この4月から放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』は、日本初の女性弁護士である三淵嘉子氏をモデルにした主人公・猪爪寅子(いのつめ・ともこ)が激動の昭和を生き抜くリーガルエンターテインメント。法学を志し、明律大学で学びながら当時の慣例に「はて?」(主人公の口ぐせ)と立ち向かう寅子の姿を伊藤沙莉が秀逸に演じ、大きな注目を集めています。伊藤の熱演が光る一方で、その熱量を受け止めている2人の男性にも注目です。

“手ごわい”先輩・松山ケンイチ

 桂場等一郎(松山ケンイチ)/『虎に翼』© NHKまず第1週目から“手ごわさ”を感じさせた松山ケンイチ。司法の独立を重んじる気鋭の裁判官・桂場等一郎(かつらば・とういちろう)を演じています。

松山といえば、主演から脇まで幅広い役柄を演じてきており「憑依型俳優」「カメレオン俳優」として名高い俳優ですよね。2012年の大河ドラマ『平清盛』で主演も務めていますが、意外なことに朝ドラは本作が“初出演”。出演発表時には「僕は15年前から朝ドラに出演する事を目標に俳優活動を続けてきました」とコメントしています。

今回の桂場は、堅物で腹の内を決して見せずつかみどころのないキャラクター(実は甘党)。その当時、参政権すら持ち得なかった女性が、法律を学ぶことに疑問を抱いており、現実的な視点をもって、寅子に立ちはだかってゆく存在となるでしょう。

堅物男をチャーミングに魅せる顔芸

第2話の夜学で教鞭をとっている登場シーン。第一印象は「やたらいい声だなぁ〜」と。よく考えれば、それもそのはず。裁判官なのだから。現時点で、松山が裁判官として法廷に立つシーンはまだありませんが、あの声で判決を読まれたら納得するしかないだろう! というほど“いい声”です。早くそのシーン観たい!(……あるか分からないけど……いや、あれ!)

一方で、表情は本当に堅物そのもの。誰の前であっても感情を読み取らせない、“無”(決してぼんやりではない)です。しかし、常に無表情で理路整然と意見を述べているからこそ、想定外の返しや出来事に驚く表情はギャップが激しめ! 第3話で、法律的に妻は<無能力者>とされている理由を寅子に説明した桂場。その説明に「はて?」と疑問を投げかけた寅子に対し、「はて?!」と返した顔よ!



なかなかお団子が食べられないもどかしさ

そしてなんといっても、第5話の甘味処のシーン。好物のお団子を食べようとした桂場は、寅子にさえぎられ法律を学ぶために母をどう説得したらよいか相談されました。桂場は、女性にとっての厳しい現実とともに、自分も寅子が法学を学ぶことに反対であり、「甘やかされて育ったお嬢さんは傷つき泣いて逃げ出すのがオチ」と諭します。その瞬間、寅子の母・はる(石田ゆり子)が突如現れ、「女の可能性の芽を摘んできたのは男」であり、無責任に娘の口を塞ごうとするなと返り討ちに。そのときの「お母さん?!」と驚き、あっけにとられた松山の面持ちったら!!

そんな表情の緩急に、なかなかお団子が食べられないもどかしさも相まって、一気に松山の虜になってしまいました。第3週は“出番なし”でしたが、次の登場が楽しみでならないのは、筆者だけではないはず! ちなみに甘いものを目にした際の、絶妙な表情の変化も見逃せません

扱いが残念な書生・仲野太賀

もう一人注目なのはやはり、寅子の家に下宿する書生(=勉学中の若者)・佐田優三(さだ・ゆうぞう)を演じる仲野太賀です。昼は銀行で働き、夜は大学で勉学に励んでいる優三。早くに両親を亡くしており、弁護士だった父に憧れて夜学に通うも高等試験(現在の司法試験)にはなかなか合格できません。寅子にとっては、気負うことなく言いたいことが言える相手です。

 佐田優三(仲野太賀)/『虎に翼』© NHKこの優三、作中での扱いがちょっと雑なのが面白い。登場した第1話では、寅子の兄・直道(上川周作)から、勝手に「寅子は下宿している書生(優三)との許されざる恋に落ちている」と推測されるも、寅子にきっぱり「違います」と断言される残念さ。

優三の人生における大事な高等試験の結果も、第2週冒頭には「お察しと思いますが、優三はまた試験に落ちました。今でいう司法浪人生活2年目に入ります」と、ナレーションされ、第3週冒頭には「ちなみに雄三さんはまた試験に落ちました」とまたもナレーションで、しかも早口で報告される始末。



絶妙な受けの間合いにセンスが光る

残念な扱いを受ける上に、書生という立場からも、あまり発言をしないキャラクターですが、仲野はしっかりと存在感を放っています。

仲野といえば、高い演技力をもって、シリアスからコミカルまで幅広い作品で実力を認められてきた俳優です。過去に5作品もの大河ドラマに出演しており、2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』では初主演・豊臣秀長役が決まっています

俳優・松尾諭のエッセイを原作とした連ドラ『拾われた男 LOST MAN FOUND』(2022年)でも主演を務めており、伊藤沙莉とは夫婦役で共演。ふたりの掛け合いがとても印象的でした。『虎に翼』においても、仲野は少ない台詞と表情の変化で伊藤の芝居を受け、物語にいいテンポを生み出しています。

優三の存在は、物語の“癒し系”として欠かせない

筆者が好きなのは、第10話の猪熊家での朝食シーン。仲野はほぼしゃべらずに、笑いを誘いました。「高等試験を受ける日がきたら、私は必ず一発で合格してみせます」と意気込む寅子の横で、試験に落ちたばかりの優三は徐々に表情を曇らせしくしくと泣きはじめます。「一発かどうかは重要ではないけれど」「受かるまで何度でも受ければいい」と、周囲の必死のフォローを受け、徐々に泣き笑いに。台詞が少なくとも、伊藤をはじめとする周りの芝居を、仲野が豊かな表情で引き立てているのです。

第13話では、寅子たち女子部による法廷劇の最中に乱入してきた男子学生に、同級生・よね(土居志央梨)が突き飛ばされたシーンでは、肉体的に伊藤を受け止めました。怒った寅子が男子学生にネコパンチをお見舞いしようとしたのですが、体を張って守ろうとした優三がもろに受けてしまったのです。そのときの顔ったら……笑(ちなみに仲野は前述の『拾われた男 LOST MAN FOUND』でも、伊藤のグーパンチで吹き飛ばされています)。そんな優三の存在は、もはや物語の“癒し系”として欠かせません。



ついに“第3の男”も登場。岩田剛典

松山も仲野も、その実力を存分に発揮して本作を盛り上げています。どちらの役も“いい味”を出しすぎていて、登場するごとに惹かれずにはいられません。そして、第15話のラストから待望の岩田剛典が登場! 社交的で、寅子たち女子学生と行動を共にする男子学生・花岡悟(はなおか・さとる)を演じます。

 花岡悟(岩田剛典)/『虎に翼』© NHKまた個人的には、岩田と同じく男子学生の轟太一を演じる戸塚純貴にも注目しています。2023年のドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)でオードリー春日役を演じるなどメキメキ頭角を現してきた戸塚。

岩田・戸塚らの登場により、ますます盛り上がる『虎に翼』。寅子を中心とした個性的な女子学生たちが熱く邁進していく様子はもちろんですが、選び難き朝ドラの推しメンたちの活躍にも期待が高まります。

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201