)」を提供するという。S4Iは2020年後半からテスト導入を開始し、2021年春から本格的に提供される予定だ。

DcXとNew Tech:データの利活用で最適化された教育を

 教育分野におけるICTの利活用には学校間、あるいは自治体間の格差が生じている。PCなどのICT機器を積極的に取り入れて、それを前提に教育カリキュラムを組み立てている学校もあれば、導入はまだこれからという学校もある。

 児童、生徒、学生や教員の使う端末については、GIGAスクール構想など政策の助けもあり格差は徐々に是正されていくと思われるが、次の課題として授業などを通して生み出された“データ”の利活用が浮上する。

 政府はEBPM(Evidence-based Policy Making:客観的な証拠に基づく政策決定)を推進する方針を掲げている。それを踏まえて、教育現場でもテストの素点だけではなく、コミュニケーション(対話)能力やコラボレーション(協業)能力といった汎用(はんよう)スキル、創造性といった数値化しにくい数値化しにくい行動もデータ化することで、教員の指導や児童、生徒や学生の学習にフィードバックできるようにする取り組みも始まっている。

 蓄積されたデータをうまく活用することで、将来的には以下のようなことを実現できるという。

・児童、生徒や学生に個別最適化された課題の提示

・当日の体調や環境に左右されない、日々の学習状況を加味した入試選考

・児童、生徒や学生の学力と教員の指導との因果関係のAI(人工知能)解析→より適切な指導に向けたフィードバック

・学校や自治体、国におけるより合理的な教育方針/政策の決定や実行

 インテルは、教育に関するさまざまなデータを蓄積し、活用しやすい環境作りに向けて、パートナー企業や自治自治体などと連携していく方針だ。

 日進月歩を続ける新しい技術の教育への導入でも、同社は積極的に支援をしていくという。例えば、体育の授業において、各種センサーを活用して走る際の動きや心拍数などを調べ、「かけっこが苦手な子どもに対する、適切な走法の指導」などをできるようになる可能性もあるとのことだ。