「はじめに『漫画の原作になるような、お稲荷さんについての本を書いている人がいる』というお話を聞いたときには、新人漫画家さんやアシスタントさんを紹介するつもりでした。でも、原作を読んでいくうちに“ん? これは人に渡すのはもったいない”って思って、『私が描いちゃおう』と(笑)」

笑顔でそう語るのは、3月25日発売の描き下ろし漫画『稲荷神社のキツネさん』(光文社・町田真知子原作)を作画した、東村アキコさん(44)。

物語の主人公は、仕事にやりがいを見つけられない旅行代理店勤務のサラリーマン・井上正助。ある日、稲荷神社にお参りに行くと、不思議な“キツネさん”に声をかけられる。そのキツネさんからお参りの心構えや、お金儲けの方法を指南してもらい、自身の“才能”に目覚めていくーー。

『偽装不倫』『東京タラレバ娘』など、多くの人気作を生み出した東村さんが、今回なぜ『お稲荷さん』を描くことになったのか。

「3年ほど前から習っている茶道がきっかけなんです。一緒にお着物や歌舞伎を見に行ったりするような、和の文化に詳しい知り合いがいっぱいできると、不思議と“お稲荷さん”という言葉を聞くようになって」

その茶道仲間から紹介されたのが、今作の原作を務めた神託コンサルタントの町田真知子さんだ。原作を読んで気づかされたことが多かったという東村さん。

「ふと自分を見つめ直したり、手を合わせて感謝をしたり、不安を和らげてくれたり……そういう心のよりどころって、やっぱり必要だな、と思って。“そんなの関係ない”っていう強い人間は、ホリエモンぐらいですよ(笑)。『儲かりますように』って神社にお願いするのも、バチあたりじゃないかと思っていましたが、そもそもお稲荷さんは商売人のためにある。だから、“全然アリ”ということもはじめて知ったんです」

アシスタントと協力のもと描き進めるようになってから、東村さんはお稲荷さんの“力”を間近で感じることに……。

「ある新人漫画家の男のコがおさい銭として1,000円くらい入れて、“連載を取ります”ってお参りしたら、帰り道に突然、編集者から連載依頼の電話がきたんです! これはすごいって(笑)」

極めつきは、何本もの連載を持つ東村さんが今作の“締切り”に悩まされているときのこと。

「“この日に仕上げないと、本当にやばい!”という日になっても、やっぱり終わらない。もういっそ後回しにしちゃおうかな……そう思った途端、仕事場の全てのパソコンからタブレットまで、デジタル機器の調子が悪くなってしまったんです」

東村さんとアシスタントがさまざまな漫画に使うため、数百枚ほど描きためていた背景の素材イラスト。そのデータが、ごっそり消えてしまったのだ。

「でも、お稲荷さんにまつわるような神社、稲、そして田んぼのデータだけは残っていて……。『これはお稲荷さんが“続きを描け”って怒っているんですよ!』とみんなが言いだすもんだから、あきらめかけていた原稿を必死で描き上げたんです。ウソみたいな話に聞こえますけど、これ、マジですからね!(笑)」

稲荷神社へお参りをはじめてから、代表作『東京タラレバ娘』が“漫画界のアカデミー賞”といわれる米国のアイズナー賞(最優秀アジア作品賞)を受賞した。

“お稲荷さんパワー”のおかげで絶好調! と笑う東村さんが次に狙うのは……?

「やっぱり、この『稲荷神社のキツネさん』を実写映画化してほしいですね。ちゃんと2時間の映画になるように、サイドエピソードも作りますから、関係者のみなさま、お願いします!(笑) 主人公は、誰に演じてほしいかなぁ……。西島秀俊さんとか、ポワンとしたムードのある俳優さんに演じてもらえれば最高です!」

「女性自身」2020年4月7日号 掲載