<文 中島早苗(東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長)>

皆さんは普段、ラジオを聞きますか?

車に乗る方は運転しながら聞くかもしれないが、都民は車を持たない方も多い。私にとってもラジオは、家に居て、好きなプログラムがある時に聞く、という感じだ。

けれどラジオは一旦つけると、その心地よさを思い出させてくれる。定時にニュースや天気予報が入り、懐かしい音楽が流れ、パーソナリティの声もだいたい穏やかで耳に優しい。仕事中につけっ放しにしていてもじゃまにならない。

そんなラジオをめぐる近年の変化と言えば、地域の放送「コミュニティFM」が増えたことだ。コミュニティFMは1992年の放送法改正によって誕生、2019年12月現在、全国で332局となっている。

市区町村単位の狭い地域に向けて配信するコミュニティFMの主な役割は三つ。「地域密着」「市民参加」「防災・災害情報」である。1995年の阪神淡路大震災では、被災地域に住む外国人を対象にしたコミュニティFM局が開設され、災害情報の提供に大きな役割を果たした。

近年は関東地方でも台風被害の激甚化などにより、自分の住む地域のリアルタイムな災害情報が求められる。そこで今回、私の地元に近いコミュニティFM、「FMしながわ」の生放送現場を取材させてもらうことにした。

FMしながわのスタジオで、左が「ほっとラジオしながわ」パーソナリティの原つとむさん、右がゲストで品川区役所総務部の野口武之さん FMしながわのスタジオで、左が「ほっとラジオしながわ」パーソナリティの原つとむさん、右がゲストで品川区役所総務部の野口武之さん

緊急時には防災無線と連動

FMしながわは88.9MHz。品川区と、大田区の一部でラジオ放送を聞けるほか、スマホやPCを使ってJCBAインターネットサイマルラジオでも聞くことができる。

地域の話題や行政情報、音楽番組を毎日24時間放送中。1時間毎に天気・交通情報が流される。FMしながわとして特色の濃いプログラムは二つ。月曜から金曜の11時から30分間(再放送は22時から)の「ほっとラジオしながわ」と、金曜正午からの「シナガワンラジオ」だ。

今回は品川区提供の「ほっとラジオしながわ」火曜の「こんにちは!区役所です」の生放送番組を見せてもらった。他の曜日も、例えば週末のお出かけスポット紹介など、品川にこだわった話題を放送中だ。

取材当日火曜のパーソナリティはTOKYO FMなどでも活躍中の原つとむさん。そして今日のゲストは、品川区役所総務部の野口武之さん。今年制定35周年を迎える「非核平和都市品川宣言」について紹介するのだという。

生放送前、スタジオでリハーサルする原さん(手前)と野口さん 生放送前、スタジオでリハーサルする原さん(手前)と野口さん

原さんも野口さんも品川区民だ。本番前に、このFMしながわや、品川区の暮らしについて聞いてみた。

原さん 「自分はパーソナリティですが、同時に一区民としての視点も持ちながら参加しているという感じです。毎回放送する中で、新しい情報に出会い、何十年住んでいても知らないことが多い点に驚かされます。品川区は都会だと思われがちですが、下町情緒もあって、治安もいい。意外に物価も安いし、住みやすいですよ」

野口さん 「親が住んでいたので、生まれも育ちも品川区です。今は2歳と6歳の子どもがいるのですが、子育て応援の施策が多いと思います。図書館や児童センターも充実しています」

お二人にそんな話をしてもらっているうちに11時になり、生放送が始まった。スタジオ隣りのサブ調整室からモニターを通して放送の様子を見せてもらう。サブ調整室ではディレクターの信田沙織さんの指示に従い、音響の古谷慎治さんが音楽などを流していく。

原さんのトークに、あらかじめ収録された区内の小学生が将来の夢などを朗読する「ミライ作文」、区民が「私の好きな品川」をコメントする「街の声」などのコーナーが挟まれる。そして、今猛威を振るいつつある新型コロナウイルス感染症拡大防止への注意や、防犯ブザー無償配布のお知らせに加え、警察等からの振り込め詐欺への注意喚起を呼びかける「品川インフォメーション」が入る。まさに市民参加、地域密着、防災情報という、コミュニティFMらしさ満載の30分間だ。

生放送が無事終了した後、ディレクターの信田さんと、編成制作担当の有賀郁子さんに話を聞いた。

サブ調整室で。手前がディレクターの信田砂織さん、奥が音響の古谷慎治さん サブ調整室で。手前がディレクターの信田砂織さん、奥が音響の古谷慎治さん

FMしながわ開局は2019年6月。区民生活に寄り添う地域限定のコミュニティFM局として誕生した。緊急時には品川区防災無線と連動し、J-ALERTや目黒川・立会川の水位、震度4以上の地震などの情報が割り込まれる。

信田さん 「去年の台風の時は、品川区の防災無線と連動しての放送が増えました。都市部は防災無線を流しても、ビルに反響したりして、区民の方の家々では聞きにくい。それが、去年の台風の時は『ラジオからクリアに聞こえてよかった』などと住民の方から直接言ってもらえて、役に立っているんだと嬉しくなりました。災害時だけではなく、日常から地域の方に聞いてもらえる、区民に寄り添える身近なメディアであればいいなと思っています。できれば日頃から、BGM的に流してもらえると嬉しいです」

有賀さん 「私は品川区の職員で、FMしながわの立ち上げから現在も、編成制作に携わっています。区の職員は、このラジオに出ることによって、区のやっているサービスについて知らない人に、発信することを覚えるという面もあります。役所は残念ながら、自分から情報を求めて来ないとなかなか必要なサービスを知る機会がないのが実状ですので、地域の方はぜひこのラジオを聞いて、多くのサービスがあることを知っていただきたいです」

確かに、防災無線は都市の家々では聞きにくい。集合住宅で防音ガラスを閉めて生活しているとまず聞こえないし、窓を開けて聞こうとしても、どこかからかすかに放送が流れている...ぐらいな聞こえ方でしかなく、内容までは理解できないことがほとんどだ。

 

突然大雨が降って洪水が発生したり、突風が吹いたりなど、都市でも自然災害に見舞われる危険が増えてきた昨今。自分の地域のコミュニティFMをうまく活用して、来たる災害に早めに備えたい。

スタジオに隣接するサブ調整室でモニターを見ながらミキシングなどが行われる スタジオに隣接するサブ調整室でモニターを見ながらミキシングなどが行われる

ところで、これまで2年近く書かせていただいたこのコラムは今回が最終回です。お読みいただき、誠にありがとうございました。

中島早苗
今回の筆者:中島早苗(なかじま・さなえ)1963年東京墨田区生まれ。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「モダンリビング」副編集長等を経て、現在、東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長。暮らしやインテリアなどをテーマに著述活動も行う。著書に『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)、『建築家と造る 家族がもっと元気になれる家』(講談社+α新書)、『ひとりを楽しむ いい部屋づくりのヒント』(中経の文庫)ほか。