林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

 

 

【まとめ】

・王室離脱=MEXITにあきれた英国の国民と王室。

・ヘンリー王子は領地からの収入継続で年収は5%減る程度。

・日本の皇室も戦前は大地主。似てるように見えて実態は異なる。

 

英国にもしも「流行語大賞」があったら、今年のトレンドはまちがいなく「離脱」になるだろう。より正確には「ブレグジットBrexitとメグジットMexit」だが。

 

ブレグジット(英国のEU離脱)については、すでに幾度も記事を書かせていただいたので、ここで多くを語るまでもないであろうが、単語の成り立ちだけ復習させていただくと、Britain(英国)とExit( 退出する)を組み合わせたものだ。

 

Mexitとは、さらにメーガンMeghanをかけたもの。日本でもすでに大きく報道されているが、チャールズ皇太子の次男であるヘンリー王子が、妻であるメーガン妃ともども王室から離脱し、英国とカナダを往復する生活を始めることになった。

▲写真 ヘンリー王子とメーガン妃

出典: kensingtonroyal Instagram

 

 

事の起こりは1月8日、夫妻がインスタグラムを通じて、「王室の主要メンバーから退き、経済的に自立する」と発表したことにある。

 

ヘンリー王子は、王位継承権6位。チャールズ皇太子の次男だが、兄ウィリアム王子に3人の子供がいるので、6位なのだ。1人は女の子だが、英国では女子にも継承資格がある。ちなみに「2013年王位継承法」が定めるところによって、男女を問わず第1子の継承権が優先されることにもなった。

▲写真 左からチャールズ皇太子、ウィリアム王子、キャサリン妃、メーガン妃、ヘンリー王子

出典: kensingtonroyal Instagram

 

いずれにせよ、英国の歴史の中で、王位をめぐる争いは幾度も起きているが、継承権上位にある王族が自らその立場を放棄すると言い出したのは初めてのことだ。

 

しかも、インスタグラムへの投稿という「軽いノリ」での発表ということもあり、英国民の多くは賛否の以前に驚き呆れた、という反応であった。

 

もっと驚き呆れたのが外ならぬ王室で、この決定は女王はじめロイヤルファミリーの誰にも相談せずに発表されたものであった。女王など、TVニュースで初めて事の次第を知ったという(TIMES電子版などによる)。

 

早速、女王の呼びかけで「家族会議」が開かれた。詳細はもちろん明かされていないが、結論は「いいとこ取りなど認めない」ということであった。ヘンリー王子が最初に申し出たのは、王室費は受け取らない代わりに、パパラッチに取り囲まれるような状況での公務は今後引き受けたくない、ということで、日頃、

「王家の使命とは国民に奉仕すること」

と言っていたエリザベス2世女王にすれば、受け容れられる話ではなかった。

▲写真 エリザベス2世女王

出典: The Royal Family

 

問題のメーガン妃はカナダに滞在しており、この会議にはSkypeでの参加を希望したが拒否されたと伝えられる。この時点で彼女は、もはや王室の一員とは見なされない、と宣告されたも同然であった。マスコミの論調も、こんな「いいとこ取り」を言い出したのはメーガン妃の差し金に違いない、という点で、ほぼ一致している。

 

英国民の間でも彼女に対する評価は今や地に落ちているが、これについては次回もう少し詳しく見ることにする。

 

会議の結果だが、すでに述べたように「いいとこ取り」は認められず、夫妻についてはロイヤル・ハイネス(殿下・妃殿下)の継承を今後用いられない、言い換えれば王室から離脱する、ということになった。

 

ただし、王位継承権とサセックス公爵の称号はそのままで、税金を原資とする王室費は今後支給されなくなるが、領地からの収入は継続されるので、実質的には年収が5パーセントほど減るに過ぎない。もう少し正確に言うと、領地からの収入はひとまず皇太子の懐に入り、王子は分配金をもらっている。邦貨にして年額およそ3億円だとか。

 

加えて夫妻は今後、カナダでファッション関係のビジネスを展開する予定だとも伝えられ、要するに王室から離脱しようが、経済的には「痛くも痒くもない」わけだ。

 

ヨーロッパの王家はどこもそうだったが、英国王室は大地主だ。農地などの地代に加え、リゾートホテルも建っているので、悪く言えば巨額の不労所得が得られる。

 

意外に思われるかも知れないが、我が国の皇室も戦前は大地主で大株主であった。

 

もともと鎌倉時代に権力が武士の手に移って以降、皇室の暮らしは質素どころか貧しかった。世界遺産はもとより国宝に指定される宮殿さえないのが、ひとつの証拠である。上洛した戦国武将が同情して献金した例はいくつもある。

 

しかし、明治政府の礎を築いた元老の一人である岩倉具視は、徳川幕府の天領(直轄領)などの不動産、さらには横浜正金銀行(後に東京銀行。さらには合併により現在は三菱UFJ銀行)などの株式を皇室財産とした。

▲写真 岩倉具視

出典: Public domain

 

「日本の宮廷文化」があまり質素では諸外国に対して体裁がよくない、ということであったようだが、災害や戦争などで急に多額のカネが必要になった場合に、議会での予算措置を経ずとも、皇室財産で一時的にしのげるようにしておこう、との目論見もあったと考える人が多い。

 

郵政民営化の議論が盛り上がった頃、反対派の間から、緊急時に備えて郵貯マネーという「別の財布」が必要なのだという意見が繰り返し出たことをご記憶の向きも多いだろう。こういう発想は昔からあったのだ。

 

話を戻して、ヘンリー王子の「決断」に対して、当初は同情的な声も聞かれた。家族を大事に思うあまり王族の特権を捨てるというなら、それも「あり」だろう、というように。

 

しかし、前述のように生活を保障されたまま公務を放棄するのだということが知れ渡ると同時に、ブーイングの嵐となったのである。

▲写真 新年をお迎えになった皇室ご一家の近影

出典: 宮内庁ホームページ

 

日本の皇室はこの点、今では税金で維持されているので、たとえばプリンセスの結婚問題にもそれが影響する。私も個人的には、

「若い二人が幸せなら、それでいいじゃないか」

で済まされないのはお気の毒だと思うのだが、やはり日本国憲法の天皇条項に照らしても、また皇室の現実の立場から考えても、国民ひとしく祝福するような結婚でなければ……という意見のほうに理(ことわり)があるとせざるを得ないのである。

 

このプリンセスについても、皇籍離脱の可能性がささやかれているが、一見、「王族・皇族の立場より幸せな結婚生活を選ぶ」

こうhしという同じ選択肢に見えて、実態はまるで異なることが、ここまで読まれた方にはお分かりのことと思う。 

 

 近代日本の皇室は、様々な点で英国王室を手本にしてきたとされているが、実はそもそもの立ち位置が違う。今回のシリーズでは、その話題を掘り下げてみたい。

 

(続く)

 

▲トップ写真 メーガン妃(左)とエリザベス2世女王(右)

出典: The Royal Family