いよいよ今春スタートした5Gサービスでは、ユーザーに近い場所で、負荷の高い処理を担う「エッジコンピューティング」が導入される見込みだ。

 エッジコンピューティング向けのGPUを手掛けるNVIDIA(エヌビディア)主催のオンラインセミナーで、KDDI、NTT東日本、ソフトバンクがそれぞれの立場からエッジコンピューティングの考えを語った。

ソフトバンクの「GeForce Now」、MECはどこに置くべき?

 手元のスマートフォンで処理しきれないハイエンドなゲームを、エッジサーバーで処理して、遅延を抑えながら楽しめるようにする「GeForce Now」。NVIDIAが提供するサービスだが、国内では、ソフトバンクとauがアライアンスパートナーとなっており、6月からソフトバンク版の「GeForce NOW Powered by SoftBank」の提供が開始されている。

 正式サービス前に提供されていたベータテストで、興味深い傾向が見えたと語るのはソフトバンク クラウドゲーミング技術課課長代行の矢吹歩氏。「パワフルなゲーミングパソコンをリモートデスクトップで貸し出すようなサービス」(矢吹氏)というGeForce Nowでは、通信の品質が重要。高速大容量で低遅延を特徴とする5Gにはピッタリなサービスだ。

 矢吹氏によれば、携帯電話会社として、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)装置をどこに置くかをまず検討したという。たとえばインターネット上に置くと、どうしても遅延が大きくなる。しかしソフトバンクの基地局そばに置くといった場合ではサービス提供エリアが限られ、ソフトバンクユーザーしか利用できない。そこで、モバイルネットワークとインターネットの間に設置したという。

 その結果、全国的に遅延を抑えられることがわかった。40ms(ミリ秒)をひとつの基準として、東京に設置した装置(POD)ではどうだったかというと、10〜20ms前後の利用環境が多いことがわかり、「ソフトバンク以外のISP以外の人も満足してもらえる品質だったのではないか」と矢吹氏は振り返る。

 ただ、東京に装置を置いたことで、北海道や九州など、物理的に遠いところほど遅延が大きくなることがわかり、今度の課題になった。

 また、矢吹氏によれば、携帯電話経由のアクセスの場合、4G(LTE)よりも5Gのほうがより低遅延にできる見込みという。LTEでは、ネットへの出入り口はEPCと呼ばれる装置を必ず経由することになる。このEPCは国内では東西に2カ所設置されている。もし北海道にエッジサーバーを設置していても、いったん東京の装置にアクセスしてから北海道のエッジサーバーを使う、ということになりかねない。そこで、ひとまずの対策として、大阪にもエッジサーバーを追加することで、西日本側のユーザーの遅延を抑える仕組みを導入することになった。

 これが5Gになれば、より基地局に近い装置(UPF)からエッジサーバーへアクセスできるようになる。地域ごとにエッジサーバーを置けば、その恩恵をダイレクトに受けられる見込みで、矢吹氏は「具体的な(改善効果の)数値はわからないが、5Gで遅延を短縮できる。5Gは地域ごとに低遅延接続が可能になる」とアピールした。

KDDI

 2020年3月26日にスタートしたauの5Gは、JAL、日立物流、JFEなど法人企業での拠点を5Gエリア化。

 KDDI サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長の野口一宙氏は、法人での通信の活用例として期待されるIoTは、もともと小さなデータを扱うものだったが、画像解析技術の進展で、大容量データを扱うことになり、5GとIoTの結びつきが強くなると指摘する。

 具体的に期待されるのは、高精細な画像をAIで分析するというソリューション。AIによる画像解析が発達したことでニーズが増えており、大容量な画像/映像データを5Gであれば運びやすくなる、という見立てだ。そこでKDDIでは、通信手段である5Gに、カメラなどのデバイスを組み合わせ、AI分析と連携する、というトータルでのパッケージの提供を重要視。データの収集から新たな価値を提案、生み出し、次のビジネスへ繋げるリカーリングモデルを標ぼうする。

 これまでもローカルで画像解析は実施されてきた。5Gでは、その処理をクラウド側で担える。つまり最新の解析技術をよりスピーディに適用できる。ただし、課題は遅延。クラウドとエッジで役割分担して、クラウド側で学習能力を高めつつ、エッジでその最新のアーキテクチャを適用する、という形だ。

 クラウドの在り方についても、野田氏は、パブリッククラウド、プライベートクラウドを提供する中で、ネットワークレイヤーにMECを組み合わせてリアルタイム性を確保するという考え方だという。そこで、人口集中エリアからMECを配備する考えを明らかにした。

NTT東日本は通信ビルを活用

 NTT東日本 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 プラットフォーム開発部門担当部長の松本裕氏は、KDDIと同じく映像解析ソリューションなどのニーズの高まりを指摘しつつ、コスト面が大きな課題と指摘する。

 そこで松本氏は「NTT東日本のビルを拠点として活用する。ストレージやGPUサーバーを設置する。必要に応じて(エッジと分担する)クラウドを活用して、高速化とセキュリティを両立する」と説明。映像解析を担うエッジサーバーを、日本各地にあるNTTの通信ビルに設置し、その能力を活かしつつ、安価さとセキュリティを両立させたサービスを実現させたいと語る。

 実証実験として、アクセス回線としてローカル5Gを用いつつ、漁業や河川監視などで検証が進む様子を紹介。今後は、店舗向けに来店客の滞在時間や導線分析、あるいは不審者行動の解析などを挙げていた。

エッジ、クラウド、ネットワークで役割分担

 NVIDIAデベロッパーリレーションズ担当の野田真氏は、エッジコンピューティングについて、昨今のIoTの本格化、5Gの登場で、分散型アーキテクチャーとして注目が集まっていると説明する。

野田氏
「多くの通信事業者が、マルチアクセスコンピューティング(MEC)として展開しようとしている。世界各国で商用サービスが展開されつつある。ネットワークスライシングとの組み合わせでMECの実用性が高まるとして、5GのSA化が進展することで、バラエティに富んだMECが登場する」。

 たとえば野田氏はノキアの資料をもとに、映像を活用するソリューションとして、アクセスコントロール、工業検査、物流、物流などで映像を分析するエッジ処理が広がっていると紹介する。

 そうした中、現在、主流のクラウドコンピューティングでは、処理能力が高いものの、消費電力が高くなるほか、遅延が課題になる。デバイス側で処理しようとすれば処理できる能力に限りがある。その中間であるネットワーク上のエッジデバイスは、遅延を抑えつつ、一定の処理能力が期待できるものの、急激に処理量が増える(スパイク)状況に対応しきれない。

 野田氏は、それぞれで期待される役割、果たすべき役割が異なるとコメント。たとえば車載デバイスには、低消費電力で、小さなデバイスで、スピーディな処理が適しているが、ネットワークエッジでは、周辺のデバイスのデータを組み合わせた推論を処理することになり、一時的なスパイクは上位処理や周辺と分散する。クラウド側では、エッジ全体の俯瞰が適しており、ネットワークやデバイスで行う処理を代理で行うこともあり得ると解説していた。