新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月7日に1都1府5県で発令され、4月16日には対象が全国の都道府県に拡大した「緊急事態宣言」は、5月25日付で全面的に解除された。

 それに伴い、小中学校でも順次、「分散登校」など工夫を凝らしながら授業を再開する動きが見られた。しかし、昨今の報道を見聞きすれば分かる通り、新型コロナウイルスの脅威は完全に去ったわけではない。再び感染が広がらないように心がけることが重要である。

 そうした中で、子どもたちの“学びの環境”は大きく変わりつつある。2020年度から小学校では新しい「学習指導要領」に移行し、「GIGAスクール構想」による児童や生徒に対する“1人1台”の学習用端末(ノートPCやタブレット)の配備が始まったのだ。

 短期集中連載「プログラミング教育とGIGAスクール構想」の3回目となる今回は、第1回と第2回の内容を踏まえて、教室の運営や教員の業務をサポートするサービスや、教育プラットフォームの活用事例を紹介する。

 本連載の執筆に当たり、NECの田畑太嗣氏からさまざまな話を伺った。田畑氏はNECの第一官公ソリューション事業部の初中等・教育産業グループで部長を務め、日本教育情報化振興会 政策検討委員会の委員、学習ソフトウェア情報研究センターの理事や、文部科学省の「2020年代における教育の情報化に関する懇談会」のメンバーなどを歴任してきた。日本の情報教育に関する第一人者である。

●教員は「授業」よりも「校務」に時間を割かれる

 小中学校の教員にとって大きな負担となっているのは、授業や課外授業……ではなく、それ以外の時間に発生する校務(学校事務)である。

 例えば、成績の処理、通知表の作成、教育課程の編成、時間割の作成、出欠の管理、各種報告書の作成、「たより」(クラス報や学年報など)の作成、保健関係の事務……など、教諭に課せられている校務は一般に想像されるものより多岐に渡る。

 校長、副校長(※)や教頭などの管理職も忙しい。日々の業務報告、稟議(りんぎ)の発案、予算の要求といった「管理職事務」が課せられる。保護者や近隣住民に対する対応や教員の勤怠管理なども行わなければならない。

 立場を問わず、学校の教員は非常に多忙なのだ。

(※)自治体や学校によっては、教頭に相当する役職を「副校長」と称する場合もあります

●「校務支援システム」で年間約170時間の業務時間を削減できた大阪市

 学校でのICT機器の活用は、「アクティブ・ラーニング」や「個別最適化された教材」といったより効率的な学習を児童や生徒にもたらすだけではなく、教員の業務の効率化にもつながる。

 教員のICT機器利活用における先進事例の1つとして、大阪市教育委員会の取り組みが挙げられる。

 同教育委員会では、2011年度から順次「ICT(情報通信技術)活用事業」を進めてきた。2013年度にはモデル校31校を対象に「校務支援システム」を試験導入し、2014年度から全ての市立学校に対象に本格導入した。NECはその基盤の構築と保守・運営を受託している。

 このシステムは国内の教育委員会としては最大規模のもので、現状の規模は以下の通りだ。

・ユーザー数:1万6600人

・導入学校数:428校

・クライアント(PC)台数:約1万2300台(ほぼ1人1台)

 校務支援システムはプライベートクラウドによって実現されており、大きく「グループウェア」「校務支援」「コミュニケーション」の3つのアプリケーションから構成されている。

 グループウェアは、一般的に想像されるグループウェアそのもので、「掲示板」「メール」「予定表(スケジューラー)」などを利用できる。教育委員会と各市立学校を結び、教職員の情報共有をサポートする役割も果たすことが期待されている。

 校務支援アプリケーションは、名簿の管理、出席簿、日常の所見、通知表、指導要録などを作成する機能がある。子どもたちの情報は学校内で共有することも可能で、「全教職員で子どもを育てる」環境の構築を目指している。

 コミュニケーションアプリは、学校のWebサイトの作成機能や保護者に対するメール送信機能などを備えている。学校と家庭との情報のやりとりを円滑化すべく用意されたものだ。

「年間100時間」の目標を大幅に上回る成果

 このシステムを導入する最大の目標は、「ICTの活用により教員が児童・生徒と向き合う時間を増やす!」(資料原文ママ)ことにあった。試験導入前は「年間100時間の創出(校務にかかる時間の削減)」を目標としていたが、結果はどうだったのだろうか。

 モデル校では、校務支援システムの導入によりクラス担任の校務時間が1年間で168.1時間、教頭の校務時間が136.3時間も短縮されたという(いずれも1人当たりの平均値)。目標を大きく上回る結果だ。結果を受けて全校導入を決定したのも納得といえる。

 校務支援システムの導入は、副次的な効果として教員のICT活用率の底上げにもつながっている。

 2015年の調査では、大阪市立学校の教員のICT活用率は51.3%と、同年の全国平均の66.2%と比べても低かった。しかし、2年後の2017年には67.5%に上昇し全国平均に追いつき、その翌年の2018年には73.5%と全国平均を上回ったと予想される(全国平均は現状で未算出)。

●アクティブラーニングを支援する「協働学習支援サービス」

 AIを活用した学習支援という観点では、NECが開発した「協働学習支援サービス」にも注目したい。

 新しい学習指導要領は、児童や生徒が主体的に学習を進める「アクティブラーニング」や、他者と一緒に学習を進める「グループ学習」を推進する方向性を盛り込んでいる。しかし、児童や生徒を評価する立場にある教員にとって、アクティブラーニングやグループ学習は“評価”することが難しい。児童や生徒の行動や発言を逐次確認することが難しいからだ。

 そこで、登場するのが協働学習支援サービスである。このサービスは、児童や生徒の発言を“可視化”するためのソリューションだ。具体的には、グループ(協働)学習中の発話をマイクデバイスで収集し、その音声をAI(人工知能)で解析して教員にフィードバックする仕組みとなっている。

 生徒や児童の発話はグループごとにタイムラインで可視化される。発話者(児童や生徒)の感情変化は色で示され、全発言に占めるシェア(割合)も表示できる。授業後には、児童や生徒の発話回数、あらかじめ設定しておいた「学習キーワード」の出現回数、発言への割り込み回数なども確認できる。

 グループ学習をより効果的に進めつつ、1人1人の児童や生徒の能力と特性を確認し、より良いグループ学習(アクティブラーニング)につなげられるソリューションといえる。

●「エピデンスに基づく教育」に向けた実証事業も進行

 協働学習サービスを発展させるべく、NECは京都市教育委員会や京都大学と共同で「未来型教育 京都モデル実証事業」を実施している。この事業は2019年1月から本格的にスタートし、同年8月には文部科学省から「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」にも採択され、2022年3月まで継続される予定となっている。

 この事業では、NECの協働学習支援サービスを活用しつつ、グループ学習で得られたデータはもちろん、学習用タブレットを通して得られる学習ログ(デジタル教科書の閲覧ログ、ドリルの閲覧/解答ログ)、学力テストの結果、児童や生徒から取ったアンケート結果などを統合的に分析することで、児童や生徒に個別最適化された指導方法の策定や、教師、児童や生徒、保護者に対する適切なタイミングでフィードバックすることを目指している。

 こうした学習データの分析は「ラーニングアナリティクス」とも呼ばれる。1人1人の子どもについて、「やる気」や「能力」を伸ばすために行ったことを実証・分析していくことで「エビデンス(証拠)」が蓄積されていく。そのエビデンスを学校間で共有すると、より効率的な学びにつながっていく。

 簡単にいえば、この事業の究極的な目標は「エビデンスに基づく教育」を実現することにある。この方向性は、日本政府が掲げる「EBPM(エビデンスに基づく政策決定)」ともリンクする。

 この事業には、ラーニングアナリティクスの第一人者である京都大学の緒方広明教授( 学術情報メディアセンター)が協力している。2019年12月から2020年3月の期間は七条第三小学校と加茂川中学校で実証が行われ、2020年2月17日にその結果を披露する公開授業も実施された。

 NECによると、この実証を通してエビデンスに基づく教育を実現するための知見が多く得られたという。

 新型コロナウイルスによる臨時休校といった“予想外”の事態に対応すべく、国、教科書の出版社、端末メーカーやソフトウェアベンダーなどが総力を挙げて小中学校へのICT導入を急いでいる。まさに「日進月歩」という状態で、状況も目まぐるしい。

 子どもたちの学ぶ権利を守るためにも、教育分野におけるICT利活用の進歩に期待したい。