清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・防衛大臣囲み取材、三密の状態を続けて大臣にも危機感なし。

・危機管理が本分の防衛省、記者クラブとの癒着で指導できず。

・厳しい質問をするフリーランスの記者会見参加を未だ認めず。

 

新聞やテレビでは毎日これでもかというほど、新型コロナ・ウィルス関連の報道がなされている。役所も外出禁止を呼びかけている。だが、当の新聞やテレビ関係者、役所にそれほどの当事者意識があるのか疑問だ。

4月10日、防衛省定例の河野太郎防衛大臣会見が行われた。通常防衛省の会見は防衛省の中枢であるA棟、10階の会見室で行われるが、三密を避けるために11階のより広い会議室で行われた。参加者同士の距離は大きく取られて、入館に際しては手の消毒とマスクの着用が求められ、発熱のあるものは参加を自粛するように求められていた。また防衛省正門ゲートや建物の受け付けでは担当者がマスクに加えてゴーグルを着用したり、透明のシールドをかけたりしている。

▲写真 正門の様子 出典:著者撮影

▲写真 1Fに置かれている消毒液 出典:著者撮影

▲写真 透明のシールドをかけている受付 出典:著者撮影

ところが会議室の外で記者クラブ会員の記者たちが、いわゆる「囲み」、大臣を取り巻いての取材を行った。これは狭い廊下で密集して行われていた。これは「密閉」「密集」「密接」の三密に当たる。

そのような配慮をしていながら、三密状態の「囲み」を行うのであるから、記者クラブも大臣官房も上記のようなコロナ対策は単なるやっている感を出すだけのイベントと思っているか、当事者意識が欠けているのだろう。

因みに会見では密集を防ぐために参加は各社1名とされていたのに、少なくない記者クラブメディアから複数の記者が参加していたことからもそれがわかる。防衛記者会(クラブ)も広報課含む大臣官房も、コロナ・ウィルスは自分たちには関係ないと思っているようだ。

筆者は外国メディアの記者として会見に参加しているが、このような記者クラブの囲み取材に違和感をもった。報道室の担当者にはこれはやめるべきでは、と苦言を呈しておいた。ところがその後日の会見後も囲みは行われていたようだ。

筆者は4月24日の大臣会見に参加したが、その時河野大臣に以下のような質問をした。

 Q: 4月10日の会見の後に、大臣、そこの廊下で囲みの取材に応じられたと思いますが、あれ、結構密集されていましたよね。あれがオッケーだったらこういう距離を置いた記者会見というのは、無意味なんじゃないでしょうか。

 A: 結構、密だったと思いますので、なるべく囲むときは距離をとって唾を飛ばさないように御努力いただきたいと思います。

河野大臣は、密集は良くないが、囲み自体は続けると思われる答弁を行った。だが会見後、記者クラブの記者たちは密集して河野大臣の「出待ち」をしていた。

そしてその後も囲み取材をやめることはなかった。以下は4月28日の大臣会見での筆者と河野大臣のやり取りである。

 Q: 先日も伺ったと思いますけれども、記者会見後の囲みに関してこれはどういうふうに対処されるのでしょうか。それから会見に際して、参加は各社1人と伺っているのですが、何人も参加されているように見えます。それから記者クラブの記者室に、かなり密集して皆さんご利用ですけれども、これはこのままでよろしいのでしょうか。例えば記者室を閉鎖するとか、そういう何らかの対処はお考えでしょうか。

 A: 記者クラブと広報課で囲みの話は相談をしていただいていると思います。記者会見の参加人数についても、広報課と記者クラブで考えていただきたいと思っておりますし、記者クラブの部屋については、記者クラブで3密を避ける努力をしっかりしてもらっていると思っております。

 Q: すみません。されていないように思えるので伺っているのですが。

 A: それは記者クラブの中で問題提起をしていただければと思います。

 Q: 大臣、ツイッターでもおっしゃっていましたが、アトピーをもっていらっしゃっているということで、ステロイドを使ってらっしゃると思いますが、ステロイドを使っている人間というのは、感染しやすいんですよね。それはやっぱり配慮して、皆さんも配慮すべきではないかと思うんですけれどもいかかでしょうか。

 A: 記者クラブにお任せしています。

▲写真 河野防衛大臣 出典:著者撮影

このような質問をされた後でも河野大臣は記者クラブの囲み取材に応じた。唖然とするほかはない。

危機管理官庁である防衛省の長と新聞、テレビがこのような当事者意識を欠いていて、自衛官、国民に三密を避けろと啓蒙しているのは二重基準であり、失笑を禁じ得ない。

本来防衛省の広報課はこのような囲みはやめるよう記者クラブに要請すべきだった。首相官邸では既にやめている。

戦争という究極の非常時に対処することが仕事の防衛省は、危機管理がその本分である。これは大規模災害や今度のコロナ騒ぎでもその危機管理が求められている。ところがこのようなことを放置していては危機管理能力が欠如していると取られるだろう。

また防衛省職員や自衛官は、トップがこの有様では防衛省のコロナ対策はポーズだろう思い、自分たちも軽んじたり、あるいは士気が落ちるだろう。

このような三密状態の囲み取材で防衛大臣や防衛省幹部がコロナ・ウィルスに罹患したら、大問題だ。大臣や幹部が罹患すれば副大臣や他の閣僚、他の省庁の幹部に伝播する可能性は高い。実際に新型コロナ・ウィルス対応を担当する西村康稔経済再生相が、視察に同行していた男性職員の感染が確認されたために保健所から指導があるまでの間、自宅待機となっている。

危機管理の基本、そして当事者意識と想像力が防衛省、防衛記者クラブともに欠如している。伊藤茂樹報道官、末富理栄広報課長の責任は重い。

▲写真 末富広報課長 出典:著者撮影

「囲み」だけが問題ではない。A棟10階に所在する記者会室では以前同様に三密状態で記者たちがたむろしている。本来ならば広報課は記者室を閉鎖してテレワークを推奨するなり、何らかの方策と取るべきだがそれもしてない。新聞やテレビは国民に三密を避け、テレワークをすべしと啓蒙しているが、自分たちは例外らしい。

なぜ防衛省は記者クラブにものが言えないのだろうか。それは他の役所でもそうだが、役所と記者クラブが癒着しているからだ。

記者クラブは他の媒体やフリーランスを会見や、レクチャー、視察旅行などの取材機会から排除している。その代わり記者クラブは当局の不利益になる質問や報道をしない。つまり、記者クラブは役所の不利益になるジャーナリストを排除して、国民の知る権利から当局を守る防波堤の役割を果たし、その見返りとして役所からの情報と取材機会を独占しているのだ。報道機関というよりPR機関に近い。

しかも記者クラブの記者は大抵その分野のエキスパートではない。単に会社の辞令で配属されているだけだ。防衛省担当者というだけで軍事知識が欠如している。それで当局に忖度しているだからまともな質問ができるはずがない。会見は馴れ合いの場となっている。

先に安倍首相の記者会見で質問がすべて事前に提出されて、首相は回答の書かれたメモを見ながら答えて失笑を買い、劇団記者クラブと揶揄されたことは記憶に新しい。

多くの記者会見が役所ではなく、記者クラブが主催しているというのも我が国だけだろう。記者クラブは報道関係者の代表を僭称している一民間任意団体である。即ちPTAや町内会と同じにすぎない。

彼らは他者に選ばれたわけでも、法的な裏付けがあるわけでもない。報道関係者の代表であると主張しているは自分たちだけだ。ある意味白人至上主義のアパルトヘイトやアーリア人選民主義のナチス、自分たちが労働者の代表だと独裁を行う共産国家のプロレタリアート独裁と同じである。

その一民間任意団体は当局から経済的な利益許与がなされている。記者会見室、記者室などが無料、あるいはただ同然で提供されている。

防衛省でその他に記者クラブ担当の連絡官が2名専属でいる。彼女たちの人件費も防衛省が負担している。筆者は連絡官の職務や待遇、人件費などについて昨年2月に広報課に質問を出したが長期黙殺されたので、その後何度も大臣会見で督促し、この2月には末富広報課長と面会し、課長は回答を確約した。だが未だに回答はない。記者クラブに不利益となる回答はしないのだろう。

筆者は外国専門誌の記者の肩書で外務省のプレスパスをもっているために会見に参加しているが、基本的にフリーランスである。一昨年末に防衛記者クラブは、フリーランスにも会見参加を認めたが、防衛省はセキュリティ上問題があるとして許可をださなかった。このため筆者は寺澤有、三宅勝久両氏とともに防衛省にこの件に関して面会を求めたが、黙殺された。

その後何度も河野大臣の会見でもこの問題を追求したが、機密の多いA棟にフリーランスの記者を入れる手はずが整っていないと繰り返すばかりだ。防衛記者クラブがフリーランスの会見参加を認めてから1年4ヶ月が過ぎたが、未だにフリーランスの参加がいつからになるのか防衛省は明らかにしていない。

▲写真 防衛省の中枢が集まるA棟 出典:著者撮影

恐らくは防衛省に厳しい質問をするフリーランスの記者の参加を防止したい防衛省と、記者クラブの取材機会を独占し利権を維持したいという防衛省と記者クラブの利益が一致しているので無期限に引き延ばそうとしているではないだろうか。

実際に筆者はフリーランスだが、記者会見に参加している。このような見本があるのに、フリーランスの会見参加がいつになるのか分かりません、と強弁するのは入れる気がないのだろう。

防衛省と記者クラブの癒着は他にもある。大臣外遊の際の同行取材の交通費を報道室員に個人的に肩代わりさせている。防衛記者クラブの書類に以下のように書かれている。

「現在は大臣外遊に伴う現地作り上げバス代等の『外遊』について報道職員『個人』に立て替えていただいていますが、その額は数十万円単位で、報道室員の大きな負担となっています。これを、記者会にて立て替え、各社から記者会に入金いただく形に是正するためにも、預金残高の改善が必要です(「防衛記者会の財政改革について」)」

筆者は本年2月28日に開かれた河野太郎防衛大臣の定例記者会見でこのことを大臣にただしたが、大臣も「それはいかがなものかと思います」と返答している。

更に同じ書類によると各幕僚監部との記者懇談会でビール券の支出がされている。各幕僚監部にビール券を配っているのか、酒を飲んで取材をしているか不明だが、どちらにしても問題だ。この件に関して筆者は3月2日に防衛記者クラブに取材を申し込んだ。「会員各社と相談する」ということだったが、いまだに連絡がない。都合の悪いことには取材に応じたくないだろう。

このような記者クラブと官庁の癒着は国民の知る権利と報道による権力の監視を妨害し、官庁の危機管理能力まで奪っているのだ。このような形で国民の知る権利を阻害している国は民主国家の要件を満たしていない。

トップ写真:大臣会見 出典:著者撮影