初のMac向けApple Siliconである「Apple M1」を搭載した「MacBook Air」「13インチMacBook Pro」「Mac mini」の性能をまとめて評価してみた。結論からいえば、性能は極めて良好だ。Apple自身が訴求しているように、消費電力あたりのパフォーマンスでは突出している。

 絶対的な性能においても、15型以上のサイズが大きなノートPCを除けば、モバイルPCとしてライバルがいないほどの高性能だ。CPUだけではなく内蔵GPUまで速い。

 台湾のTSMCによる最新の5nmプロセスで製造される160億トランジスタの高性能SoC(System on a Chip)とはいえ、「パソコンという領域でIntelをここまで引き離したのは驚き」というぐらいに高性能だ。

 しかし一方で、「スイートスポット」ともいうべき性能面でのおいしい領域は意外に狭いようだ。電力あたりのパフォーマンスは、Apple自身が10W時でIntel最新世代の2倍に達すると主張していたように、使える電力に制約がある場合の性能は非常に高い。

 一方で多くの電力消費を許容したからといって、大幅に高性能になるわけでもないようだ。

 また互換性の面でも、Intel Mac環境がどこまで引き継げるのか、Intel向けに開発されたソフトウェアが快適に動作するのかといった疑問が当然ながら出てくる。

 このコラムではM1の性能とmacOS Big Surでのソフトウェア互換性、それにCore MLを通じたNeural Engine活用などについて話を進めていく。

●TDP 10〜15WにスイートスポットがあるApple M1

 AppleのM1には、IntelやAMDの製品のようなプロセッサー・ナンバーやモデルナンバーが存在せず、動作クロック周波数も公開されていない。最高クロック周波数は3.2GHz(iPhone 12の「A14 Bionic」は3GHz)だが、実際にこのクロック周波数で動くかどうかはアプリの状況や動作環境(主に温度)に応じて変化する。

 Appleは公に具体的な熱設計電力(TDP)の数字は明かしていないものの、M1搭載の13インチMacBook Proは、IntelのTDP 15W枠で設計された13インチMacBook Pro下位モデルと同じ筐体(底面の端に通風口がないタイプ)を採用している。

 また、MacBook AirはIntel時代にTDP 12〜13W程度で使っていると予想されていた(直近のIntelモデルはTDP 10Wのプロセッサ採用)が、Appleが新しいMacを発表したときの資料などから考えると、M1搭載のMacBook AirはTDP 10Wで設計されているものと予想される。こちらは冷却ファンのないファンレス設計だ。

 一方のMac miniはといえば、TDPが最大65Wの構成にも耐えうる冷却システムがあり、実際にIntel版も上位モデルには残されている。MacBook Airの10W程度、MacBook Proの15W程度とは大きく乖離(かいり)した熱設計だ。

 そこで、熱設計の違いによって製品ごとのパフォーマンスがどの程度変わるのかをまずは探ってみた。

 使用したのはCPUのベンチマークテストであるCinebench R23で、M1にネイティブ対応したバージョンがMac App Storeに登録済みだ。M1ネイティブのベンチマークテストは他にもGeekBench 5があるが、熱設計によるパフォーマンスの違いはCinebench R23の方が見通しやすい。

 Cinebench R23には継続して10分あるいは30分、3DレンダリングをCPUで行うモードがあり、全てのプロセッサコアがほぼ100%の利用率で張り付く。

 この状態でも最初の一周(1枚の絵を完成させるまで)は差がほとんど出ない。違いが出るのは10分間動かし続けた後、最後の一周となった際のスコアで、Cinebench R23ではこのスコアが公式な値となる。

 結果としては、高負荷が続いた場合はファンレスのMacBook Airより冷却ファンのある13インチMacBook Proの方が高性能ではあるものの、違いが明確に出始めるのは3周目ぐらいからだった。30分間連続でテストを実施すれば有意な差は出てくるものの、日常的な使い方で違いを感じることはまずないだろう。

 一方で13インチMacBook ProとMac miniの差は極めて小さく、30分間連続でテストを続けてやっと少しだけ差が出る程度だった。これらのことから、M1と組み合わせるコンピュータのTDPは10〜15Wあたりにあるようだ。

●スロットリングが入ってもTDP 28WのTiger Lakeより高速

 Cinebench R23のスコアは、M1搭載Macのどのシリーズでもシングルプロセッサで1470程度、マルチプロセッサで7800程度だ。しかし、30分間テストし続けるとMacBook Airのスコアはマルチプロセッサモードで6600程度まで落ちる。一方で13インチMacBook Proはマルチスコアが7450程度までしか落ちず、Mac miniに至っては全く落ちなかった。

 しかし、そんなMacBook AirでもIntelの第11世代Core(開発コード名:Tiger Lake)であるCore i7-1165G7を搭載したノートPCがTDP 28Wモードで出す一般的なスコア(4900程度)より高性能だ。M1は高性能コアと高効率コアの両方がフルに稼働するよう最適化がしっかり行われているからということもあるだろうが、発熱によるパフォーマンス抑制(スロットリング)が入っても、十分に高い性能を維持できている。

 実際、M1を搭載したMacBook Airはとても高速な一方、発熱を感じることはなかった。例えば、Macをセットアップしてメールの同期が始まると、既存メールデータベースの再構築とともに検索用インデックスの生成が始まる。このとき、本体が発熱して激しく冷却ファンが回る経験をした方も多いだろう。

 ところが、そんな状況でもM1搭載のMacBook Airはほとんど熱を出さない。それどころか、GPUに負荷をかけてみようと3Dアクションゲームの「Little Orpheus」をプレイしていても、全く温度に影響はなかった。しかも、このゲームはIntel向けだ。GPUを使う際のAPI(Metal)はエミュレーションでもほとんどパフォーマンスが変化しないため、電力効率もいいのだろう。

 もちろん、これはM1搭載の13インチMacBook Proでも同じだ。こちらは冷却ファンがあるが、本体に厚みがある分、放熱の余裕があるためか、これがほとんど回らない。冷却ファンの存在により、連続的な負荷がかかる状況でも性能が落ちずに済むものの、多くの場合、その助けを借りる必要はないということだ。

 このような状況であるため、恐らくは稼働しているだろうと思われるが、Mac miniの冷却ファンに至っては動いているかどうかさえ確認できないほどである。

●Intel Mac向けのアプリでどれくらいパフォーマンスが出せるのか

 次に動画編集アプリ「Final Cut Pro」で12分のフルHD・30P動画をH.264で書き出してみた。以下がその処理時間だ。

・M1搭載MacBook Air:2分57秒

・M1搭載13インチMacBook Pro:2分57秒

・M1搭載Mac mini:2分55秒

・Intel Core搭載16インチMacBook Pro(2020、i9モデル):2分23秒

・Intel Core搭載13インチMacBook Pro(2018、上位モデル):11分7秒

 M1搭載Macの3シリーズはほぼ同じ結果だった。16インチMacBook ProはCore i9搭載モデルのためM1を超えているが、スタンダードモデルならば同等、あるいはM1の方が高速となる可能性もある。

 処理後の筐体はファンレスのMacBook Airでもほんのりと暖かい程度だ。一方で、16インチMacBookProに搭載されているCoffee Lake-Hの8コアプロセッサは高性能だが冷却ファンで排熱してもかなり高い温度だった。製造プロセスも性能の上限も異なるとはいえ、ファンレスのMacBook Airでも処理能力が落ちないことは驚きだ。

 さらにIntelプロセッサ向けに開発されているアプリの速度をチェックするため、Adobeの写真編集アプリ「Lightroom」を「Rosetta 2」によるエミュレーションで動かし、「RICOH GR III」で撮影したRAWファイルを20枚現像してJPEGで書き出してみた。

・M1搭載MacBook Air:22.5秒

・M1搭載13インチMacBook Pro:22.5秒

・M1搭載Mac mini:22.5秒

・Intel Core搭載16インチMacBook Pro(2020、i9モデル):20.3秒

・Intel Core搭載13インチMacBook Pro(2018、上位モデル):36.4秒

 こちらはM1搭載モデルで全て同じ結果だった。詳しくは後述するが、Rosetta 2によるエミュレーションでは3割ほど性能が削がれるといわれているため、LightroomがM1に対応すれば、ここからさらに3割程度の性能改善が期待できる。

●M1搭載のMacBookだったら選ぶべきかAirか、Proか

 ここまで読み進めてきたとき、「自分にとってのベストな選択肢はMacBook Airではないか」と思っている方も多いのではないだろうか。実際、大多数のユーザーにとってMacBook AirがM1搭載Macの中で最も適していると思う。

 簡単に、M1搭載13インチMacBook Proとの違いを書き出してみると

・重量はAirの方が110g軽量

・ProはTouch Barを搭載

・Proはスタジオ品質のマイク(方式は同じだが音質が異なる)を搭載

・バッテリー容量はProの方が大きい(Proは58.2Wh、Airは49.9Wh)

・ディスプレイ最大輝度はProの方が高い(Proは500nits、Airは400nits)

・トラックパッドはProの方が大きい

・付属するUSB-C電源アダプターの出力はProの方が高い(Proは61W、Airは30W。充電時間の違いはあるが相互に利用は可能)

 といったところだが、MacBook Airは今回のモデルからPro同様、Display P3対応の広色域ディスプレイに切り替わった。最大輝度こそProよりも低いが、実際の利用場面で不足することはない。恐らく、HDR対応コンテンツを編集する際に、少しばかり高輝度部の見通しがよい程度の違いしか感じないだろう。

 バッテリー容量が大きく、同じ条件で使っていれば13インチMacBook Proの方がバッテリー駆動で長く使えるが、一方でM1が省電力なこともあって、MacBook Airでもなかなかバッテリーが減らない。では13インチMacBook Proのバッテリー容量はオーバースペックかといえば、モバイル環境で動画編集やRAW現像などメディア処理を行う際などには、やはり絶対的に容量の大きなバッテリーは安心感がある。

 Touch Barを使うアプリもあるため、最終的には最小構成で3万円の価格差を考えた上で、使い勝手の違いで選ぶ他ない。

 なお、Mac miniに関してはMac向けのアプリを書いている開発者にとって便利なことは間違いない。IntelプロセッサからM1となってiPhone・iPad用のプログラムコードを変換せずに実行できるようになったため、それらのアプリ開発を行う際、ARMネイティブのコードでテストを行える。

 もっと一般的な用途としては、冷却ファンの音をほとんど気にせずに作業ができるデスクトップコンピュータとして有益だろう。

 音楽制作アプリの「Logic Pro」にサンプルで添付されているBillie Eilishの「Ocean Eyes」プロジェクトを再生してみたが、多様なプラグインを使って多重録音されているプロジェクトの再生時、MacBook AirのCPU負荷は100%に満たなかった(macOSでは8コアCPUの場合、最大値は800%となる)。音を扱うアプリ向けにも、Mac miniは有益といえそうだ。

●Intel Mac向けアプリ、iOS・iPadアプリの互換性は?

 パフォーマンスの次は、どのぐらいIntel Mac向けアプリが動作するのかが気になるところだ。まず主要なアプリは、1〜2カ月程度の間にはM1に対応したバージョンへと更新が行われるようだ。

 6月のWWDC(開発者会議)では、Apple独自のプロセッサに対してMicrosoftとAdobe Systemsが対応することを発表していた。現時点では両社ともM1対応のバージョンをリリースしていないが、関係者への取材によるとおおむね12月までには主要アプリがそろう模様だ。

 またIntel Mac向けアプリも、おおよそ30%程度のパフォーマンス低下で動作するようだ。やや反則ともいえるが、旧バージョンのGeekBench 5をコピーして実行したところ、30%程度のCPUパフォーマンス低下が観測できた。実際のアプリを使ったテスト結果は前述の通りだ。

 また3DやGPU活用のAPIであるMetalを通じた処理に関してはオーバーヘッドはなく、ストレートに内蔵GPUの優れたパフォーマンスを生かせる。Intel向けゲームの大多数が快適に動作するのは(中には途中で止まるものもあった)Metalのオーバーヘッドがないためだろう。

 一方、Windowsの仮想化を行うアプリが使えないなどの非互換もあるが、筆者が使っている範囲で困ることはなかった。むしろiOS・iPadOS向けアプリとの互換性の方が有益と感じたほどだ。

 もちろん、全てのiOS・iPadOS向けアプリが動作するわけではない。GPSやジャイロセンサーなど、iOSやiPadにしか搭載されていないようなハードウェアを求めるアプリは利用できない。

 例えばフィットネスバンドとの接続と、バンドから得られるデータの分析などを閲覧できる「Fitbit」のアプリはM1搭載Macで動作したが、「Nike Run Club」はアプリ自身がGPSデータを利用してランニングパフォーマンスの記録を行う機能があるためか、M1搭載Macでは動作しない。また、どうやらmacOS向けにアプリが提供されているものは、iOS・iPad版を使いたくとも見つからないようだ。

 もちろん、たくさんあるiOS・iPad用アプリの全てがmacOSでの動作を確認されているわけではなく、運用はユーザーにまかされている面もある。とはいえ、手持ちのiOSアプリの大多数は動作する。中にはmacOSからは利用できないサービスのアプリもある。

 Boot CampやWindowsエミュレーションとの比較はできないものの、個人的にはiOSアプリとの互換性の方がトータルでは利益が大きいと感じている。

●Appleの移行計画はかなりの長期に?

 これまでもAppleは「移行には2年かかる」と話してきた。今回の3製品のリリースはスタート地点を定めたにすぎない。つまり、完全にMacがApple独自プロセッサに移行するのは、最短でも2年後ということになる。

 それまではIntel製プロセッサを搭載するMacも提供され続け、ソフトウェアはRosetta 2のもとでエミュレーションされるだけではなく、IntelでもAppleでも、どちらのプロセッサでもネイティブで動作するUniversalアプリに切り替わっていくのだろう。

 開発ツール面での切り替えの準備は相当前から行われていたようで、戸惑いの声は聞こえてこない。また、Core MLを通じて開発されてきたAI処理に関しては、Neural EngineやMLアクセラレータなどに翻訳されるため、既存アプリのままでも高性能が出るという。ゲームがエミュレーションで高速なのも同様で、間にAPIが入っているからこそ、シンプルに互換性が取れる。

 開発者に話を聞いてみても、Xcodeを用いて開発している限り、大規模なアプリも含めてM1に対応することは難しくないと証言する。とりわけMetalを用いたアプリの性能は良好で、Inte製プロセッサとApple Siliconが混在していても困ることは少ないという印象を受けた。

 もちろん、デベロッパーの中にはテスト工程が増えるという声もあるが、ツールが進化している分、過去のアーキテクチャ移行よりもずっとスムーズに進みそうというのが個人的な感想だ。

 一方で、移行計画はゆっくり進むものと思われる。M1は省電力で電力あたりのパフォーマンスが高い製品という領域で圧倒的な性能をみせているが、多くの電力消費を許容したとしても性能は上がらない。

 ということは、もっと高性能が求められる領域では、別の解決策が提案されることの裏返しでもある。しかし、来年末までにM2、そしてIntelからの移行にかける時間からすると、2022年末までにはより大きな規模のシステムに対する回答が用意されるのだろう。

 M2でノート型の上位、大型モデル(具体的には16インチMacBook Pro)を置き換え、M3でデスクトップやハイパフォーマンスコンピューティング向けまで用途を広げるだろうとみているが、それぞれがどのタイミングで提供されるかまでは分からない。

 M1はTSMCの最新プロセスで生産されており、Appleは同社の最も重要な取引先の一つであることは間違いないが、今後は他社も同等の生産プロセスを用いた新しいSoCを開発してくる可能性がある。

 Appleの行動が正しかったのかどうかは、来年あるいは再来年の同じ時期になれば、自ずと答えがでているはずだ。

[本田雅一,ITmedia]