韓国レーダー照射問題 EEZで既成事実化 〜日本海の波高し〜その2

韓国レーダー照射問題 EEZで既成事実化 〜日本海の波高し〜その2

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・日本のEEZが侵食され、それが既成事実化。

・EEZ内での韓国・北朝鮮の接触から目をそらすカモフラージュの可能性。

・レーダー照射事件の本質はEEZにおける韓国海警や韓国海軍による「主権行使」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読みください。】

 

韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」が2018年12月20日、海上自衛隊のP1哨戒機に対して敵対的な火器管制レーダーを照射したとされる問題には、東アジアにおける地政学的な転換点(ターニングポイント)の意味がある。

 

韓国が北朝鮮や中国との戦略的連携を深める中で、日本海における日本の排他的経済水域(EEZ)が侵食され、それが既成事実化しつつある。韓国レーダー照射問題は、北朝鮮の核武装、中国の西太平洋地域における東進、米国の韓国に対するコミットメントの低下などの重大な地政学的イベントがなければ、起こり得なかったことだ。

 

さらに、アラブ世界が資本主義と社会主義などの近代的な「イデオロギー対立」から前近代的な「宗派や民族のアイデンティティ」による再編の只中にあるように、朝鮮半島もイデオロギー対立から「血を分けた民族による統一」へと政治の前提条件が大激変している。今回の事件も、そうした大局から捉えるとわかりやすい。

 

■日本のEEZで希薄化された日本の主権

 

そもそも、今回の事件が起きた漁業資源豊富な大和堆(やまとたい)の「暫定水域」は、大部分において韓国が一方的に主張するEEZにさえ入らず、法的地位に争いのない日本のEEZだ。だが、「しなくてもよかった1998年9月の政治的妥協」によって、歴史的に漁業で我が国に人的・物的損害を与え続けていた韓国に対し、資源豊かな45%の区域の排他的権利を事実上、半分分け与えた。

 

大和堆と暫定水域の位置関係。(出典: 鳥取県農林水産部水産振興局水産課)

 

1998年11月の国会では、自由民主党の山中燁子(あきこ)元衆議院議員によって、次のような政府追及が行われていた。

 

「基本合意は、本来我が国の排他的水域である大和堆の大半等を暫定水域として韓国に譲歩している。日本海に旗国主義(注: 日本は日本の漁船しか取り締まれず、日本EEZ内の韓国漁船は韓国のみが取り締まれる仕組み)をとる広大な暫定水域を設けることは、長年に亘る韓国漁船の不法・無謀操業を容認したことであり、現在の『乱獲の海』を一層拡大することにつながる」。

 

この懸念は的中し、大和堆では現在も日本が韓国漁船の漁獲量の規制を行えず乱獲が横行している。また、漁業の権利がない北朝鮮、そして中国漁船までが密漁で乱獲に加わっている。だが乱獲は「症状」に過ぎず、本質は、暫定水域設定による日本の主権の希薄化なのだ。

 

■ エスカレートする韓国の行動

 

さらに重要なのは、ここ数年の暫定水域における漁業秩序の崩れの中で、韓国が日本の排他的EEZを自国の排他的EEZのように看做すようになっていることだ。レーダー照射が起こる前に、その兆候は現れていた。

 

まず、日韓両国には漁獲量や漁獲ルールづくりにおいて意見の相違があり、2016年には互いのEEZへの入漁ができなくなった。2018年8月には同年の漁業交渉を行うための漁業共同委員会の開催が見送られるなど、漁業秩序の裏付けである協力関係が崩れを見せていた。

 

こうした中、2018年11月15日には日本EEZ内の大和堆の暫定水域(能登半島から北西約250キロメートル、竹島の北東約333キロメートルの海域)で、山形県の酒田港に所属するイカ釣り漁船「第38正徳丸」(136トン)と韓国の漁船「3088 Munchang(『文昌』か)」が衝突する事故が起こる。正徳丸側の過失であったようで、文昌が浸水したが、乗組員は近くで操業中の別の韓国漁船に救助され、けが人はなかった。

 

写真)イカ釣り漁船(イメージ)

出典)Frickr;Yamaguchi Yoshiaki

 

だが、この事故は日韓漁船が入り乱れる同海域において、韓国海警の活動がさらに活発化するきっかけを作った。海上保安庁が現場に巡視船や航空機を派遣し、事故原因や当時の状況を調べると同時に、韓国の海洋警察も現場海域に警備艦や救助ヘリを派遣したからだ。

 

その5日後の11月20日、大和堆の暫定水域で操業中の北海道根室漁協のイカ釣り漁船「第85若潮丸」(184トン)が、韓国海洋警察庁の警備艦から「操業を止めて海域を移動せよ」との無線交信を受けた。

 

この海域の緯度や経度は発表されていないが、そこが法的に争いのない日本のEEZであれ、韓国が一方的に主張するEEZと重複する海域であれ、1999年に改訂された日韓漁業協定により、暫定海域において韓国海警は日本漁船を取り締まることはできず、海上保安庁の警備艦も韓国漁船に警察権を行使できない。

 

ところが韓国の警備艦は若潮丸に漁の中止を求め、740メートルの距離まで接近した。ここに至って、一連の無線を傍受していた第9管区海上保安本部(新潟市)の巡視船が割って入り、若潮丸を保護するとともに、韓国の警備艦に「要求は認められない」と無線で通告した。それでもなお韓国海警は、若潮丸の近くに2時間20分留まったという。

 

菅義偉官房長官は11月22日、「韓国側警備艦による日本漁船への一連の行動は、明らかに日韓漁業協定に反しており、わが国としては断じて受け入れることができない」と強い調子で批判した。

 

菅氏によると、韓国外交部からは「慣れない海域での警備のため、現場がルールを理解していなかった」「わが警備艦が日本漁船に管轄権を行使したことは遺憾で、再発防止に努めたい」旨の返答があった。

 

韓国側が誤りを認めたように見えた。だが、韓国海警が暫定水域に関する取り決めを知らないはずはない。事実、この後で韓国の日本EEZ内における治外法権的な主権行使はさらにエスカレートするのである。

 

■ 北朝鮮漁船が関与するインシデント

 

韓国の行動は、日本海における北朝鮮と韓国の接触増加と協力関係の強化とともにエスカレートしている。今回のレーダー照射事件に関して二転三転する韓国の言い分も、実は日本EEZ内における韓国と北朝鮮との接触から目をそらすカモフラージュである可能性がある。

 

まず11月3日、韓国のトロール漁船(84トン)が、「大和堆の近くの海域」で操業をしていたところ、北朝鮮軍によって「拿捕」されたと韓国メディアは報じている。

 

若潮丸事件が起こった海域の近くで、日本のEEZ外かつ韓国EEZ内、韓国と北朝鮮の水域が隣接する「操業自粛水域」で発生した。報道が真実なら、北朝鮮軍が韓国EEZに侵入していたことになる。なお、操業自粛水域は拉致防止と安全のために設定されたものだ。

 

韓国漁船は北朝鮮のEEZ水域へ移動させられたが、2時間後に「南北が和解関係にあるから帰れ」と言われ、解放された。ところが、この韓国漁船は韓国海警に事実を知らせず、その後も懲りずに操業自粛水域での操業を続けた。そして正徳丸の衝突事件が起こった11月15日に、再び北朝鮮警備艇に同水域を追い出されたのだという。

 

これらの北朝鮮による韓国漁船拿捕と日韓漁船衝突事故を受けて韓国海洋警察庁は、警備艦1隻を前方配置し、航空パトロールを週3回に強化した。そうした中で11月20日、韓国海警が若潮丸を日本EEZから追い出そうとしたのだ。日本のEEZが、韓国EEZ内の操業自粛水域のように扱われたわけだ。

 

若潮丸事件は韓国海警の「ルール理解不足」などではなく、暫定水域に隣接する操業自粛水域での韓国漁船拿捕や日韓漁船衝突事故を奇貨に、韓国が日本EEZにおいて治外法権的に行動を始めた象徴的な意味を持つ。

 

韓国レーダー照射事件の本質は、日本の主権が希薄化された日本EEZにおいて、韓国海警や韓国海軍が「主権行使」を行ったということだ。そこには北朝鮮が密接に絡んでおり、こうした大和堆海域における韓国海洋警察や韓国海軍の「主権実力行使」の増加による、将来的かつ継続的な日韓衝突の可能性に留意が必要だろう。

 

次回は、さらに視点を拡げて、今回の事件にまつわる韓国の対応を、「中朝韓の連携による、日本に対する地政学的圧力の一環」として考察する。

 

(その3に続く。その1。全3回)

 

トップ写真)韓国駆逐艦DDH 973

出典)Frickr;Marion Doss


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