植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)

「植木安弘のグローバルイシュー考察」

【まとめ】

・米、新型ウイルスで経済が急速に悪化。

・失業保険申し込み殺到。監視体制設置し救済措置とる。

・米国経済の行方は政治的決断次第。

 新型ウイルスが米国経済に与える影響は甚大だ。ダウ平均株価は、経済の好況を反映して一時3万ドルに達していたが、新型ウイルスの急速な拡大に伴う一連の渡航制限やビジネスの閉鎖に影響され、3月23日の時点で2万ドルを大きく割った。ナスダックやS&P500も同様に4割程度株価を下げている。株価の低下で、米国の資産の喪失は大きい。

トランプ大統領が就任した当時の株価を下回る水準で、法人税を35パーセントから20パーセントに大幅に切り下げ好況の要因を作った成果が元の木阿弥となった。

 3月に入って急速に拡大した感染により、ワシントン州やカリフォルニア州、ニューヨーク州などが相次ぎ多くの人数が集まる空間を規制したことにより、レストランやバー、ショー、イベントなどが次々に閉鎖に持ち込まれ中小企業や事業者には大打撃となった。さらに、航空制限が中国から新たな感染源となった西欧諸国まで及ぶと航空業界だけでなく、ツーリズムや娯楽産業にも大きな打撃を与えた。米国最大の航空機製造会社ボーイングは、3月23日ワシントン州の工場を二週間閉鎖することを発表したが、これにより7万人の従業者が一時休業となった。同州での従業員30人以上が感染したためとしているが、受注が大きく減少していることもある。このような状況は全国に広がっている。

画像)閉鎖されたインペリアルビーチ (カリフォルニア州)(C)Japan In-depth 編集部

 この経済の急速な低下により、解雇や一時解雇(レイオフ)による失業保険の申し込みが急増し、労働省の統計によると、3月10-14日の週だけでも新たな申し込みが7万人となった。全体で28万人規模だ。この傾向は急激に加速し、僅か一週間後に何と330万人に上った。驚異的な数字となったが、さらに増えることが予想され、特に、中小規模の企業や事業者への打撃が多いことが分かる。連邦準備銀行は、第2四半期の失業率は30パーセントに達するとの予測を出している。これは1930年代の大恐慌時以上と言われている。

このような状況を受け、連邦準備制度(FRB)は既に金利をほぼゼロに引き下げ、さらに量的緩和の再開を決めていたが、3月23日、量的緩和を無制限にし、国債や住宅ローン担保証券(MBS)を必要なだけ買い入れることを発表した。これにより、大小企業や消費者の資金繰りを支援することを狙っている。追加措置も加えると、総額5,000億ドルにのぼる。

 一方、米議会は、3月5日に新型ウイルス対策に83億ドルをつぎ込んだが、経済が急落する中、影響が深刻な企業だけではなく、一般市民の救済を目的とした新たな法案を先ず上院が3月26日に採決した。その後下院で承認され大統領が署名すると正式な法案となる。この法案は、トランプ政権・共和党と民主党との間で数度に渡って争われた。共和党案は深刻な影響を受けた特定大企業中心の救済案だったが、民主党は中小企業や個人への支援を強調した。失業保険支給額を巡る一部の共和党議員からの反対もあったが、難交渉の上結局2兆ドル(約220兆円)で妥協が成立した。この額は米国の国内総生産(GDP)の約10パーセントに匹敵する。望外な額だ。

2兆ドルのうち、5,000億ドルが経済困難になった大企業へのローンプログラムに、3,500億ドルが小規模事業者への連邦政府保証のローン資金に、1,500億ドルが州政府や地方自治体へ、1,000億ドルが病院等医療関係への支援に回される。

救済パッケージの目玉の一つが一般市民への直接の現金給付で、年収が7万5千ドルまでの人には大人一人当たり1,200ドル、年収がそれ以上で9万9千ドル未満の場合には順次減額、それ以上の人にはゼロ、子供は一人当たり500ドル給付するというものである。3月23日時点で自宅待機の人口が800万人ともいわれる中、短期的にも現金給付が必要な人達が急増していることによる。

 資金が恣意的に流用されないように、監察長官を任命し、監視体制を設立する。2008年のリーマンショック時の救済金が大企業に流れたことが批判されたことの教訓である。

また、失業保険適用の13週間延長、フリーランスやUber運転手など不定期個人事業者などへの救済策も盛り込まれている。これでも救済額が足りないとの批判もあるが、取り敢えず、緊急の支援策となった。

国際通貨機関(IMF)は、3月23日世界が深刻な2008年のリーマンショック時かあるいはそれよりひどい景気後退(リセッション)になる可能性を指摘した。その場合景気回復は2021年になるという。世界経済を牽引する米国経済がさらに悪化するのか改善するのかは、新型ウイルスをどの時点で食い止めることが出来るかにかかっている。米国の感染者が3月26日の時点で8万人を超え中国を抜いて世界一となり、死者が1000人を超え、さらに急増することが確実な中、劇的な措置で短期決戦をするのか、隔離対策を緩和し長期戦となるのか、政治的決断が必要になってきている。

 

トップ画像)pixabay: iXimus / 105 beelden