(佐藤 けんいち:著述家・経営コンサルタント、ケン・マネジメント代表)

 本日5月5日は「こどもの日」だ。とはいえ、新型コロナウイルスのパンデミックにともない日本国内でも「緊急事態宣言」が発令中である。「不要不急」の外出は自粛するよう要請されていることもあり、例年とは異なる「こどもの日」となることだろう。

 緊急事態宣言は昨日(5月4日)、5月31日まで延長されることになった。ウイルスという「見えない敵」との戦いである以上、仕方のないことだ。本日も“Stay at Home”でいきましょう。

 というわけで、「こどもの日」だから子どもにちなんだ話にしたいと思うのだが、内容は子ども向けの話ではない。子どもたちが集団で誘拐された事件についてだ。それもヨーロッパ中世の話である。しかも、いまから700年以上も前、13世紀の話である。

 ここまで書いてくれば、わかっている人はすぐにピンとくることだろう。ドイツ北部の都市ハーメルンで発生した「事件」のことだ。いわゆる「ハーメルンの笛吹き男」のことである。

 医療活動やビジネスと比べたら、歴史など「不要不急」と見なされがちだが、こんな時期だからこそ、株価や円相場のようにリアルタイムで更新されているコロナ関連情報に一喜一憂するのではなく、「アフターコロナ時代」に向けて、長期あるいは超長期のスパンでものを考えるための機会としようではないか。

 本当は、歴史こそ重要なのだ、という話をしたいと思うのである。

「ハーメルンの笛吹き男」伝説に反映する黒死病

 いまから736年前の1284年6月26日、ドイツ北部の都市ハーメルンで、子どもが130人も集団で失踪するという事件が発生している。これは否定しようがない「歴史的事実」である。

 だが、明らかになっているのはそこまでだ。

 いつ、どこで、誰が消えたのかまではわかっている。といっても、失踪した子どもたちの名前がすべてわかっているわけではない。だが、どのように失踪したのか、どこに行ってしまったのか、なぜ130人も一緒に蒸発してしまったのか、まではわからない。

 まさにミステリーである。謎は謎のまま伝説化されて現在に至る。

 そんなミステリーに挑戦したのが歴史家の阿部謹也先生である。『ハーメルンの笛吹き男−伝説とその世界』(平凡社、1974 文庫版はちくま文庫から1988年)がその成果だ。大学学部時代の恩師なので、敬称つきで記述することをお許しいただきたい。

 この「伝説」は、観光用に再現されていて有名だ。カラフルな衣装を身にまとったネズミ獲り男の寸劇を、現地で実際に見学した人もいるだろう。ストーリーをごく簡単に要約すると、以下のようになる。