朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・韓国の海洋水産部職員が北朝鮮軍に射殺。

・職員殺害にも、文大統領は国連での終戦宣言取り下げず。

・韓国国防部は職員を「越北者(北朝鮮に亡命する人)」と報告。

 

韓国国防部は9月24日午前11時、9月21日11時30分に失踪が確認されていた韓国海洋水産部職員李さんが、小延坪(しょうヨンピョン)島から38Km離れた北朝鮮の黄海南道登山(トゥンサン)岬で、9月22日15時30分に北朝鮮水産事業所船舶によって発見され、6時間後の21時40分に北朝鮮軍によって射殺され、22時11分に遺体を燃やされたとの衝撃的事実を発表した。

チューブと見られる浮遊物に捕まり約30時間漂流していた李さん(47)を、北朝鮮軍は救助せず、洋上に放置したまま審問を続け、結局6時間後に射殺・焼却するという蛮行を働いた。

この一部始終は、韓国軍の傍聴部隊と米軍の偵察機が監視し続けていたという。韓国軍の消息筋は「韓国軍が集めた情報を米軍の情報と合わせ、パズルを完成させたとみていい」と語った。9月22日夜、北朝鮮軍が李さんの遺体に油をかけて焼く場面は、新型赤外線監視装置を通して把握したと見られる。

 

1、救助に動かなかった文在寅政権

しかしその間、韓国政府は、北朝鮮とのホットラインや軍の通信ラインが遮断されているとして何もせずに傍観していた。国際商船共通網、国連司令部チャネル、拡声器など、あらゆる手段で北朝鮮と連絡を取ろうとせず、李さんを救出しようとしなかった。

この事態について韓国国防部は、「射撃情報の信憑性の確認に時間がかかった」、「監視および傍受装備が明るみに出ることを怖れた」、「まさか、北朝鮮が丸腰の民間人を射殺するとは思わなかった」「北朝鮮とのすべての通信ラインが遮断されていた」と弁明した。

文在寅大統領は、9月22日18時36分に、李さんの失踪について国防部から書面での報告を受けていたが、文大統領は動かなかった。李さんを無事に韓国に引き渡すよう北朝鮮側に要請できた時間が、少なくとも3時間もあったにも関わらず何もしなかったのだ。

国防部は北朝鮮と通信手段がないと言っていたが、9月25日には北朝鮮の統一戦線部から韓国の国家情報院に通知文が届いており、その前の9月8日には、文大統領の「親書」が金正恩に送られ、その返書が12日に文大統領に伝えられている。韓国国防部と韓国政府は、北朝鮮との通信ラインがないと真っ赤なウソをついていたのだ。

 

2、文在寅大統領が李さんを見殺し?にした背景

では文在寅政権は、なぜ韓国海洋水産部職員李さんを助けるために動かなかったのだろうか?その背景として考えられるのが、文在寅大統領の国連での映像演説と金正恩との親書交換、そして国防部の「越北者」報告である。

▲写真 韓国と北朝鮮の軍事境界線 出典:パブリックドメイン

自身の国連映像演説

文在寅大統領の国連演説が映像で流れたのは、李さんの遺体が焼かれた3時間後の23日午前1時16分(韓国時間)から15分間だった。演説の中心は、北朝鮮との終戦宣言について国際社会に協力を求めるものだった。それも非核化の前提なしでの終戦宣言という国際社会の主張とはかけ離れものであった。

この演説映像は、15日に録画され、18日に国連に発送されていたが、北朝鮮に強い抗議の意思を伝えるために取り下げることもできたが、文大統領はそれをしなかった。救出行動を起こしていればまだ間に合っていたと思われるが、この演説に水を差したくなかったようだ。結局、李さんの救出行動は放棄され、国防部の発表も遅れる事になった。

そればかりか、その後のツイートでも、「和解と繁栄の時代に前進できるよう国連と国際社会が協力してほしい」とだけ書き込み、李さんが北朝鮮軍によって射殺・焼却されたことには触れなかった。

 

金正恩との親書の交換

文在寅大統領が李さん救出に動かなかったもう一つも背景として考えられるのは、事件の書面報告を受けた2週間前に、金正恩と親書を交換していたことだ。 これは9月25日に徐薫(ソ・フン)国家安保室長によって明らかにされた。

文大統領が9月8日に送った親書では、金正恩委員長の被災地訪問に言及して、「特に国務委員長(金正恩委員長)の生命尊重に対する強い意志に敬意を表する」としている。残忍に人を殺す金正恩に「生命尊重に対する強い意志に敬意を表する」と賛辞を送っているのである。普通の感覚では理解し難いものだ。

これに対して金正恩は返信で、「南側の同胞たちの大切な健康と幸福がどうか守られるよう切に願う」とした。だが、こう記した10日後には、韓国の公務員を銃殺・焼却するという蛮行を指示した。

この二人の感覚は、われわれ常人には到底理解できない。

▲写真 金委員長とプーチン大統領 出典:ロシア大統領府

李さんを「越北者」とした国防部の報告

韓国政府が李さんの救出に消極的だったのは、国防部が李さんを「越北者(北朝鮮に亡命する人)」と報告したことも関係している。

9月24日の国防部の公式発表では、李さんが「靴を脱いでいなくなった点などから考えて、越北しようとした可能性がある」とした。国会報告でも、韓国国防部は李さんを「越北者」の可能性が高いと報告した。

これに対しては遺族が強く反発している。

李さんの兄は「発表で靴が脱いであったとあるが、船内で船員らが履くゴムスリッパで、誰が履いていたものかも分からない。また、ライフジャケットを着ていたから自分の意志で海に飛び込んだというが、ライフジャケット着用は船上では常識だ。そして、越北ならば、自身の韓国での身分を明らかにしたほうが有利なはずだが、身分証も船内に残している。

弟が乗り込んだ船に実際に乗ってみたが、弟がいなくなったとされる場所の手すりの高さは、180cmあった弟の太もものあたりまでしかなかった。誤って落ちた可能性がある」と語った。

また「借金があったなどと言って越北を試みたと報道したメディアもあったが、誰でも生きていれば借金ぐらいはある。2000万ウォン(180万円)ぐらいの借金で家族を捨てて越北するはずがない。その借金も私が原因なので、私が返済すれば解決する問題だ。(政府が)早々に「越北」と発表したことに、今回の責任を個人に押しつけようとする意志が感じられる」 と話した。

付近の住民も「あの辺りは潮流が時計回りに強く回っており、北朝鮮に行こうとするならあんな場所は選ばない」と指摘した。

文在寅大統領は、報道官を通じて北朝鮮の蛮行を非難したものの、いまだに自身の口からこの問題に対する意見を語っていない。9月25日に北朝鮮からの「謝罪」と言われる通知文を受け取り一安心したからかもしれないが、もしそうだとしたら、文在寅は、金正恩の韓国管理人と言われても仕方がない。

トップ写真:文大統領 出典:韓国大統領府