そのころ北京に駐在していた私は、この訪中団歓迎の儀式を目前に見て、中国のそれまでの日本への冷たい態度が急変したことに驚いた。その1年ほど前には江沢民主席が訪日し、「日本は歴史から学んでいない」と日本側を叱責して回り、中国の国内では歴史に絡む反日教育や記念行事を盛大にしていたのだ。

 中国側がその時期に二階氏を通じて日本側にみせた唐突な微笑はかりそめだった。中国当局はそれまでの厳しい対日政策の実質はなにも変えていなかったのである。

 では、なぜ中国は唐突に対日融和のジェスチャーを見せたのか。それは、米国の対中姿勢が険しくなっていたからだった。米国の当時のクリントン政権は、中国の台湾への軍事威嚇などを理由に対中姿勢を急速に硬化させていた。日本には日米共同のミサイル防衛構想を呼びかけ、同盟強化を進めていた。

 多数の関係者に聞くと、中国指導部はそんな状況下で日米両国と同時に敵対するのは不利だと判断して、日本にかりそめの微笑をみせたのだという分析で一致していた。中国としては、米国からの圧力を弱めるために、日本を自陣営に引き寄せる策に出たのでる。その戦略の日本側の担い手に二階氏が選ばれたのだとみることができる。

中国への苦情、抗議は皆無

 二階氏は2015年5月にも、自民党総務会長として約3000人の訪中団を連れて北京を訪れた。習近平国家主席とも、親しく会談した。

 中国は、それまで尖閣諸島や歴史認識で日本に対して厳しい言動をとっていた。だから二階訪中団への歓迎は唐突にみえた。

 だがこのころも、米国が中国への姿勢を強硬にしていた。中国の南シナ海での一方的な軍事拡張、東シナ海での威圧的な防空識別圏宣言などに対し、融和志向だったオバマ政権もついに反発し始めた。日米間では新たな防衛協力のための指針が採択されたばかりだった。日米同盟の画期的な強化である。2000年の米中関係や日米同盟の状況と酷似していたのである。

 だから私は、日米中の3国関係のうねりを長年観察した結果として、「米中関係が険悪になり、日米同盟が強化されると、自民党の二階俊博氏が北京に姿を見せる」と書いたこともある。

 トランプ政権の対中対決姿勢が強まるにつれて、中国の日本に対する友好的な言動が顕著になっている。二階氏が2019年4月に北京を訪問して「一帯一路」会議に出席し、習近平主席に安倍首相の親書を渡したのは、まさに上記のパターン通りであり、安倍首相の訪中の露払いだった。

 二階氏は、日本の対中政策でこれほど枢要な役割を長年果たしながらも、中国への苦情や抗議を一度も表明したことがない。中国の尖閣侵略にも、反日教育や反日行事にも、日本人の拘束にも、さらにはウイグル、チベット、香港などでの人権弾圧にも、日本の政治家として公式の場で批判的な主張を述べたことは私の知る限りただの一度もないのである。二階氏が親中なのは政治の師匠だった故田中角栄氏の影響だという説もあるが、完全に中国に服従している様子は異常である。これは一体なぜなのだろうか。

(古森 義久)