社会問題となっている「あおり運転」を取り締まるため創設された妨害運転罪などを含む改正道交法が30日、施行される。事故を誘発するような危険な行為の摘発につながると歓迎の声が強い一方、どんな行為が取り締まり対象になるかという疑問もある。専門家は焦って運転するような状況では「誰もが加害者になりかねない」と警鐘を鳴らしている。 「事故を起こすかもしれない、暴力を振るわれるかもと思って、本当に怖かった」。群馬県みどり市の40代男性は昨夏、県外に出張する高速道で被害に遭った。追い越し車線に進路変更したところ、後ろから高級車に猛スピードで迫られ、パッシングやクラクションを繰り返された。車列の切れ目を見つけて走行車線に戻ったが、高級車は前に割り込んできた。蛇行したり、時速約40キロまで減速したりと嫌がらせは10分以上にわたった。男性は「常軌を逸したあおり運転の厳罰化は大賛成」と改正法を歓迎する。■違反行為10項目 あおり運転はこれまで法律上明確な定義はなく、警察は主に道交法の「車間距離不保持」で摘発。状況に応じて、刑法の「暴行罪」や自動車運転処罰法の「危険運転致死傷罪」を適用してきた。今回の改正道交法では「通行を妨害する目的で、交通の危険を生じさせる恐れのある違反行為」と定義した。他の車両の通行を妨げる目的で車間距離を詰める行為や不必要なクラクション、幅寄せ、急ブレーキなど10項目の違反を明示した。罰則は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」。 高速道で相手の車両を停車させるなど「著しい交通の危険」を生じさせると、「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」とさらに重い罰則を科す。 いずれも違反1回で即時に免許取り消しになる。再取得が可能になるまでの欠格期間は、酒気帯びや酒酔い運転と同様に2、3年。妨害運転するようドライバーをそそのかせば、同乗者らも免許取り消し処分となる。■積極取り締まり 妨害運転罪の創設について、群馬県警は「重い罪だと知ってもらい、あおり運転の抑止につなげる意味合いがある」と説明する。施行後は、あおり運転の対象10項目をはじめとした違反行為を積極的に取り締まる方針だ。パトロールを強化し警察官による目視で取り締まるほか、車載のドライブレコーダーや街頭の防犯カメラの映像といった証拠も活用していく。 乾いた路面でも、時速40キロの車が急ブレーキで停止するのに22メートル、100キロでは112メートルほどかかるという。県警交通企画課は「十分な車間距離を取っているかなど、自らの運転を再確認し、これまで以上に安全運転を心掛けてほしい」と呼び掛けている。◎危険行為映像 証拠に ドライブレコーダー自衛手段として需要 30日に施行される改正道交法を巡り、高崎経済大の岸田孝弥名誉教授(交通心理学)は、あおり運転をする人は攻撃的な気質の傾向があり、運転時にイライラした状態にあると説明。ドライバーが時間に追われて急いでいたり、同乗者にせかされたりすれば、こうした心理状態に陥りやすいとして「誰もが加害者になることがある」と指摘する。時間と心に余裕を持った運転が大切だという。 あおられた場合の自衛手段は、(1)複数車線では走行車線を走る(2)ドライブレコーダーを活用する(3)相手に停車させられるなど危険を感じる前にドアをロックする―と助言している。 ドライブレコーダーの需要も高まっている。県内にも展開するカー用品店のオートアールズ(埼玉県本庄市)では、2017年の東名高速で親子らが死傷した事故、19年の常磐道での停車強要事件などを受け、ドライブレコーダーの販売数は増加。新型コロナウイルス対策で外出自粛が目立った3〜5月は販売数が落ちたが、6月に入って徐々に回復。あおり運転の厳罰化に伴い、今後さらなる需要を見込んでいる。 車両の前後撮影や、自車内を含む360度を撮影可能な機種が好まれている。同社経営企画部の古川淳一さんは「ドライブレコーダーの必要性を感じている顧客は増えている。映像が証拠にもなるので活用してほしい」としている。◎「軽車両」の自転車にも刑事罰を適用 30日施行の改正道交法と同施行令。あおり運転の取り締まり対象は自動車だけではなく、「軽車両」に当たる自転車にも適用されるようになる。 同施行令は、自転車による自動車やバイクに対するあおり運転を「危険行為」と規定。 (1)逆走して進路をふさぐ (2)幅寄せ (3)無理な進路変更 (4)不必要な急ブレーキ (5)ベルをしつこく鳴らす (6)車間距離の不保持 (7)追い越し違反―の七つの行為を想定している。 自転車による違反は、現場の警察官の判断で指導や警告にとどまるケースもあるが、14歳以上は逮捕や書類送検の対象となり、起訴や裁判を経て懲役刑や罰金といった刑事罰を受けることがある。 同施行令は2015年、自転車による「危険行為」として、信号無視やスマートフォンを使用しながら事故を起こすなど安全運転義務違反などの14項目を指定。今回の改正であおり運転に当たる「妨害運転」が加わる。刑事罰とは別に、14歳以上は、危険行為を3年間に2回摘発されると安全講習の受講が義務付けられ、受講しないと5万円以下の罰金となる。《情報をお寄せ下さい》 上毛新聞「みんなの疑問 特別取材班」は、読者からの情報を基に記者が調査報道に当たり、社会や地域の課題解決を目指します。 素朴な疑問や地域の困り事、不正の告発といった情報をお寄せください。投稿フォームのほか、郵送やファクスでも受け付けます。情報源の秘匿は厳守します。誹謗(ひぼう)中傷を含んだり、裁判で係争中だったりする内容などは取材できない場合があります。 投稿フォームはhttps://www.jomo-news.co.jp/ad/form/houdou/question/。郵送は〒371-8666 前橋市古市町1-50-21。ファクスは(027-251-4334)。住所、氏名、電話番号、メールアドレスを明記してください。宛先は上毛新聞「みんなの疑問 特別取材班」係です。