平成生まれと「Eジェネレーション」(下)

平成生まれと「Eジェネレーション」(下)

林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・「Eジェネレーション」は1つの地域、1つの文化に固執しない。

・インターネットにあふれる情報は玉石混淆。

・辺野古に対するローラの発言は「第二の三里塚」にならない理由。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43520でお読み下さい。】

 

今年、沖縄出身のダンス・ボーカルユニットDA PAMPの『U.S.A』という楽曲がメディアを席巻した。YouTubeの再生回数は秋までに1億回を超えたという。「Come on baby アメリカ」というサビといい、衣装に採用した「90年代ファッション」といい、私などが視聴すると、どことなく昭和の匂いが漂う曲だが、若い層にはこれが「ダサかっこいい」と映ったらしい。

前回、ヨーロッパの「Eジェネレーション」もわが国の「平成生まれ」も、地域の伝統的なコミュニティーよりも、インターネットなどで繋がる、いわば二次元のコミュニティーに強い帰属意識を持つ傾向がある、という話をした。

これはもちろん「上の世代の目には、もっぱらそのように映る」という話で、例外はいくらでもあるし、1989年=平成元年に冷戦が終結して以降、国境を越えて人や情報が自由に移動する傾向に拍車がかかった事実を反映しているに過ぎない。

冷戦の一方の主役であったソ連はもはや存在しないわけだが、ヨーロッパの若者が米国に対して向ける目も、過去30年でだいぶ変化しているようだ。

現在30歳以下の「Eジェネレーション」は、ヨーロッパ統合の成果を享受しており、米国を世界の盟主だなどとは、もはや考えない。今や「西側世界」も存在しないのだから、当然と言えば当然だろう。

だからと言って、ヨーロッパの古い文化に固執して、アメリカなにするものぞ、などと気負うわけでもない。げんに彼らは、米国発のカジュアルアイテム(具体的には、リーバイスのジーンズ、GAPのトレーナー、コンバースのスニーカーなど)が大好きだ。

こうした若者を育てた、ヨーロッパ統合という事業が、どのような経緯で成り、また将来に向けてどのような問題を抱えているのか、私は英国とヨーロッパ大陸諸国との思惑のズレも含めて、『国が溶けて行く ヨーロッパ統合の真実』(電子版配信中)という一冊にまとめた。来年は英国のEU離脱問題も正念場を迎えるし、この問題に関心のある向きは是非……と書きかけた手前、最近の評判はいかに、と思って、ずいぶんと久しぶりにamazonをエゴサーチしてみた。おおむね好評なので有り難かったが、昨年暮れに「言語に関してはデタラメだらけ」と題するレビューが投稿されていた。

「私は政治や経済には素人なのでこの本全体は評価できませんが」

との書き出して(だったら、黙ってて欲しいなあ)、なにがデタラメなのかと言うと、統一通貨の名称について、EUROPEの最初の四文字であるEUROを採用、という私の文章を引用し、「EUROPEは仏語でもEUROPEだし、元を辿ればギリシャ語で、神話にでてくる王女の名前です」と、なにやら知識をひけらかすような書きっぷり。英語由来の名称が一番無難だから、という理由で決められたことは、たとえ「素人」でも、本書を含め、ユーロに関する基礎的な解説書を読めばすぐに分かることなどだが。

ついでに言っておくと、ヨーロッパの語源がギリシャ神話というのは「諸説あり」というレベルの話で、私はフェニキア語語源説を採っている。これも、本文に明記してある。

最後は、スペインではかつての通貨ペセタが女性名詞であったのに対し、ユーロは男性名詞(よって混乱が予想された)という私の解説に対し、「EUROが多くの言語で男性名詞なのは、EUROPEとは関わりなく、Oで終わる単語は男性という連想によるものです」と、またしてもトンチンカン。そして、「政治・経済・歴史などを学ぶ学生が、この本で言語に関してデタラメな知識を身に着けると困るので星一つとします」と結んでいる。脳内を多数の星が巡っているような御仁とお見受けするが、まあ「素人」相手に言いつのるのも大人げないので、学生よりも自分のデタラメな日本語能力をまず心配すべきでしょう、とだけ述べておく。

こういうものが堂々と「書評」として発信され、しかも一定の確率で真に受ける人がいる(参考になった、とした人は1年間で2人だけだったようだが)というところに、ネット社会の怖さがある、とはあらためて思ったが。

そうかと思えば、SNSの威力をあらためて思い知らされたこともあった。タレントのローラが、「沖縄の美しい海を守ろうよ」と、辺野古の埋め立て工事中止を求める署名をインスタグラムで呼びかけた件である。

ホワイトハウスの嘆願サイトに名前とアドレスを書き込むだけでよく、一定期間内に署名が10万筆以上集まれば、ホワイトハウス側も内容を検討するという。彼女の影響力はさすがで、あっという間に目標の10万を超えたそうだ。

▲写真 沖縄県名護市辺野古 出典:Kugel~commonswiki

辺野古の工事について、私はかねてから、このままでは「第二の三里塚」になりかねないぞ、と危惧を表明してきたのだが、やはり平成生まれは、やり方がずっとスマートなのだな、と感銘を受けた。

若い人は三里塚という呼称自体、なじみがないかも知れないが、成田空港の建設を巡っては、反対派、機動隊の双方に死者まで出る激しい反対闘争があったのである。千葉県成田市の、空港建設予定地が三里塚と呼ばれていた。

首都圏に新たな国際空港を造る必要はもちろんあったが、米軍横田基地の返還が実現していれば、あのような騒ぎは起きなかったはずで、沖縄の基地問題も根は同じだ。敗戦後、日本は未だ本質的な意味で独立を回復できていないのである。ローラがそこまで考えて、日本政府よりホワイトハウスに署名を送りつけようと思い立ったのかどうかまでは、私には分からないが。

ただ、これまでの日本では、芸能人が政治や安全保障問題について発言することはタブー視されてきたが、今やそれも打破されつつあるのは、よいことだ。これもインターネットが普及した功績のひとつかも知れない。

もっともフランスの若者のように、ネット上で政治に対する不満をいくら語っても埒が明かない、とばかりにデモに繰り出し、暴動化する例もあり、わが国にも(沖縄だけではなく)同様の現象が起きる可能性は否定できないと、私は思う。この問題は、新年特大号で考察させていただこう。乞うご期待。

(上のつづき)

トップ写真:イメージ図(スペインセントルイス大学の学生達)出典:flickr(Saint Louis University Madrid Campus)


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