安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・10万円給付、時間かかるのはマイナンバーが普及していないせい。

・マイナンバーカードの普及率は国民の16%どまり。

・マイナンバーカード普及の為の努力を政治はすべき。

 

政府は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、一律10万円の給付を決めた。早ければ5月下旬にも支給される見込みだが、海外では既に給付が開始されているところもある。何故日本は遅いのか?

背景にはマイナンバーカードが普及していないことにある。

 

■ マイナンバーとは?

そもそもマイナンバーとはなんであろうか?マイナンバーは個人番号とも呼ばれ、日本に住民票を有するすべての人(外国人も含む)が持つ12桁の番号だ。

マイナンバー制度の目的は、政府のHPによると、以下の3つということになる。

▲画像 出典:内閣府 https://www.cao.go.jp/bangouseido/

ちなみに、上の画像のマスコットは「マイナちゃん」という。

アメリカでは市民・永住者・外国人就労者に対し、9桁のソーシャル・セキュリティー・ナンバー(Social Security Number:社会保障番号)というものが割り当てられている。銀行口座を開くにも、クレジットカードを作るにも、この番号が必要だ。当然税金を払うにも、還付を受けるにも、個人がこの番号に紐づいている。従って、今回のように政府が国民に迅速に給付を行うことが可能なのだ。アメリカでは3月27日、トランプ大統領が法律に署名後、約2週間で支給された。

日本は、住民票コード、基礎年金番号、健康保険被保険者番号など、それぞれの番号で個人の情報を管理しているため、国や地方の行政機関をまたいだ情報のやりとりでは、氏名、住所などでの個人の特定が困難で効率が悪い。

何故、こうした個人番号の普及が遅れているのかというと、日本人に、お上に自分の懐具合を含め全てを管理されたくない、という気持ちが強いからではないか。

古くは1968年、佐藤栄作内閣が「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置し、国民総背番号制の導入を目指したが頓挫した。1983年、中曽根内閣の時には、グリーンカードという名称で納税者番号としていったん導入が決まったものの、反対が強く撤回を余儀なくされた。

なにしろ、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポートの番号、納税者の整理番号、運転免許証番号、住民票コード、雇用保険被保険者番号など個人に割り振られる番号は省庁ごとに作られてきた歴史がある。

その後、住民基本台帳ネットワークシステムが稼働し、2003年には住民基本台帳カード(住基カード)が配布され、住民票の写しを全国どこの自治体でも取れるサービスや、住所移転時の転入転出手続の簡素化などのサービスが受けられるようになった。しかし、これも不評で普及率はわずか5%に留まった。

そして例の日本中が大騒ぎとなった「消えた年金問題」が2007年に勃発する。社会保険庁(現日本年金機構)のオンラインデータに年金記録の不備が多く見つかり、個人番号の重要性が一躍注目されるようになった。

2011年、当時の菅直人内閣の下、社会保障・税一体改革の実現のため共通番号制度導入の検討が進み、政権交代後の2013年3月に安倍晋三内閣によりマイナンバー法案が提出され、後に成立。現在に至っている。

▲画像 出典:総務省

・マイナンバーカードへの抵抗感

そのマイナンバーカード、現時点で普及率は4月時点で約16%に留まっている。筆者は一応持っているが5年前に発行したっきり、ほとんど使う場面がなかった。住民票や印鑑証明は、区が発行する印鑑登録証を使えば自治体の証明書自動交付機で発行出来たので、マイナンバーカードの出番がなかったのだ。

▲写真 証明書自動交付機 出典:総務省

しかし、筆者が住んでいる東京都世田谷区では去年12月28日をもってこの証明書自動交付機のサービスが終了し、マイナンバーカード専用証明書自動交付機に取って代わった。住民票や印鑑証明などを取得するのに、ようやくマイナンバーカードの出番がきたわけだ。

▲写真 マイナンバーカード専用証明書自動交付機 出典:郡山市役所

マイナンバーカード専用証明書自動交付機では、以下の証明書が取得できる。

(1) 住民票(本人または本人と同一世帯の方の住民票の写し)

 続柄、個人番号、本籍(外国人は国籍)、在留資格等(外国人)は  記載の有無を選択可能です。

  (注意)以下の証明書は交付できません。

   ・住民票コード、履歴等が記載された住民票の写し

   ・除票の写し

   ・無料交付の証明書(年金用等)

(2) 印鑑登録証明書(本人の印鑑登録証明書)

(3)特別区民税・都民税の課税証明書(本人・現年度分)

(4)特別区民税・都民税の納税証明書(本人・現年度分・前年度分)

  (注意)以下の証明書は交付できません。

   ・税申告されていない方の証明書

   ・無料交付の証明書(年金用等)

(5)戸籍証明書(本人または本人と同一戸籍の方の戸籍全部事項証明書・戸籍個人事項証明書)

出典:世田谷区HP 

従来の証明書発行機では戸籍証明書(戸籍謄本・抄本)は取れなかったので、マイナンバーカードを持っていて良かった、と思いきや、落とし穴があった。

マイナンバーカード専用証明書自動交付機で証明書を発行するには、暗証番号が必要なのだ。さて、マイナンバーカードの暗証番号は何だったけ?5年前に設定した暗証番号は思い出せないし、3回間違えたらロックがかかってしまうので、おいそれと打ち込めない。

となると、マイナンバーカードを今後使うためには、役所に行って暗証番号の再設定をしなくては、と思い立った。その際知ったのだが、マイナンバーカードの暗証番号はなんと4種類もある。

▲図 出典:総務省

実際に役所に行って再設定をやってみた。まずは窓口でマイナンバーカードを提出し本人確認。しばらく待たされてから別室に呼ばれ、各暗証番号を記載できる用紙をくれるので、その場で考え、記入した。そして、その暗証番号をPC画面に打ち込んでいく。(この用紙は持って帰ってよい)更に役所側が確認する間待たされて、ようやくマイナンバーカードを返してもらい、めでたく暗証再設定完了となった。この間、約30〜40分はかかったろうか。

何故こんな面倒くさいことをして暗証番号を取得したかというと、以下の作業で必要になるからだ。

1)マイナンバーカードを活用した消費活性化策

実は政府は今年9月からマイナンバーカードを利用した景気刺激策を考えている。去年10月からの消費税増税のショックを緩和するため、現在キャッシュレス5%還元策が実施されているが、それは2020年6月末で修了する。そのため、もともと5%還元終了後の増税ショックが懸念されていた。

そこで、当初予定されていたこの夏の2020オリンピック・パラリンピック後の新たな景気刺激策として考案された。仕組みは、マイナンバーカードでマイナポイントを予約した人を対象にキャッシュレスで2万円のチャージ(若しくは買い物)をすると一人当たり5000円のマイナポイントがもらえるというものだ。

▲写真 マイナポイントを活用した消費活性化策スマホサイト(スクリーンショット)©Japan In-depth編集部

政府は消費活性化と共に、マイナンバーカードの普及も図ろうと一石二鳥を狙ったのだろうが、如何にも役人が考えそうなアイデアだ。そもそもマイナンバーカードを持っている人しかポイントがもらえないというのは不公平極まりない。2万円の25%の5000円が付くなら欲しいが、そのためにマイナンバーカードを作るのは面倒だ、という人もいるだろう。消費活性化にもマイナンバーカード普及にも貢献しないという無策になりそうなのだ。

さて、早速マイナンバーカードを使ってマイナポイントを予約しようと思ったが、まずマイナポイントの予約(=マイキーIDの設定)から始めなくてはならない。

「マイキーID」ってなんだ、と思ったら、

“マイキーIDとはマイナンバーカードのICチップの中の電子証明書を活用して、ウェブ上のマイキープラットフォームで設定されるIDです。マイキープラットフォームの各種サービスやマイナポイントの付与を行うために、本人を認証するキーとして必要になります。”(引用:総務省)

ということらしい。

その「マイキーID」の取得が面倒くさい。PCでは、まずマイナンバーカードを読み取るための、カードリーダライターを用意した上で、「マイキーID作成・登録準備ソフト」をインストールしなければならない。カードリーダライターなど持っていない、という人はスマートフォンで設定できる。が、これもAndroidとiPhoneでは異なる。

Androidだと、Google Playで「マイナポイント」アプリ、「JPKI利用者ソフト」をインストール。iPhoneだと、App Storeで「マイナポイント」アプリをインストールしなければならない。

▲図 マイナポイントアプリアイコン 出典:App Store

次に「マイナポイント」アプリを起動する。「マイナポイントの予約(マイキーIDの設定)」をクリックし、マイナンバーカードをスマートフォンで読み取るのだが、その際に例の暗証番号が必要になる。「利用者証明用パスワード」(数字4桁)というやつだ。

▲写真 iPhone用マイナポイントアプリの暗証番号(パスワード)入力画面スクリーンショット ©Japan In-depth編集部

この暗証番号を入力しないとアプリはマイナンバーカードを読み取ってくれない。

▲写真 iPhone用マイナポイントアプリマイナンバーカード読み取り画面スクリーンショット(スマホの下にカードを置いて読み取る)©Japan In-depth編集部

マイナポイントが予約されると、「マイキーID」が設定される。こうしてようやく、今年7月以降、マイナポイントの付与を希望する決済サービスの選択ができるようになるというわけだ。今の時点でここまでやっている人がいったい何人いるだろうか?

2)新型コロナ対策国民一人当たり10万円給付

そして、今回の10万円給付である。(特別定額給付金(仮称))マイナンバーカードを持っている人は「マイナポータル」にログインして申請ができる。しかし、マイナンバーカードがない人は、市区町村から郵送された申請書に振込先口座を記入し、振込先口座の確認書類と本人確認書類の写しとともに市区町村に郵送しなかればならない。

▲図 特別定額給付金申請書様式2(見本)出典:総務省

やはりここでもマイナンバーカードがあった方が便利である。そうか、ではマイナンバーカードの申請をしようか、と重い腰を上げたあなた。それも結構めんどくさい。

 

■ マイナンバーカードの申請

マイナンバーカードを手に入れるためには、交付申請をしなくてはならない。申請はスマホ、PC、まちなかの証明写真機、郵便でできる。

▲写真 マイナンバーカード交付申請ができる証明写真機 出典:DNPフォトイメージングジャパン

申請にあたり、氏名やメールアドレスはいいとして、その際に入力必要な項目がある。それが「申請書ID」(半角数字23桁)だ。個人番号(マイナンバー)とは別のもので、「通知カード」と一緒に郵送されている「個人番号カード交付申請書兼電子証明書発行申請書」(通知カードとつながっている)に記載されている。

▲画像 出典:総務省

この「通知カード・個人番号カード交付申請書」を紛失してしまった人は更に面倒だ。警察に遺失届を出し、受理番号をもらってから住んでいる市区町村で通知カード再発行の手続きをしなくてはならない。

マイナンバーカードの交付申請から市区町村が「交付通知書」を発送するまで、約1か月かかる。マイナンバーカードを受け取るにはこの交付通知書(はがき)を持って役所の窓口にいかねばならない。マイナンバーカードを取得するのは大変なのだ。

さあここまで読んで、マイナンバーカードを今から申請しようと思う人はどの位いるだろうか?そもそも今から申請しても、10万円の特別定額給付金(仮称)の申請には間に合わないから、今回はいいや、と思ったそこのあなた。マイナポイント申請に使えるから一応やった方がいいと思うがいかがだろうか?

いずれにしても、国民全体に普及するにはまだまだ時間がかかりそうなマイナンバーカード。日本人がプライバシーに対する高い意識を持っていることは決して悪い事ではない。しかし、行政が非効率のままだったり、脱税が跋扈している状態をそのままにしておいていい、と思う人はいないはずだ。今回の10万円支給で、マイナンバーの利便性を初めて知った人もいよう。国民に正しくマイナンバーのメリットを説明し、理解を求める努力をするのが政治の責任だろう。

トップ写真:イメージ 出典:flickr:Dick Thomas Johnson