これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日、休日の場合は翌日連載中)。

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昭和56〜57年:34〜35歳

 エンゼルスとのビジネスを正式決定してから、恭平は父親と弟に再度コンビニエンス・ストアの仕組みを説き、その延長線上にひろしま食品の将来が在ることを説いた。

 半信半疑で聴いていた二人だったが、間も無く68歳になる父が口を開いた。

「詳しいことは解らんが、儂はこれから何をすればいいんだ」

「社長は、新しいビジネスには口を挟まず常務に任せ、専売公社と信用組合の従業員食堂の経営だけに専念してください。でも、資金繰りだけは厳しいチェックをお願いします」

「何よりも、エンゼルスとの新しいビジネスで肝心なのは常務だ。常務がどれだけ本気に取り組むかで、ひろしま食品の将来が決まる」

「これまでみたいな中途半端な考えを捨て、エンゼルスのマーチャンダイザー(MD)と品質管理担当者(QC)の指示を守って、美味しくて安全な商品を作って欲しい。私も一日に一回は必ず顔を出すから、困ったことがあったら何でも言ってくれ」

 一瞬、常務の表情に動揺が走ったのを見逃さず、恭平は問うた。

「どうした、何か納得できないことでもあるのか」

 取引開始までの経緯も知らず、このチャンスがどれだけ恵まれたものかも理解せず、目先の自分のことだけを想って不安顔の常務に、恭平は独り善がりな腹立ちを覚えた。

「いや、コンビニエンス・ストアって、専務が言うように本当に伸びるんだろうか。広島のパイレーツの弁当だって、そんなに評判は良くないし…」

「その通りだ。ナイト・ショップと銘打って時間的なメリットだけで店舗展開するパイレーツの弁当は、自社工場で作っている。売り手と作り手が同じ会社だと、どうしても甘えや妥協が生まれる」

「その点、エンゼルスは販売に全責任を持ち、製造は我々ひろしま食品が責任を持つから、相互に甘えや妥協が生じ難く、価値ある商品ができるんだ。もし、万一、弁当が売れなかったら、それは我々の商品力が劣っているからだ」

「でも、店が増えなければ、弁当も売れないんじゃないの…」

「30坪程のエンゼルスの店には、3000品種の商品が揃っている。その使い勝手の良さと便利さで、既に全国11の都道県で1200店舗以上も出店しているんだ」

「広島に出店すれば、間違いなく近い将来には150店舗は期待できる。我が社がやっていた直営店舖は弁当だけの販売、昼だけの営業だったから経費が嵩み、採算が合わず撤退した」

「しかし、エンゼルスとのビジネスにおいては、無駄な販売経費は必要なく、我々はモノづくりに専念すれば良いんだ。シツコイようだが、売れるか売れないかは商品次第、我々次第だ!」