人種差別の少ないロシアで、黒人が別格な理由

第91回アカデミー賞で作品賞を受賞した『グリーンブック』のピーター・ファレリー監督(2019年2月24日撮影)。(c)AFP/A.M.P.A.S/Matt Petit〔AFPBB News〕

 本年2月24日に発表された第91回米アカデミー賞の作品賞はピーター・ファレリー監督作品「グリーン・ブック」に決まった。

 この作品は、がさつで無教養なイタリア移民の用心棒トニーが、孤高の天才黒人ピアニスト、「ドク」ことドナルド・シャーリーの運転手兼雑用係となって、1962年10月から12月にかけて、米南部諸州を巡回したコンサートツアーでの出来事を映画化したものだ。

 筆者は米国南部における黒人差別が本作品のテーマと聞いていた。

 そのため、映画の中で、ドクが演奏仲間とかなり正しいロシア語で会話したり、演奏仲間の名前がロシア名だったりするのに仰天し、そこになぜロシアが出るのか大いに興味をもった。

 そしてその割には、演奏仲間と親密にならないことに戸惑いを感じたりした。

 改めてこの映画の筋書きを見ると、ドナルド・シャーリーは9歳でレニングラード音楽院に留学、クラシック音楽を勉強、そのために生涯、チャイコフスキー、ラフマニノフ、スクリャービンといったロシアの作曲家を尊敬したという。

 米国の文献を確認すると、現実のドナルド・シャーリーは、家族の反対でレニングラード音楽院留学は実現しなかったそうだ。

 しかし、ロシアの作曲家には大変愛着を示し、多くのコンサートでチャイコフスキーをはじめ、ラフマニノフのピアノ協奏曲を米国や欧州の交響楽団と共に演奏し、その録音も残っている。

 実際のドナルド・シャーリーは1929年生まれだから、9歳でレニングラード音楽院に入学すること自体あり得ない。

 また、渡航したことになっている1938年という年がソ連にとりどんな時期だったかを思い返すと、この話は荒唐無稽でしかない。にもかかわらず、当作品においてはロシア、ソ連といった文化が非常に効果的に使われている。


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